6】ピ、ピ、ピ♪(ヒヨコじゃないよ)
「じゃ、店員さん呼ぶね」
加奈がテーブルに置かれている“ホール係呼び出し用ベル”のボタンを押した。
ピンポーン。
店内に音が響く。……が、誰も来ない。
「あれ?気が付かなかったのかな?」
再びボタンを押す。
ピンポーン。
それでも、誰かがやってくる気配がない。
どうやらホール係たちは誰が行くかで、少しもめているらしい。
こんなテーブル、誰だって近付きたくはないのだろう。
「変だなぁ」
加奈は懲りずにボタンを押す。
ピンポーン、ピンポーン。
音だけがむなしく響く。
店員たちはまだもめているらしい。
再三、ボタンに手をかける加奈。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポ、ピンポーン。
ピン、ピンポ、ピンポーン。
ピンポ、ピン、ピ、ピ、ピ、ピピピピピ……。
おかしな電子音が、絶え間なく聞こえ始めた。
「な、何、この音!?」
ママさんたちの顔が不安そうな色に染まる。
ふと見れば、ものすごい速さでボタンを連打している加奈の姿が。
「ちょ、ちょっと!!ゆうママ、何やってんのっ!?」
加奈の隣に座るママさんが、彼女の手をつかんで止めた。
「え?」
突然動きを止められて、戸惑っている加奈。
肩で息をしている。
(息が上がるほど連打する馬鹿がどこにいる?!)
(↑あっ、ここにいたよ……)
「ああ、ごめん、ごめん。つい、熱中しちゃった」
ゲーマーの加奈は、ボタンを見るとつい連打してしまうクセがあるのだった。
結局、加奈たちの席に来たのは小林。
「ホットコーヒを5つでよろしいんですか。6つではなくて?」
小林が聞き返す。
その顔はいつも通りで、すっかり暗黒マスクに慣れたようだ。
この順応性と、懐の深さは本当に素晴らしい。
彼女こそが、ソウルセイバーを持つにふさわしい人物だ。
小林の問いかけに答えたのは加奈だった。
「うん、5つ。私はもうしばらくしたら帰るし」
何気なく加奈が言う。
―――“しばらくしたら”じゃなくて、今帰れ!今すぐ帰れ!そして二度と来るな!!
店内を迷惑以外何物でもない格好で来店しておきながら、ドリンクの一つも注文しない腹立たしさ満点のダースベーダーに向かって、小林は心の中で毒を吐く。
見事な営業スマイルを貼り付けて。
「かしこまりました」
小林はニコッと笑って、その場から去った。
“あの時の小林さん、笑っていたけど、こめかみに何本も青筋立っていたわよ。
ボタンを押すたびに、オーダー打ちこむ機械が『バキッ』っていう音も聞こえたわ”
後日。
通路側に座っていて、小林に一番近かったママさんの一人がそう漏らしていた。




