22 ゾンビ3
22ゾンビ3
父さんは正義感があって行動するタイプ。
母さんは怖がりだけど優しい。
そして、俺は行動力がある怖がりの変わり者。
妹によればそうらしい。
両親から『行動力』と『怖がり』をもらってるというのはわかったけど『変わり者』はどこからきたんだと聞いたら、妹はゲラゲラ笑っていた。
その理屈だったら、お前には『正義感』と『優しさ』があることになるんだけど。
という俺の言葉に、
「あれ? わかんない? 私結構正義感あるし、優しいよ?」
と言って妹はまたゲラゲラと笑っていた。
そもそも俺は家族と血が繋がっていない。
両親も妹も、親戚ですらない。
だけどそれは言わない約束だった。
三人とも俺を本当の家族として大切にしてくれていた。
■□
家族の事を思い出した。
ゾンビの姿があの時に似ていたからだ。
いや、恐怖からか。
気付かない内に人生ここで終わりかもとか感じたのかもしれない。
あの時は武装した男達が俺と関係無くやってくれたが、今回は違う。
武装した男達は居ないし、俺はもう関係してしまっている。
流石にここまで来て逃げるわけにはいかない。
というか、さっき走ってわかったが、この警備員2人の方が早い。
ということは、ゾンビに追われたら俺が死ぬって事だ。
この2人がその事に気付いて逃げ出さない様にしないと。
でも、悪いことばかりじゃない。
このゾンビが女だという事だ。
服を着ていないので見間違いという事も無いだろう。髪も長いし。
ゾンビが強いと言っても、物理を超えられるわけじゃない。
背中を見てみると、背骨もアバラもかなり浮いている。
痩せている女のゾンビなら、まだなんとかなるかもしれない。
女でも筋力を最大に引き出したら10円玉曲げちゃうらしいので警戒は必要だが。
俺は振り返り、小さな声とジェスチャーで教室の中にゾンビが1体いる事を伝えた。
ちょうど後ろを向いているので、そのままサスマタで押さえ込んでしまおうという事になった。
□
作戦はこうだ……いや、作戦と呼べる様なものではないが。
警備員2人が後ろからサスマタで押さえ込む。
以上。
どうやって殺すかは話し合わなかった。
というか、俺がどうやって殺すか相談しようとしたら、2人共その話には乗らず、どう押さえ込むかの相談を始めた。
俺は無視された。
どうせ無視するなら、もっと前に、まだ俺が逃げられた時に無視してほしかった。そしたら俺逃げたのに。
つまり俺は今、猛烈に逃げたい。
2人の警備員はこの期に及んで殺すことが頭に無い。話を避けている。
押さえ込んだら次どうするのかまで考えようとしない。
確実に殺さないとどうしようも無いのに。
逃げたい。
でも、俺が逃げ出して、2人がびっくりして続いたら、そこにゾンビが追ってきたら、2人は俺を追い抜き、捕まるのは俺だ。
判断誤った。
妹はあんな事言ってたけど、俺にも正義感はある。少しだけ。
正義感というか義務感だが。
俺の仕事は管理員だ。この避難所ではひたすら働いて文句言われて、権力はあっても誰もなりたがらない厄介な役職だ。
俺の場合は死体処理が主で関わって来る人が少ないけど、他の管理員はもっと酷い扱いを受けている。
でもそれでも、必要ならやる。
嫌ならやらないけど、拒否する理由も無い。特に死体処理は俺の天職かもしれない。
他の誰もやらないしできない。どんな仕事だって、必要ならやらなければならないし、自分に合っているならありがたい事だ。
数は力だし、助け合うなら人はどんな困難にも立ち向かえる。
俺は一つの歯車になって、巨大な精密機械を動かす小さな力になる。
そんな夢物語を信じていた。いや、ビビリだから大きな力の一部になりたいと思ったのだろうか。
妹としてはそれが変わり者に見えたのかもしれない。
確かに俺はちょっとおかしい。
だからこんな所にいるのかもしれない。
もっと早く見限るべきだった。
妹が思った程、俺には行動力が無かった。
警察官が全て居なくなった時が逃げ時だった。
まさかこんなに避難所が崩れるとは思わなかった。自分がきっちり仕事をしているからって、皆同じってわけじゃないのは分かるけど、ここまでとは。
ズルズルと長居した結果、今こんな所で準備不十分のままゾンビと対峙しようとしている。
俺の人生ここで終わりだろうか……
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