13 避難所にて5
13避難所にて5
避難所生活が1年近くになった頃、警察官も全て居なくなった。
警察官の中には避難所が心配で残った人達もいるので、全て、というわけではないが、残った彼らはバッジも銃も返却したので、もう警察官ではない。
この状況での退職は認められていないと思うのだが。
しかし、仲間の警官もその意志を汲んで、辞表や武器を受け取って去って行った。
これを美談として涙する避難民は多かった。
本当は、警察官まで居なくなったらこの避難所はもう駄目だと分かっていたから、安堵の涙なんだろうけど。
しかし、俺を含めて数人はこれに喜べないでいた。
命令無視でここに残るのはいい。
だが、残るのは警察官でなくては駄目だ。
武器を返上し、警察官としての権限も捨てたなら、それはただの一般人だ。
警察官は消えた。
■
避難生活一年。
とうとう殺人事件が起こった。
大怪我が元で死んだ人間はいるが、それらは運び出されていた。
死体が転がっているというのは初の事だった。
被害者は女性。未成年。
いわゆる強姦殺人だった。
見つかったのは学校のフェンスの外。
裏門の焼却炉近くだった。
ゴミを捨てに来て異臭に気付いた管理員が発見した。
頭部が切り離された全裸女性の遺体を見て腰が抜け、這って校舎に帰還し、元警察官の管理員が直ぐに現場へ向かった。
▲
どこかで一人でいるところを見つかり、攫われ、強姦され、殺された。
彼女はどれだけ苦しんだのか。
柄にもなく俺は握り拳を震わせた。
頭部は近くの草むらで見つかった。
それは最初動物の死骸に見えた。
ぐちゃぐちゃで原型が無い。
しかし、乾いた血液でガビガビに固まっている頭髪は、その塊が元は人の頭だった事を教えてくれた。
あまりの状態に吐き気も無かった。
首のない胴体の方がずっと人間らしい形をしていた。
とはいえ、俺と一緒にそれを発見した管理員は泣きながら吐いていた。
俺が探索班に回されたのはコレが理由でもある。俺は人より少しグロ耐性がある。
面白みがない奴とか、鈍感とか、色々言われたが、隣で苦しそうにしている仲間を見ると、鈍感で良かったと思う。
■
犯人はまず女子棟近くで女を攫ってここに連れてきた。荒れた足跡が幾つもあることから、ここで強姦されたと思われる。
ゾンビにならないように首を落とし調査を困難にするため顔を潰した。
最初から殺すつもりだったのかは分からないが、犯人は女の首を落とせる武器を持っている。
普通、そういう証拠品はさっさとどこかに捨ててしまう事が多いらしいが、今回は多分持っているだろう。
武器は力だ。
事象の前後や犯人の正確な数は流石に鑑識の仕事で元警察官にもわからないそうだ。
そして、鑑識が来る事は無い。
避難所の中に殺人犯がいる。
しかも、人を殺せる武器を持っている。
そんな武器どこから持ってきたのかって、どこからでも手に入れられる。
校内の刃物などは回収してあるが、探せばまだあるかもしれない。
それに、警察官が居なくなって見回りが手薄になっている。
避難所から抜け出してそこらの民家に入ればいくらでも手に入るだろう。
この事件は伏せられた。
武器を持った殺人犯が隣にいるかもしれないというのはパニックの元だし、恐怖から同じように武器を取る人間が増えるかもしれない。
避難民に、簡単に武器を調達できてしまうと気付かれるのもまずい。
ただでさえ事件が増えている。
武装したら殺し合いになる。
それだけじゃない。
死体には細かい切り傷や打撲の跡があった。骨も一部折れている。
この事に気付いた管理員には、元警察官からキツく口止めされている。
殺人犯というだけでもストレスなのに、それが人間を切り刻んで痛めつけて強姦した上で殺す様な奴だなんて、言える訳がない。
死体を見た管理員、首を見た管理員、そして、死体の傷に気付いてしまった管理員。
統治機関の中にもじくじくと疼く恐怖が育っていった。
○




