第4話 ソロの限界
10層のボス部屋を抜けた俺は、その後も順調に攻略を進めた。
だが15階層まで来たところで、遂に奴を見かけることになった。
そう、オークだ。
夢で見たジェネラルのような化け物ではなく、通常のオーク。だが、見る限り怪我一つない万全の状態だった。
前回俺がオークを倒せたのは、奇跡的に大怪我を負っていた奴の背後を不意打ちできたからだ。
果たして俺に、万全のオークと正面からやり合って勝てるだろうか? でもオーク肉美味いんだよな……。
ただ仮に勝てたとしても、無傷では済まないだろう。
ソロの俺にとって、そんなハイリスクな勝負に挑む度胸はないな……。
結局冷静に身を引き、15層を限界ラインとして、安全に戦える11~15層の間で魔石とドロップを堅実に稼ぐという選択をした。
ここで経験値を稼いでレベルを上げれば、もしかするとオークに対抗できる力が身につくかもしれない、という甘い期待があったのも事実だ。
そして実際、レベルは上がった。
「ステータスオープン」
呟くと、目の前に青白いホログラムのような画面が展開する。
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名前: 豊国 創
年齢: 17
LV: 10
職業: 冒険者学校2年
HP: 50 / 50
MP: 20 / 20
腕力: 20
器用: 20
頑丈: 20
俊敏: 20
魔力: 20
知力: 20
運 : 10
【所持スキル】
『初級剣術 LV3』『気配察知 LV1』
【ユニークスキル】
『?????』(未解放)
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相変わらず、文句の付けようもないド平凡なステータスだ。学校の座学で習う一般例そのものの数字が並んでいる。
だが――俺は途中で思考を止めた。
あれ……? 新しく気配察知が生えてきたのは分かる。ここ最近の実習でも周りを気にしながら行動していたから、そろそろ生えてくる頃だろうとは何となく感じていた。
でも……なんだこの『ユニークスキル』って?
実習前に確認した時には、絶対にこんな項目は無かった。学校の教科書でも「ユニークスキル」なんて言葉は習ったことがない。
『?????(未解放)』となっている以上、何らかの条件があるのだろうが……さっぱり分からん。
どうしたものだろう。少なくとも悪影響は無いものだと思いたいところだが。
うーん。……まあいい。分からない物を悩んだところで答えが出る訳でもないし、何よりダンジョンの中でソロの分際で悩みこんでる方が危険だ。
気配察知がついたことだし、これだけでも今回の実習に参加した意味はあったという程度で考えるのは止めておこう。
未知の項目に首をかしげつつも、今のステータスでは万全のオークと正面から戦えないことだけは再認識できた。
結局俺は、実習終了の時間が迫るまで愚直に周回を繰り返し、15層の転移部屋から1層の集合場所に指定されている広場へと戻ったのであった。
集合場所に到着すると、集まっていた同級生たちの手元を見て俺は息を呑んだ。
皆が持っていたのは、普段食べている味のしない謎チューブとは比べ物にならない、本物の『天然食材』――鮮やかな真っ赤な林檎だった。
林檎。図鑑でしか見たことのない果実だ。
「え……それ、どうしたんだ? 」
思わず近くの同級生に声をかける。
「ん? 創は手に入れてないのか? 16層の中央で林檎の木がポップしたんだよ。クラスルインに入ってただろ? 」
「え……」
言われて慌ててスマホを取り出し、ルインのグループチャットを確認する。
そこには今日の朝、『16層に林檎の木がポップしたから来れる奴来い』と、同級生の一人からクラス全体に通知が入っていた。
ソロで動いている上に、誰からも直接声をかけられない俺は、通知すら必要性を感じず確認していなかったのだ。
時間を確認すると、実習終了までほんのわずかだが時間が残っている。
転移部屋から15層に跳んで、ダッシュで16層に降りれば……!
俺は急いで転移部屋へ向けて走り出そうとした。だが――
「おい、豊国。何をするつもりだ」
背後から冷たい声が響いた。今回の遠征実習に同行している、担任の教官だった。
「16層に……採集に行かせてください! 自己責任で構わないですし、すぐ戻りますから! 」
懇願するように叫ぶ俺を、教官は呆れたように一瞥する。
「駄目に決まってるだろ。すでに実習の終了時刻は迫っている。この時間から下の階層へ降りるなど身勝手にも程がある」
「でも、みんな行ってます! 自己責任で行くって言ってるんだから……! 」
「学校に帰るまでが実習だ! 」
教官の怒鳴り声が広場に響き渡り、周囲の視線が一斉に俺へと集まる。
「いくら冒険者学校とはいえ、教育機関である以上、大きな問題なく連れ帰る責任がある。自己責任などと言うのは身勝手な理屈を正当化するだけの言葉で、何かあれば管理責任として学校と俺の評価が下がる。大人しくしておけ」
ぐっと奥歯を噛み締める。
正論だ。学校という組織としては、教官の言っていることが100%正しい。だからこそ、反論できない自分が余計に惨めで、悔しかった。
「創。一応言っとくけど、もう林檎の木は消えてるぞ。他の冒険者も居たし皆で採集しちまったから、今から行ってももう木は無いと思うぞ」
先ほどの同級生が、良かれと思って教えてくれた。
だが、俺以外の全員が美味そうな果実を手にしている光景を見ると、「なぜルインを確認しなかったのか」と猛烈な自責の念が押し寄せてくる。
「ソロなんて粋がってるから、そういう美味い思いもできないって気付けよなー」
「どうせ一人で調子乗って15層あたりで『俺強ええ』とかやってたんじゃね? 」
声の主は、前回俺がオークを単独で狩った時にイラついていた連中だ。ここぞとばかりに嫌味をぶつけてくる。
俺はソロで粋がってんじゃねえよ……! 組んでくれる奴が居ないだけだっての……!
だから誰か俺とパーティ組んでくれないかと、皆の前で一人でオーク肉を「美味い、美味い」と見せつけながら食ってやったのに……。
俺と一緒なら、こんなにいいこと有りますよと必死にアピールしたのに……。
結局誰も、俺と一緒に潜りたいという奴が出てこなかった。
……俺、頑張ってるよな?
同級生たちの嘲笑が、チクチクと鼓膜を刺す。
俺は固く拳を握りしめ、溢れ出そうな悔しさを胃の奥へ押し込みながら、地上へ出て待機していた学校のバスへと、俯いたまま乗り込むのだった。
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