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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第一部 八兵衛、江戸時代に巻き込まれる。
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14、八兵衛、成りエルフに出逢う。

・成りエルフ云々の部分はある種の隠喩です。

・史実の諸社禰宜神主法度に改変あり。

・元禄年間を起点にしての「1400年前に」起きたエルフ族の日本亡命はとある事柄の暗喩。ネタバレはしませんがヒントは世界史年表に……



あたしが元禄年間の津軽に来てちょうど一月となった昨日、4月13日に西の郭の植物園の普請がとりあえず終わった。

今日は百沢寺別当(ひゃくたくじべっとう)に農工方開所式の神事を執り行っていただいている。

驚いたことに衣冠束帯(いかんそくたい)に身を包んだ百沢寺別当(ひゃくたくじべっとう)は金髪碧眼のエルフだった。

後から聞いた晶さんの話によればこの百沢寺別当は元々は人間だったが、宮司としての日々の積み重ねの結果、心の在り様が人の枠を越えてしまい、結果としてエルフになった成りエルフだという。

米マコモに権八殿が知り合いの寺巫女が回復魔法をかけるだけの話がここまで大きくなったことには素直に驚いたけど、それだけ農工方が期待されているんだと思う。


祝詞奏上(のりとそうじょう)を終えた百沢寺別当が祭文(さいもん)を唱えながら、手を三方(さんぼう)上の(たね)に向かって翳す(かざす)と三方は回復魔法のまばゆい光に包まれた。

三方を銀色に輝く球が包み込み、球が回転しながら音を立てて放電を繰り返している。

光が消えると儀式は終わっていた。




「八兵衛は成りエルフになれるかもしれぬ」


神事のあとで晶さんがとんでもないことを言い出した。


「成りエルフに成れる者は少ないが、八兵衛にはその(しつ)があるゆえできることやもしれん」


突然、何を言い出すのかと思っていると、冗談ではないとの追い討ち。


「それに成りエルフになれば身分はエルフ同様、祠官並(しかんなみ)となる。

 諸社禰宜神主法度しょしゃねぎかんぬしはっとにあるようにな」


晶さんが意味ありげにあたしを見た。

成りエルフになれば身の安全はより確かなものとなると言いたげに。

そしてこの場合の成りエルフとは種族としてのエルフと身分としてのエルフの両方を意味しているという。


種族としてのエルフは三つの身分に分かれている。

この、エルフ種族の身分分化は1400年前に起きたエルフ族の日本亡命以後に漸次(ぜんじ)発生したものだと晶さんは言った。

最初の一つには、神祇官(じんぎかん)並びに巫女である、身分としてのエルフ。

今現在(・・・)の日本において一般的にエルフと云う場合には、この、身分としてのエルフを指している。

二つ目には、修験道との混淆(こんこう)に端を発した、所謂、影働きをする忍びとしてのダークエルフ。

これもエルフという種族における身分の一つ。

三つ目は、純粋に武を求めて兵法の道に生きる者となった兵法者(ひょうほうしゃ)としての身分であるオークエルフ。

これら三者はどれも皆金髪碧眼に白い肌で、発現形質としての差異はどこにもないという。

晶さんによれば伊賀や甲賀、風魔といった忍びの集団もまたダークエルフであるらしい。

そして数少ないオークエルフのほとんどが薩摩の島津家に仕えて禄を食んでいると。


「もう、この世界でエルフが暮らせる国は日ノ本しか残ってはおらぬ」


晶さんはそう、云った。



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