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男装令嬢、婚約破棄したってよ  作者: こんぺいとう
第二章 男装令嬢と学園生活
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男装令嬢と魔法の授業 〈1〉

大変お久しぶりです。

授業編です。

楽しんでいただければ何よりです。

適性審査も無事に(?)終わった翌日から、ついに待ちに待った授業が始まりました。

期待していた通りの魔法づくしで、流石キャロル公国というべきか、毎日新しいものに出会ってワクワクが止まりません!


……とはいえ、楽しいことばかりかと言われればそうではなく。

まず、校内がとても広い!

授業ごとに受ける場所が違うので、教室から教室へと移動するのも一苦労です。

わたくしが思うに、恐らく授業に一度も遅刻したことのない生徒は居ないんじゃないでしょうか。

……それでも、一週間も経つとよく使う教室は覚えるもので、遅刻者は段々と減ってきているのですけれども。

校内だと、皆さん大抵は寮のルームメイトと行動されていますし、わたくしもその例に漏れません。

ユリイさんがしっかりなさっている上、その彼が曖昧な道でも覚えているレインさん。

そのお二人が案内してくださるので、わたくしとケイさんはついていけばなんとかなっています。

お恥ずかしながら、わたくしはこの年になるまで、一人で外出したためしがほとんどありません(主に人見知りなせいで)。

道を覚えるのは正直苦手なタイプです。

なので、本当に助かっています……!

毎時間、心の中で感謝感激の合掌です。 


さて、授業の合間はどうにかなっても、授業本番にはまだ問題が山積みでした。

毎時間出される課題の量が多い上、そもそも授業自体基礎の内容はわかっていること前提で話が進むので、とてもではないですがついていけません……!

わからなくなるたびに、小さな頃から魔法に触れてきたユリイさんが優しく教えてくださるのですが、それでも毎夜予習復習が欠かせません。

一度でも抜かすと間違いなくついていけなくなってしまいます。

おかげで毎日寝不足気味ですよ……!

わたくしはあくびを一つして、前を歩くユリイさんたちに、小走りで近づきました。 



「じゃ、このカゴの中から一つ、好きな薬草を選んで。ここにある器具はなんでも使っていいわ、教科書を見てもいい。好きなように調合するのもよし。皆さんの力試し、と言ったところかしらね。選んだ薬草を使って、魔法薬を一つ完成させてみてちょうだい」

初回からそんな調子で始まった

「薬草及び魔法薬の取り扱いについて」の授業は、わたくしの数少ない得意分野です。

人見知りで外に出ない間、することも無いので、小説でも専門書でも、本ならしょっちゅう読んでいたからでしょうか(情けない理由すぎて人には言えませんがね!)。

男装するという決心を固めるまでの十数年の間に、ありとあらゆる分野の本を読み漁っていたのもあるかもしれません。

その中には、医療や薬学の本も沢山ありました。

いくら魔法薬だからといって、その根本が変わるわけではありません。

加えて、記憶力もいい方ですので、薬草の種類や調合の手順も覚えられましたし!

……ただ一つ難点があるとするなら、わたくしの不器用さですかね……!

せっかく覚えた手順を実行しようとしても、手を滑らせ魔法薬の入ったグラスを割ったり、上手くより分けられず入れてはいけない薬草が入ってしまったり、殻を取らなければならない薬草の殻が取れなかったり、と実技はことごとく失敗に終わっているのです!

小テストなどは点が取れますのに。

授業が始まり一週間も経つのに、それは未だ改善されていません。

先生にも「貴女、どうしてテストは満点近いのに、毎度実技で事件を起こすのかしら?テストが良いなら、覚えてはいるのよね」と苦笑されてしまいましたし。

あ、そうそう、この科目の先生は、養護教諭と掛け持ちのセレーナ先生です。

大人のお姉さんな先生で見目も大変麗しいですが、その実魔法薬の事となると実験狂と化し、ありとあらゆる生徒に実験台をさせようとするマッドサイエンティストです。

初日の授業もあんな始まり方でしたし、ちょっと……いやだいぶ変わったお方ですね。

……先生としてはわりといい人だと思いますけど……正直、実験台は勘弁です。

噂には、保健室で怪我を治してもらうと、礼として実験台になることを迫られるとも言われています。

これを聞いて、わたくしはより一層怪我に気をつけるようにしています!

とは言え、引きこもっていた分運動神経が欠如しているので、それもなかなか難しいのですが。 


「基礎魔法」は、その名の通り、魔法における基礎を勉強し、実践する授業です。

オリエンテーションの際にライカさんが仰っていたように、適性は一切関係がありません。

例えば物の大きさや色を変えるだとか、何かを浮かばせて操るだとか。

本格的に魔法らしいので、わたくしはこの授業が大好きです。

そうそう、別に魔法には杖やら長ったらしい詠唱やらは必要ないらしく。

意外にも、指を向けて自分のなかでイメージを膨らませ、魔力を放出するというだけのものなのだそうです。

先生が言うのには、物体の周りの大気に流れている魔力と自分の魔力の流れを揃えて、物体に干渉するというのが理屈らしいのですが、この「魔力の放出」というのが難点でして。

わたくしは、いつもそこで躓いてしまうんですよね……。

「魔力」というのがいかんせん目に見えないものなので、いまいち自分の魔力を想像することができないのです。

それでも、しばらく指を向けていると、魔法自体は成功するのですけれども。

ですが、魔法が成功するまで、わたくしがクラスの中では最後から四、五番目くらいに遅いんですよね。

クラスには五十人あまりがいますので、本当に最後の方です。

悔しいですが……どうにもイメージが掴めません!

ちなみにこの教科に関しては、ケイさんが得意とされています。

アドバイスを求めたら、「なんかギューッと集めてパーン!ってまっすぐ出す感じ!」と返ってきたので、かなり感覚派らしいですが。

この教科は、ニコラス先生が担当されています。

ニコラス先生は、落ち着いた佇まいの老紳士です。

いつもとても優しくて、怒ったところを見たことがありません。

上品で、老いを感じさせないのに変に若づくりもしない、尊敬できる方です!

ただ物腰柔らかな分、わたくしが粘りに粘っている所を見るその眼差しが、優しげながらも少し困っているのが感じ取れてしまって辛いのです!!

どうせならストレートに仰っていただくほうがまだマシですよ……。

まぁやっているうちにイメージは掴めてくるでしょうし、努力あるのみですね!

基礎魔法の授業があるたびに、わたくしは気合を入れ直すのでした。 


あらまぁ、かわいらしい。

「適正魔法及び応用魔法」の授業が終わって寮の部屋に帰ると、わたくしは毎回そんな感想を抱きます。

と、いうのもこの授業自体、名前の通り適正についての魔法を学ぶものなのですが、ここで思い出してください、レインさんの適性を。

なんと彼の属性は「花」。

この授業の時だけは受ける教室も担当の先生も全員違うので詳しくはわからないですが、彼は恐らく花に関する魔法を扱っていらっしゃるのでしょう。

ここまで言えば勘の良い方にはお分かりでしょうが、レインさん、この毎回授業のたびに体の何処かにお花をくっつけてこられるのですよ!

適性魔法の授業の後は、授業の内容に引っ張られると言いますか、結構皆さん影響が出るんですよね(わたくしは毎回びしょ濡れになって部屋に帰還します)。

その影響の一環なのでしょうけども、失礼ですが彼の仏頂面に花がくっついているのが、なんとも……!

面白いですし、かわいらしいなと毎度思うのです。

花の種類や数は日によって様々です(この間はタンポポのお花が三個肩あたりに咲いておりました)。

と言っても、先ほど言った通り、適正魔法の授業の影響は、レインさん以外にも出ています。

適正魔法の授業が終わった後ユリイさんに近づくと、室内でもそよ風を感じますし、ケイさんに触れると体につよい静電気が流れます。

彼の髪の毛も、静電気によって普段に増してふわふわもこもことなさっていますし。

そうそう、この授業の担任は、なんとわたくしが適正審査で出会ったあの先生(名前はトーマス・ウィルソンさんと言うそうですよ)なんです!

トーマス先生、授業でわたくしの顔を見た瞬間に体をこわばらせ、一気に遠い目になられたんですよねぇ……。

ちょっと失礼じゃありませんか、という気持ちもないわけではなかったですが、ご迷惑をおかけしたことも重々承知していますし、申し訳なくも思っているので、わたくしは黙って苦笑いをするにとどめましたけれど。

ただ、すでに四、五回授業が終わった今でも、トーマス先生はわたくしを見ると虚無顔になられるんですよねぇ。解せません。 


「どうせ皆、飛行術は、ベタにほうきを使って飛ぶものだと思ってるよね?でもそれがそうじゃないんだよ!」

初回の授業の冒頭で空中で軽々と何回転もして見せ、わたくしたちを沸かせたキャサリン先生は、開口一番にそう仰りました。

キャサリン先生は、褐色の肌にブロンドの髪を持つ活発そうな女性です。

そんな彼女は、「ま、実際に飛んでみるしかないよね。じゃ、行っといで!」と言うなりわたくしたちの肩をポンポンポンと軽く叩きました。

すると、叩かれた順に生徒がどんどんと空中に浮き上がっているではありませんか!

唖然としている間にもキャサリン先生はわたくしの肩を叩き、数秒もしないうちにわたくしの体も宙に浮き上がります!

「え、え、えええええっ!」

思わず悲鳴をあげてしまいましたが、仕方のないことでしょう。そうこうしているその間にも、体はどんどん空高くへと昇っていくのですから!

「ひぇ、ぎゃー!!」

思わず乙女らしからぬ野太い悲鳴が素で飛び出してしまいましたが、無理もないでしょう!

「ひぇ、ひぃ……うぇあっ、あぇ……」

何語かもわからないような言語で悲鳴をあげていると、キャサリン先生がパチンと指を鳴らしました。

と、わたくしたちの体は浮力を失い、どんどんと地上に戻ってきます。

はぁ、やはり地上は落ち着きますよ……!

地に足の底をつけ、わたくしはしみじみ思いました。

全員が落ち着いた頃を見計らい、キャサリン先生は口を開きました。

「ね、みんな分かったでしょう?身体の自由が利かない、空中の怖さ。それに比べて地に足のつくことの素晴らしさ。空を自在に飛ぶことの難しさ。……とは言え、私はみんなの心を折りたいわけじゃあないからね!今は何もなしで飛ばしたけど、卒業するころには、きっとみんなこの身一つで飛べるようになるし、空中で何回転だってできるようになるから!一緒にがんばろうね!」

その後授業について一通り説明したあと、最後にバチコーンととびきり魅力的なウインクを残し、キャサリン先生は颯爽と去っていかれました。  


……とまぁ、こんな調子で授業が進んできたわけなのですが、学校が始まって一週間の今日、ついに最後の五個目の教科が始まります!

その名も、「召喚術」。

なんとも黒魔術臭のする教科名ですが、果たして何を召喚するのやら。

胸のドキドキワクワクが止まりません!

ケイさんやユリイさんもそれは同じなようで、心なしか普段よりもそわそわされています。

レインさんは……正直、読めませんけれど。

周りもいつもよりも浮き立っていて、ざわざわしています。あぁ、楽しみでたまりません!


そのまま落ち着かない時間を過ごし数分経った頃、ついに教室に先生が現れました。

黒い長髪を一つにくくった女性の方です。

彼女はつかつかと教卓に歩み寄り、口を開きました。

「こんにちは、生徒諸君。この教科を担当する、サイリナ・オックステイラーです。それでは早速、召喚用紙を配ります」

サイリナ先生に渡された紙は机いっぱいを埋め尽くすほどの大きさで、ガサガサしています。

紙には何も書かれていません。


わたくしたちの困惑を知ってか知らずか、サイリナ先生は再び教卓の前に立って言いました。

「生徒諸君、羽ペンは持っていますよね?」

わたくしは鞄をごそごそとまさぐり、羽ペンとインク瓶を取り出しました。

入学に合わせ、父が新しく買ってくれた物です。サイリナ先生は少し間を置いてから、説明を始めました。

「それでは皆さん、先ほどお配りした紙がありますよね?そこに円を一つ描いてください。絶対に端と端は閉じること。それさえ満たしていれば、多少ゆがんでいても構いませんし、大きさもお任せいたします。それでは、どうぞ」

え、円ですね!

ゆがんでいても良いとのことですし、まあ気楽に描きましょう。

ペンをインクに浸し、紙にペン先を落とします。

スー、と、円を描くように、丁寧に。

端と端をきっちりくっつけ、わたくしはペン先を紙から離しました。

うーん、あまり綺麗とは言えないですけれど……歪んでいても大丈夫と仰っていましたし!


それよりも、紙に描いた円が、ぼんやり光りだしたことが気になります。

わたくしは深い青色のインクを使っているのですが、その深い青に加え様々な色が混じり合い、筆跡がオーロラのようになっています。

ペンとインクは普通のものですのに。

この紙がすごいんでしょうかね?

わたくしが紙をためつすがめつしていると、サイリナ先生は再度口を開きました。


「描き終わったようですね。そうしたら皆さん、各自の言葉であちらさんを招いてください」


「……へ?」

誰のものともつかないつぶやきが、教室に響きました。

口に出していないにしてもわたくしも同じ気持ちでしたし、恐らく生徒皆そうでしょう。

サイリナ先生は淡々と繰り返しました。

「各自の言葉で、あちらを招いてください。私たちは、召喚するとは言えあちらをお招きする立場。それには、召喚主である自分の言葉が必要不可欠です。自分が思う招きの言葉で結構です。先程の円と、その言葉。それで、あちらの方々はあなた方を選んで、来てくださいますよ。一人一人、違う使い魔がね。あ、一度来てくださった使い魔と契約を切ることはできませんから、最初が肝心ですよ」

は、はあ……?

先程の円と、これからの招きの言葉で、来る方が変わるということなのですかね?


ま、招きの言葉、ですか……。

オーソドックスなものでいいですかね?

「……お、おいでくださいませ?」

聞こえるか聞こえないか。そんな程度の小さな声でしたのに、紙はそれを拾ったのか(はたまた紙に描かれた円の向こうの何か、かもしれませんけれど)、急に円の内側が激しい光を放ち始めました。

円は先ほどから光っていましたが、その光など比べものになりません。

目が焼けるほど明るくて、白く焼け付くような眩しい光でした。

薄目で周囲を見渡すと、紙が光っているのは同じなものの……気のせいかもしれませんが、わたくしの紙ほど眩しくないような!?

皆さん手などで遮ることもなく普通に目を開かれています。あれ、わたくし何か失敗いたしましたかね!?

わたくしが人知れず焦っている間にも、周囲の方々の机にはどんどん使い魔らしき方々が現れ始めました。

猫のような生き物だったり、見たこともないようなものだったり。

あぁ、わたくしの使い魔はなんなのか、期待が高まります!


サイリナ先生は机の間を回り、「お、この使い魔は性質が穏やかで有名ですよ、よかったですね」などと使い魔の特徴を説明なされていましたが、チラとわたくしの机を見たかと思うと、血相を変えてこちらに来られました。

「ちょ、どうしたんですか、これ!?」

「わ、わわわわかりません!」

「この光量は異常ですよ、流石に!」

「やはりそうなのですか!?」

そんな感じでしばらくてんやわんやしていると、徐々に光が強まってまいりました。

いよいよ直視できません!

目が焼けてしまいます!!

わたくしは思わず目をつぶりました。

閲覧ありがとうございました。

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