7】酸素の化学式はO2です
主婦が集まれば、その話題はたいてい旦那の不満から始まる。
例に漏れず、日頃のうっぷんをママさん達にぶつける加奈。
「それでさ、うちのパパは言うことがコロコロ変わってね(シュゴー)。
“この前と言ってることが違うじゃない!”って私が言うとさ(フシュー)。
“もう少し臨機応変に動けよ!"って逆ギレするんだよ(シュゴー)。
ひどいと思わない?(フシュー)」
腕を組み、イスの背もたれにドン、ともたれる姿は、まさにダースベーダー。
しかし、マスクの大きさの割には肩幅が狭い。
時折、重さでふらふらと頭が揺れる様子に、威厳もへったくれもない。
(『店内なんだから、マスク取ればいいじゃん』という突っ込みはやめていただこう。そんなこと百も承知だが、それでは話が進まなくなってしまうではないか)
「……あ、そ、そうねえ。どこのパパもそうじゃない?」
話を振られたママさんが、気もそぞろに返事をする。
「ふうん。じゃあ、えりママのウチもそんな感じ?(シュゴー)」
「……ん?え、ええ。まあ。」
このママさんも、返事がおかしい。
加奈以外のママたちには、なにやら気になっていることがあるらしい。
おかげで会話に集中できないでいる。
「どこの家庭も同じかぁ(フシュー)。
それにしても理不尽だと思わない?(シュゴー)
その時の気分で意見を変えるなんてさ(フシュー)(シュゴー)(フシュー)」
「ね……ねえ、ゆうママ。なんだかすごく息が苦しいみたいだけど、平気?」
マスクの隙間から漏れ聞こえる空気音が異常にうるさい。
ママさんたちはその音が気になって、気になって仕方が無いのだ。
「ああ、いつものことだから全然平気(シュゴー)。
私さ、肺が弱くってね(フシュー)。
酸素をうまく取り込めない体質でさ(シュゴー)。
つい呼吸が荒くなっちゃうんだぁ(フシュー)(シュゴー)(フシュー)(シュゴー)(フシュー)」
―――だったら、マスクを取った方が楽に呼吸が出来るんじゃない?
その場にいる誰もがそう思った。