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光と土の狭間にいる僕  作者: 二十四時間稼働中
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第二十二話 『二十二』

 僕の世界にいる登場人物は僕でしかない。他人とされている人物だって、僕が創り出した幻影に過ぎない。なのに、何故僕はこんなにも苦しまないといけないんだ。いや、だからなのかもしれない。幻影だからこそ、曖昧だからこそ、余計に考えてしまうのかもしれない。もういっそのこと、曖昧なものは曖昧なものにして、何も考えないほうがいいのかもしれない。はたして、そんな芸当が僕にできるのだろうか?たぶん、無理だろう。僕は考えようとするだろう。考えてはダメだと呟くたびに考えてしまうだろう。何も考えないことを成功させたとしても、頭の片隅に密かに潜んでいるだろう。僕が人間であることを憎んだ。いや、どんな動物に生まれても一緒なのかもしれない。人間である僕には、他人のことなんて何ひとつ分からなかった。だから、創り出すことしかできない。そんな幻影に怯えながら、また考え出す。また自分という他人を構築していく。それらの工程は全て無意識に行われていく。

 どうしたら、この無限のサイクルから救われるのだろうか?やはり死ぬべきなのだろうか?もう死んだほうがいいのかもしれない。よし、死のう。いつ死のう?今すぐ死のう。もう、そろそろ死ぬべきだろう。死ぬ頃合だろう。死んだら、もう終わりだ。やはり死ぬべきなのだろうか?もう死んだほうがいいのかもしれない。よし、死のう。いつ死のう?今すぐ死のう。もう、そろそろ死ぬべきだろう。死ぬ頃合だろう。死んだら、もう終わりだ。やはり死ぬべきなのだろうか?もう死んだほうが……。

 そう言って、いつまでも生き続ける。そうして、僕は成人の歳に近づいて来ている。一体、いつになったら僕は死ぬことができるのだろうか?死にたい、と言い過ぎているから、余計に死ぬ気が失せてしまっているのではないだろうか?もう呟く必要なんてないのかもしれない。だが、もしもこの行為をやめてしまったら、そのままずっと自然に死ぬまで生き続けてしまうのではないか?僕は今すぐに死にたいんだ。じゃあ、逆に生きたい、と言い続ければいいのではないか?そうすれば、生きる気も失せていくのではないか?死ぬことが出来るのではないか?もしもそうなるのなら、僕は喜んで呟き続けるだろう。何だったら叫び続けたっていいんだ。人が行き交う場所で言い続けてもいいんだ。

 たぶん、そんなことしてもどうせ死ねないのだろうな。もう、既に生きる気が失せている。そんな言葉はただの虚言に過ぎない。何の効力もないんだ。僕の心には響かない。言葉ほど信用ならないものはない。だけど、それでしか表現できないというのが苦しい。一体、どうすればいい?どうすれば、僕は救われる?僕に自殺できるような勇気が欲しい。どうすれば、手に入る?どうすれば、晴れやかに死ねる?どうすれば……。

 僕は東京にいた。何でここにいるのかは分からない。僕の生まれは〇〇県だったはずなのに。気付けば僕は日本の首都にいたのだ。ありえないことが起こっている。だが、僕は不思議とそれに対し、何の疑問も持たなかった。東京にいるのは当たり前だ、と感じている。まるでそこが故郷でも思っているかのように。

 東京は相変わらず、人で溢れていた。これでは街が潰れてしまうのではないか、と心配するほどに。一体、ここが無人になることがあるのだろうか?世界でも終わらない限り、そんなことは起きない気がする。気味が悪かった。何もかもが不気味に思えた。人とは思えなかった。機械的に動いている、そんな気がした。だが、そこに僕も含まれている。ロボットのような人間が溢れているところに僕はいる。誰も思わないのだろうか?この奇妙な世界に対して。いや、気にしすぎなのかもしれない。誰もそんなこと思っても、気にしないのかもしれない。

『お前は一体何者なんだ?』

 こんな街中で誰かがそう言っていた。もちろん、辺りを見回しても誰が言ったのか、分からない。いや、そこに僕が探している相手なんかいない。もしかしたらいるかも、ということはありえないのだ。だって、あの声は頭のなかの住人が発したものだから。そんなこと言う奴はそいつしか考えられないのだから。

『今まで仕組んだのはお前なのか?』

 彼が何を言っているのか、分からなかった。それは僕に対して言っているのだろうか?それとも、自分に言っているのだろうか?いや、どちらでも同じことか。どんなに人格が違ったとしても、彼は僕の頭のなかにいるのだから。ならば、彼の言うことが分かってもいいのだが。繋がっていてもいいのだ、と思うのだが。意思の疎通みたいなことができればいいのだが。たぶん、そんなことはできないのだろう。頭のなかに違う人格を創っている時点で、僕はそれを求めていないのだから。別の形の何かを求めているのだから。

『そうやって、僕に嫌なものを見せるのか?お前誰なんだ?絶対に許せない。いつか殺してやる』

 馬鹿げていた。そんなこと言っても、何の意味もないくせに。ただ逃げているだけじゃないか。一体、何がしたいんだ?向き合えばならないんだ。いつまで憎むだけでは駄目なんだ。そうやって、全部僕に押し付けるだけじゃ。だからこそ、いつまでも苦しむことになるんだ。腹が立ってきた。自分だけが不幸になっているような気がした。何でこんなにも苦しめなければならないのだろうか?

『全部お前が悪いんだ。お前さえいなければ良かったんだ。いつまでも苦しいと思うのはお前がいるせいなんだ』

 僕は東京に憧れていた。ただ、それだけだったんだ。そこに行けば変わる。誰も僕を傷つけたりすることができない。不幸が降りかかることなんてない。ずっと、そう思っていた。そうなるはずだった。だけど、どこまでも付きまとう奴がいた。それは自分だった。頭のなかに住み着く自分だった。悪意しか感じられない。僕のすること、全部邪魔をしようとする。お前だけは幸せにはさせない、とでは言っているかのように。

『絶対に殺してやる。絶対に不幸にさせてやる。お前だけはいつまで経っても、幸せにさせない。誰の救いも受けさせない。僕を不幸にさせたお前だけは許せない。絶対に許せない。ずっと怯えていればいい。ずっとそこに隠れていればいい』

 誰が誰の言葉か分からなかった。一体、それは僕なのか?それともあいつなのか?それともまた別の誰かか?一体、僕の頭のなかはどうなっているのだろうか?教えて欲しい。誰も分からない。誰も脳の中身なんか知らない。知る手段がない。外見だけしか知らないんだ。幼虫が敷き詰められたものにしか見えない。他人から見ればそれが真実だ。そこに僕の考えていることはどこにもない。どんなに分解しても得ることがない。

『永遠にお前だけを憎み続ける。何度だって殺してやる。楽には殺させない。苦しみながら殺してやる。それがお前の罰だ』

 森へと向かっていた。東京にそんなものがあるのかは疑問だが。いや、きっとあるに違いない。東京の何もかもが建物ではない。ちゃんと自然に囲まれているところだってあるはずだ。そうじゃないと他の場所があまりにも惨め過ぎる。少しだけ、田舎くさいところがあってもいいではないか。

『何でずっと〇〇県だったのにお前はここにいる?一度だって東京に行ったことなんてないじゃないか。そうやって、僕を騙そうとしているんだろう?そうやって、僕を貶めようとしているのだろう?』

 森に入るとさっきまでの雑音が跡形もなく、消え去った。東京の色が何ひとつも見当たらない。後ろを振り返ったところであるのは草木だけだった。ぞっとした。まるで今まで森に幻覚を見せられているような気分だ。僕はこの神秘な場所に魅入ってしまったのだろうか?

『これからお前は何をしようとしている?何を見せようとしている?そんなにも僕を苦しめたいのか?そんなにも僕を殺したいのか?お前が憎い。こんなことをするお前が憎い。殺してやりたい。何度だって殺したい。許せない。お前は悪魔だ。お前は鬼だ。いつまでも僕を苦しめる』

 あの街には戻れないほどに奥まで進んでいった。元の道なんて覚えていない。そもそも僕は明らかに道とは言えないところを通っていったのだ。帰れるなんて到底思えない。別段それに対して、何か困るようなことがあるわけではない。元々、僕はある目的のためだけにここへ来たのだ。帰りたい、とは思わないし、死にたい、とも思わない。ただ、僕はこの森のなかでやらなければならないことがあった。それは宿命であり、僕の役割であった。

『おい聞いているのか?おい無視をするんじゃねえよ。聞こえているんだろう?なあ、返事しろよ。全部お前のせいなんだから。お前のせいで僕はこんな状況に陥っているんだからな。責任取れよ。最後まで取れよ。ふざけなよ』

 僕は土を掘っていた。素手で何度も何度も。スコップでも持ってくればよかったかもしれない。効率があまりにも悪い。時間は特に気にはしないが、ただ爪先が痛む。肉体的なダメージも結構来るな。僕はいつも精神的なダメージが多かった。そんなことはもう今の僕には関係のないことだが。とにかく、僕は掘り続けていた。自分が埋まるぐらいの深さを。どうやら、自分のレールを敷くのも大変のようだ。それでも、僕はやらなければならなかった。これが僕の復讐だ。これが僕のできる唯一のことなんだ。これ以上の苦痛を味あわせてやる。お前だけじゃないんだぞ。お前だけが憎んでいるわけじゃないんだぞ。僕だって……。

『許せない。絶対に許せない。こんな目に遭わせたお前は許せない。絶対に殺してやる。絶対にな。生まれ変わっても殺してやる。どんな手を使ってもお前を探し出して殺してやる。お前だけは許せない。絶対に』


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