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12 避難所にて4

12避難所にて4

 

 やがて自衛官が皆居なくなった。

 連絡係ぐらい残すだろうと思っていたが、本当に一人も居なくなった。

 そして、今度は警察官に命令が下り、一人、また一人と警察官も去って行った。

 

 治安は悪化した。

 

 これまでもそれほど仲良くやっていたわけではないが、それにしたって暴行事件が増えた。

 恐怖からか、お互い致命傷には至らない様にやっている。

 暴行によって大怪我を負うケースは以前からほぼ横ばいだ。

 だが、喧嘩、器物破損、盗難、強盗、事件は増えていった。

 強姦事件も増え、女性達を完全に分ける事になった。

 最初から未婚の女性は分かれていたのだが、既婚者も被害に遭い、その身内は報復で相手に大怪我を負わせ…… なんというか泥沼になる事件が何度かあって、女性は完全に分けられた。

 

 自衛官が居なくなってから、女子棟に出没する男が増え、警察官に拘束されている。

 

 この期に及んで性欲で暴走するとか。

 物資が足りているのが問題なんじゃないかと思った。

 ゾンビに襲われないという安心感、食い物は十分にある。

 さあ後は女だ! とか、そういうのなんだろうか。

 人間はどこまでも欲深いというのは本当だったんだなと思った。

 半年以上前、この避難所に来た時はゾンビの恐怖に震えていた男達が、今は笑って女を犯している。

 

 厄介なことに性暴行に遭った男まで居て、警察官は対応に追われていた。

 

 それを羨む者達以外は、俺も含めて人間というものに対する絶望が日に日に深まっていった。

 いつの間にか警察官達の顔色は抜け落ち、機械じみた雰囲気になっていた。

 

 こんな状況でも、一人、また一人と警察官は減っていく。

 

 

 ■

 

 

 脱走者は最初からいたのだが、だいたい自衛官に捕まって帰ってきていた。

 だが最近脱走者は帰ってこない。

 

 なぜ脱走者が捕まっていたのかというと、自衛官が辺りの見回りをしていたからだ。

 ゾンビを見つけたら処理もしていただろう。

 自衛官が居なくなった事で警察官が見回りをする事になり、避難所にいる警察官が減った。それによりまた治安が悪くなる。

 

 もう半年以上、誰もゾンビを見ていない。

 避難所の人々は避難所の治安悪化におびえていた。

 細かい傷害事件が増えた。

 元々精神的に弱い人は身を隠して震えている。

 暴力的な人は冷や汗をかきながら周りに当たり散らしている。

 最初はリーダーシップを発揮して周りを導いていた人は、なんだか良く分からない事を血走った目で叫ぶようになった。

 

 おかしい。

 こんなに簡単に人間が変わるものなのか?

 閉塞感、圧迫感はあるが、別にそこまで困窮しているというわけでもない。

 

 ある日、見回りをしていると夜中に集会をしている集団を見つけた。体育館の裏で蝋燭を持ち寄り、オカルト的な事を話し合っていた。

 蝋燭の明かりに伸びた影、ぼんやりと浮かぶ人の顔。それらは皆、ギョロリと目玉を光らせて、薄く笑っていた。

 

 俺は心臓を掴まれたような息苦しさを感じ、逃げた。

 

 

 ■

 

 避難所は内部に得体の知れない恐怖を抱えてしまい、外から来る恐怖をこの半年間で忘れてしまっていた。

 

 どちらにも恐怖していたら精神が持たないかもしれないけど。

 

 ○

 

 

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