13、八兵衛、柴田勝家の子孫に林檎を食べさせる。
・柴田勝家の子孫云々は昔から津軽の柴田家に伝わる伝承で、本作における創作事項ではないです。
・作中人物である九戸市右衛門云々は別にしても、九戸の乱で亡くなった九戸政実の子孫が津軽家に仕えていたのは事実です。
数日後、ご先祖様からの使いに「農工方の取締が決まった」と言われたあたしは城内へと赴いた。
この前とは別の番士が追手門にいたけどやっぱり晶さんに挨拶をしていた。
番士との話を聞いていると晶さんは早道小頭で100石取りということだった。
「……お呼びとか」
役宅ではご先祖様がお待ちだった。農工方取締となる人を紹介される。
男は柴田権八と名乗った。賤ヶ岳の戦いで敗れて北ノ庄で自害なされた柴田勝家公の御子孫であると云う。
現在は岩木山の東麓、賀田村に住して長男の柴田長兵衛殿が津軽家で士分を得ていると言った。
自身は部屋住みの三男坊で農作業に従事しているとも。
「農工方はとりあえず、権八一人に我が家の与力を一人付けることとする。市右衛門」
ご先祖様の声に応えて襖が開いた。
襖の奥にいた若党が目礼をする。
「九戸市右衛門に御座います」
「権八、市右衛門、お主達には農工方の御役をやってもらう。
この御役はこれからの当家にとって極めて重要な役務となる。
疎漏なきよう、これなる八兵衛と委細面談のうえで事を為すよう取り計らえ」
そう言ってご先祖様はあたしを見た。
権八殿と市右衛門殿に目礼して答える。
「石田八兵衛多也と申します。
このたび、農工方の相談掛をご家老様より申し付けられた者にございます」
そう言って平伏した。
「では八兵衛、権八、市右衛門、任せたぞ。晶は守り役ゆえ八兵衛のこと、よろしく頼む」
「はい。承りました」
ご先祖様が退出なされて一瞬、静かになった。
ご家老様を見送ったあたし達は改めて向き合う。
「では早速本題に入りたいと思います」
権八どのと市右衛門どのが頷く。
「このお役目は将来の御当家の浮沈に関わる大事なお役目になると思います。
そこの所はご承知おき下さりますよう」
言ってあたしはお城の絵図を広げる。
「西の郭の土地を殿よりお預かり致しました。
ここに植物園を作ります。差配は農工方取締の権八殿にお願いいたします」
「承知した」
「田については今年はもう間に合わないと思いますので、今から手がけるのは畑と苗圃になります。
ご家老様が小者を遣わすとのことですので土づくりなどはその者達の手も借りることになるでしょう」
畑にはじゃがいも、にんじん、たまねぎを植えて種子を収穫する。トマトととうもろこしの作付けもできれば今年から始めたい。キヌアは栽培経験を積むために少しだけ植える。
苗圃ではブラックウォルナットとケンタッキーコーヒーツリーの苗木を実生から育てる方針で。
まあそんなところでいいだろう。
問題なのはワイルドライスだ。
「これはマコモの一種ですが、米のようなものが獲られるので米マコモといいますが、種が乾燥に弱く、すぐに発芽しなくなるので播種前に種に回復魔法を掛けておかないといけません」
「ならば私の知り合いに百沢寺の寺巫女エルフがいるので頼んでおこう」
権八殿にこの件はお願いしておく。
マコモを水をしみ込ませた綿に播いておけば発芽はするだろう。
「マコモは堀端に植えて収穫はせずにおきます。合戦などの万が一に備えて株を増やさないといけませんから」
……あ、忘れてた。
通りすがった女中さんに頼んで林檎を切ってもらう。
「あともう一つ、苗圃で育てるものがあります」
権八どのと市右衛門どのに林檎を見せる。
「これを育てて下さい」
そう言って八等分に切られた林檎を皿に載せて二人に差し出す。
爪楊枝を手にした二人はおずおずとした動きで林檎を口に運んだ。
林檎を噛み締めた瞬間、言葉が漏れる。
「甘いッ! なんという甘味!」
初めて食べた晶さんも口に手を当てて驚いている。
ふむ、こんな時のしぐさは女の子っぽいんだな……。
「殿とご家老様には既に御口に入れていただいておりますので、お心置きなくお召し上がり下さい」
晶さんと二人は一口一口噛み締めるようにして味わった。
「殿は林檎を殊の外お気に入りになられ、是非にともこれを当家の特産品にしたいとの仰せにございます」
三人は姿勢を正した。
「林檎は実生から育てて実が生るまで6~7年。接木で5年かかります。
その間、殿にはお待ちしていただくことになります。
殿のご期待に沿えるよう、林檎を当家の特産品にいたしましょう」
あたし達は力強く頷き合った。




