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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第一部 八兵衛、江戸時代に巻き込まれる。
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4、八兵衛、ご先祖様に御家の危機を伝える。(上)



後から聞いたことですが、

その日の深夜、中川小隼人様はご先祖様の命を受けて弘前城に忍び込んだそうです。

津軽家に仕える隠密、早道之者としては弘前のお城に忍び込むのは造作もないことだと云ってました。

警護の者はご先祖様の指図で館神(たてがみ)様の周りでは手薄となっていたそうです。

中川様は本殿に忍び入り、布で包まれた御神像を確認して元に戻し、そっと抜け出してご先祖様の屋敷に駆け込んで一言。


「あの者(※あたしのことです)の云うとおりに御座いました」


「我が曽祖父、石田重成様が関ヶ原の合戦の(のち)、津軽へ落ち延る際に持参致した豊臣秀吉公の木像を二代目信枚(のぶひら)様が弘前城の館神(たてがみ)とされたというわけか」


しばしの沈黙。


「よいか小隼人。このことはお主と(わし)と我が子孫のあの者、三人だけの秘密である。墓場まで持っていくことにせよ。決して徳川に知られてはならぬ」


「御意」


というようなやりとりがあって徳川御公儀や南部の間者との疑いが薄まったそうです。

更に五日後、江戸に居られる御分家御旗本、津軽采女正様からの早馬で浅野内匠頭様御刃傷が伝えられ、あたしの疑いは完全に晴れました。

そして翌日、ご先祖様のお屋敷に呼ばれたあたしは中川様共々お邪魔致しております。


「そちの云う事(いうこと)(まこと)であった」


ご先祖様は少々お疲れのご様子。


「で、これから如何に相成る?」


「御舎弟である浅野大学様の家督相続が潰えた後、浪士となった赤穂の者達が吉良様のお屋敷に討ち入って仇討本懐を遂げられます」


「ではそれを防ぐべきか……」


御家老様は悩まれる。

この事件の影響は同時代の人々が考える以上に大きい。

そのことだけは話しておかないといけないと思った。


「この仇討が後の世に与えた影響は極めて大きいです。この討ち入りによって徳川大公儀の寿命が100年延びたとまで言われる始末にて」


元禄の繁栄の中で武士の綱紀が緩み始めていた中に降って湧いたのがこの赤穂浪士の討ち入りだった。

吉良邸討ち入りによって「これぞまこと武門の誉れ、侍が日頃威張っているのも無理のないことだ」と武士階級を見直す風潮が民衆の中に広がり、赤穂浪士は武家の理想像を体現した神話的存在にまで昇華された。

赤穂浪士は武家の規範となって後世の武士の有り様を規定することとなり、討ち入り義挙は武門の鑑となって、武士を軽視し始めていた民草の心にも武門に生きる者の重みを再認識させることになる。

これが弛緩しつつあった徳川大公儀と武家政権を延命させた。


「徳川の天下が潰れても津軽家中にとってはどうでもよい事。なれど、その後がいけませぬ」


瞑目して考えに耽る御家老様に向けて言葉を重ねる。


徳川を倒した明治新政府は士農工商の身分制度を廃止、四民平等の世の中とした。

維新の志士達は士農工商を廃して四民を武士にしようとしたんだと思う。


でも、そうはならなかった。


士は農工商の町人の中に埋没して消えてしまった。

そうして出来上がった町人の国が明治以後の戦争を戦い、そして敗れ去った。

建前は別として、実際において日本は武を卑しむ国となり、第二次大戦前の時点で、軍人は無駄飯喰いの役立たずと蔑まれ、サーベルが邪魔だと乗車中の市電から一般人乗客によって力ずくで引き摺り下ろされるほどには武が軽視される社会となってしまっている。

その後の敗戦を経て、21世紀になると子供手当てに目が眩んだ国民の投票によって政権交代となり、さらに二年後には震災が起きた。

悪いことは重なるもので、前政権が廃炉決定していた原発の稼動継続を新政権が強行したお蔭で震災時に原子炉が爆発。岩手、宮城、福島、山形と秋田県の大部分が放射能汚染によって居住不可能となる。

こうして順調に与党支持率が急落する中、一年後に発生した富士山の大噴火が民○党政権に止めを刺した。

これら続発する天災への対応の無策ぶりなどによって反民○の動きが全国に広がる状況下、追い詰められた政権は押し付けられた憲法の改正を名目として、憲法の停止と総選挙の無期限延期を発表。

これにより反民○の動きは全国的なデモへと発展、追い詰められた政府与党は自衛隊に鎮圧を命じた。

動乱は日本中に拡大し、事態の収拾能力を失った民○党政権の一部が中国に支援を要請するに至り、日本は中国人民解放軍を交えて反民○と民○党政府で内戦が勃発。

そして、あたしがタイムスリップする一週間前には喜界カルデラがついに火を噴いた……

あたしは目を瞑って過ぎ去った過去を思い返す。


「これが、これから先に起きることでございます」


異様な沈黙が辺りを包み込んだ。



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