5】歯は大切に
さんざんメニューを眺めた後、パタンと閉じる加奈。
「みんな、メニューは決まった?」
ママさん達の顔を見回す。
「う、うん。コーヒーにしよう……かな」
「あ、私もコーヒーでいい……」
「私も……」
あれほどじっくりとメニューを見ていたはずなのに、5人が5人とも、ドリンクしか注文しない。
まあ、それも仕方がないだろう。
気色の悪い、このダースベーダーは気になるし。
そのダースベーダーを見ているスタッフたちの視線も気になるし。
とても食欲など湧かない。
「えー。みんなコーヒーだけなの?」
暗黒マスクの下から、ちょっと怒ったような声が響く。
「せっかくランチに来たのに食事しないなんて、大馬鹿だよ!?」
―――大馬鹿はお前だ!!
再び5人が一斉に、心の中で突っ込んだ。
「じゃ、じゃあ。ゆうママは何を頼むの?」
加奈の左に座るママさんが尋ねてくる。
すると、けろりとした返事が。
「あ、私は頼まない。この後歯医者だから、すぐ帰るよ」
それを聞いて、瞬時に固まる5人。
「……は、歯医者?」
「うん、予約入れてあるんだ。だから、食べてる時間はないの」
「な、なら、何で来たの?」
戸惑いの色が隠せないママさんたち。
そんな彼女達の心内など気付きもしない加奈。
「だってぇ、みんな集まるから、顔だけでも出さないと悪いかなって。えへ♪」
脳天気に語尾を弾ませて、そう言った。
―――私たちを思ってくれるなら、来てくれないほうがよかった……。
ガクンと肩を落とすママさん達であった。