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48 女達2

48 女達2


 数は力だ。

 麓のコンビニにゾンビが居ないか確認した。

 女達は微妙に役に立たなさそうな動きをしているが、目が増えただけでもありがたい。死角から襲われるのを避けられるだけでもだいぶ違う。

 結局コンビニにもスーパーにもゾンビはいなかった。

 

 毎日荷物を持って小屋に運んだ。

 やはりゾンビは寒いところには居ないらしい。

 予想が当たって良かったが、こんなの俺じゃなくても思い付く。

 今までこの女達しか出会って居ないが、もっと多くの人が北を目指しているのかもしれない。

 だとすれば、どこかでかち合う。

 人が集まった所に良いイメージは無い。避難所といい、ショッピングモールといい、ホテルといい。ろくでもなかった。

 寒くて外に出れない分、ストレスが溜まって余計に人間関係がギスギスしそうだ。

 

 そんな所に合流しなければいいだけだけど。

 

 コンビニあったカーゴに荷物を詰め込んで、ガラガラと押して進む。

 坂道になると、俺が押して、スポーツ少女が引っ張った。

 水はともかく、絶対にジュースの類を運びたいと女達が言ったので、荷物がかなり重くなった。

 重労働だったので、1日に1回、たまに2回。

 5日で必要だと思われる物資はだいたい運び出せた。

 俺とスポーツ少女で荷物を上まで運び、モデル美人と小柄な少女が住居用や保管用の小屋に運んだ。もちろん、俺とスポーツ少女も参加したが、重い荷物は俺任せだった。

 たしかに俺の方が多少腕力があるけど、過信し過ぎだと思う。

 雪がキツイと100m先の保管用小屋まで行くのも苦労するかもしれないが、居住用の小屋に全部詰めたら生活スペースが無くなる。少しは居住用の小屋にも持ち込んでいるが、今でも結構狭い。

 雪がきつくなってきたら、天候を見て、1週間分ぐらいを一度に運び込めばいいだろう。

 女達と俺は別々の小屋で生活している。男女を分けるのは大事だと思うし、彼女達が俺を殺そうとするとは思えないが、それでも不安が拭えなかった。

 

 スーパーは少し距離があったが、コンビニの時と同じくカーゴをガラガラ押して運んだ。

 完全に無警戒というわけにはいかないけど、ゾンビの心配をあまりしなくていいというのは精神的にも助かる。

 


 □


 

 だんだん雪の日が増えて、朝少しだけ雪が積もっている事が多くなってきた。

 小さなスーパーだけれど、やはりコンビニよりもずっと物資は多い。全部運び出す事はできなかった。

 別に全部運び出す必要は無いんだけど、コンビニを結構スッキリさせたのもあってか、なぜか全部運び出してやる気になっていた。

 

 もう優に三ヶ月分以上の食料が集めてある。十分だろう。

 土地柄なのか、スーパーには燃料もあったし、他の小屋から寝具も集めた。小屋には添え付けのストーブがある。

 雪の降る地域の事はよくわからないが、これで大丈夫だろうか。

 本当は部屋を一緒にした方が燃料の節約になるのだが、十分にあるし、それはもしもの時の手段にしておきたい。

 

 試しにストーブに着火してみた。

 スーパーでとってきた鍋に雪を詰めてストーブの上に乗せる。

 まだたいして積もって居ないので雪を集めるのに苦労した。

 しばらくしてから雪が溶け出し、やがて湯気を立て始めた。

 部屋も少し暖まってきた。

 

 ああ、火だ。

 そういえばしばらく火から離れて居た。

 焚き火さえもしていない。

 

 以前は毎日のように火を焚いていた。

 

 薬で眠らせた死にかけの人の首を切断し、穴に落とし、ガソリンを撒いて火を付けた。

 ゴウゴウと燃える死体の隣で、その匂いを嗅ぎながら食事をしていた。

 思い返すと、俺はやっぱりちょっとおかしい。

 あんな仕事誰だって嫌がるだろう。

 だけど俺にはできた。

 必要だと思ったからだ。

 今まで生きている人間も殺した。思いの外簡単にやれてしまった。

 この世界では良い事なのかもしれないが、なるほど俺が以前の社会で馴染めなかったわけだ。

 

 何で俺は生きているんだろう。

 社会の歯車になって、きっちりした立場、きっちりした仕事、そしてそれを真面目に頑張って生きていきたいとおもっていた。それが当たり前だと。

 しかし、上手くできなかった。

 そして今、特に目的も無く生きている。

 

 死にたく無い。

 能動的に死にたく無いと思っているわけじゃないけど、死ぬ気が無い。

 北に向かうとか、自給自足を目指すとか、多分そうやって理由を作り出して自分を奮い立たせているのかもしれない。

 

 今こうやってストーブの近くでウトウトしていると、この暖かさ以外はどうでも良くなってくる。

 玄関の鍵は掛けてある。

 少し眠ろう。

 

 

 □

 

 

 目覚めてから、ちょっと焦った。

 一酸化炭素中毒とか危なかったかもしれないと思ったからだ。

 その辺の事も聞こうと思って、小屋の外に出た。

 雪を踏む音が鳴る。

 キシリ、とか、ギキュッ、とか、思っていたより摩擦の大きな音が鳴る。なんかガッカリした。雪が殆ど降らない地域で育ったから、雪国に過剰な夢を見すぎていた。

 

 女達の小屋は隣だ。と言っても、100mは歩かなければならない。

 今は別にどうという事は無いが、雪が積もったら顔を合わせる事も少なくなるだろう。

 荷物運びに使うだけ使ったらさっさと俺を始末するという可能性もあったが、どうもその気は無いらしい。俺はまだクロスボウで撃たれていないし、こうやって定期的に顔を合わせる様に言ってきたのは女達だ。いや、あの小柄な少女は嫌がっていたけど。

 

「あ、お兄さん」

 スポーツ少女が元気に声を掛けてきた。

 あれ? と思って声のした方に向く。

 彼女達は小屋ではなく、もっと林の奥の森の方から歩いてくる。3人で何かを引きずりながら。

 

 それは鹿だった。

 クロスボウの矢が3本突き立っている。

 見れば、3人ともクロスボウを装備していた。あと2つ隠していたのか。

 同時に射て、全部命中した。思ったより腕が良い。しかも3人とも。

 弓矢による狩猟は違法だが、今そんな事言うほど空気読めないわけじゃない。

 

「避難所でも遊んでたから。動いていない的ならそこそこ当たるよ」

 との事だ。

 解体にはさすがに力が要るので俺も協力した。

 あまり使っていなかった肉用ナイフの出番だ。

 

 解体の方法は以前読んだ本の内容を思い出しながら恐る恐るやった。

 とにかく肛門周りや膀胱に気を付けて、内臓を取り出す。

 デロンと溢れた内臓からは濃い湯気が立っていた。

 だいぶ気温が下がっている。

 

 

 □

 

 

 女達がバーベキューコンロで肉を焼いて食べている隣で、俺は残りの肉を切って、紐を通していた。

 野外に干しておけば勝手に凍って保存食になるんじゃないかと思ったからだ。もうしばらく雨が降っていない。多分気温は0度以下になっている。

 

「この辺はそうでもないけどさ、もう少し奥に行ったらめっちゃいっぱい鹿いた」

 との事。

 

 鹿は一応害獣カテゴリーに片足を突っ込んでいる。

 あれは野菜とか食べるし、何より繁殖力が高い。

 奈良の鹿が人間が居なくなってから餌を求めて広がって増えたんだろうかと、そんな妄想をした。

 こっちとしても食料が増えるのは助かる。

 問題は、鹿が増えればそれを食う動物も増えるだろうという事だ。

 狼は居ないが、犬は多くが野犬化しているだろう。そして、熊だ。

 こっちには羆はいないけど、ツキノワグマだって人間が戦える相手じゃない。熊と戦える装備は無い。逃げるしか無いが、熊はあの図体で時速60kmは出るらしいし。持久力勝負で林の中をジグザグに逃げるしか無い。

 俺が追われたとして、クロスボウで熊を倒せるかわからないし、女達が俺を助けてくれるかもわからない。

 鹿がいっぱい居るのだから、人間を襲う必要は無いんじゃないだろうか。いや、それは希望的観測だ。

 熊が来たらどうするか考えておかないと。

 

 イノシシはどうだろうか。イノシシは毎年死者が出たり出なかったりする程の危険な野生動物だ。

 あの牙の位置が厄介で、人間が喰らえば太ももの大動脈がズタズタに切り裂かれて死ぬ。

 雑食だが、冬だし鹿と食物が被って減ってくれないだろうか。しかし、イノシシは鼻がいい。雪や土を掘り返して餌を見つけてしまう。

 

 ゾンビの心配は無いみたいだが、野生動物の心配がある。

 山で暮らすなら、そういう苦労もあるのか。

 

 □

 

 女達がキャッキャ言いながら狩をして楽しんでいるのを止めるべきだった。

 

 □

 

 

 女達は天気が良い日に狩に出る様になった。

 と言っても、最近はずっと天気が良い。

 夜中に少し雪が降る程度だ。

 

 荷物も置きっぱ。

 本当に警戒心が薄い。

 ただ、スポーツ少女とモデル美人は小柄な少女をかばう仕草を時折見せた。

 背が高い2人は、いまいち警戒心が薄いが、小柄な少女は俺を警戒している。いや、恐怖している。

 

 □

 

 女達は今日もまた鹿を獲ってきた。

 素人がそんなに簡単に獲れるものなんだろうか。

 クロスボウの腕前はかなり良いみたいだ。それだけで獲れるのなら、本当にそこら中に鹿がいるって事か。

 増えすぎだろ。いや、もともと鹿は増えすぎて困っているというニュースがちらほら出ていた。狩猟をする人間もいなくなったし、山に入る人間も居なくなった。

 たった2年程度で増えまくった挙句、人間にスレていない。

 

 俺が知らないだけで、ハンターとしての能力が高いという可能性もあるけど。

 狩に参加してみたいが、クロスボウを貸してくれとは言えないし、ただ後ろからついて行くというのもなんだか意味がない気がする。手を出さない人間がいても邪魔なだけだ。

 それに、女子3人、会話とか色々あるだろう。男の俺が入っていって空気を乱して、それでストレスを与えてしまうわけにはいかない。俺はただでさえ空気読めないんだし。

 

 そんなわけで、俺はずっと周辺の警戒、見張り、鳴子の設置などをしていた。鳴子には良く女達が引っかかる。

 俺はどもう器用らしいから、それでこのグループに貢献する事にしている。

 

 そう、このグループ。だ。

 距離を保ちつつも、いつの間にか自分をこの4人のグループの一員だと思う様になっていた。

 本当に俺は弱い。

 まだ3週間かそれぐらいしか経っていないというのに、彼女達が帰ってくるのを楽しみにしている。

 

 

 ◯

 

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