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光と土の狭間にいる僕  作者: 二十四時間稼働中
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第二十話 『二十』

 お前だけは許さない。この世界で殺したとしても許せない。もし、違う世界にいたとしたら、そのお前も殺す。何度だって殺す。お前がいなくなるまで殺す。包丁で心臓を突き刺してやる。鈍器で頭をかち割ってやる。頑丈な縄で首を締め付けてやる。拘束してじわじわと痛めつけてやる。どんなやり方でもぶっ殺してやる。確実に殺してやる。

 全て、お前のせいだ。こんな世界を創ったのもお前のせいだ。僕をこんな性格にさせたのもお前のせいだ。死にたい、と思うようになったのもお前のせいだ。ペットが死んだのもお前のせいだ。この前のテストの成績が落ちたのもお前のせいだ。最近、体調が優れないのもお前のせいだ。車に轢かれそうになったのもお前のせいだ。人に笑われたのもお前のせいだ。悪夢ばかり見るようになったのもお前のせいだ。昨日、シャワー浴びるのを忘れていたのもお前のせいだ。今朝、歯磨き粉が切れていたのもお前のせいだ。あらゆるすべてのことがお前のせいだ。

 今、どこにいるんだ?

 殺してやる。今すぐ殺してやる。姿を現せ。僕が殺してやるからよ。何度だって殺してやる。お前だけは許さない。お前だけは。全部終わったら、僕は死ねる。僕は地獄に落ちるだろう。だけど、お前は天国にいるんだろうな。お前は色んな人に好かれている。僕は色んな人に嫌われている。

 でもいいや。死後もお前と一緒なんてごめんだ。そもそも、死後世界なんて生きている僕たちが創ったものなんだ。だから、死んだものが認知することなんてできない。生きているから考えられる。想像だって、できるんだ。今いるこの世界だってそういった類なんだろう。死んだら崩壊するんだ。そうか、終わらせることだってできるんだ。

 違う、そうじゃない。僕はあいつを殺すんだ。お前を殺すんだ。話を逸らしてはならない。もしも、そんなことを続けていたら、僕を支配している憎悪が消えてしまう。ずっとお前でなければならない。あいつとは言ってはならない。遠くに感じてはダメなんだ。眼の前に置かなければならないんだ。そうしなければならないんだ。

 僕は自室から金属バットを取り出した。友人から借りて一年ぐらいそのままだった。あえて、僕はそのままにしておいたのかもしれない。黒のダウンジャケットを着て、マスクをし、黒帽子を目深く被る。全てはこのときのために用意したものだ。今から殺しに行くんだ。お前を。

 家の前にある道路を歩いてすぐ、警官に捕まった。このまま、彼等に僕が計画した殺害を邪魔されるわけにはいかない。とりあえず、ひょろひょろしてそうな奴の頭を金属バットで叩き付けた。気持ちのいい甲高い音がした。もっと叩きたい気分だったが、次やったら本当に殺してしまう。無駄な殺害は避けなければならない。お前だけを殺す、僕はそう決めたんだ。

 走った、どこへ向かう?

 走った、お前がどこにいるのかが分からなくなった。

 走った、そもそもお前って誰なんだ?

 走った、誰でもいい気がしてきた。

 走った、確かにいたんだ。

 歩いた、もう帰ろう。

 僕はマスクとサングラスを外して、帰路へと向かう。もう終わりだ。何もすることができなかった。何もできずに、僕は独房へと放り込まれる。そんな人生も悪くない、と思えるだろうか?変わりのない日々だ、と感じれるだろうか?むしろ、余計に気が滅入ってしまう気がする。そんな生活よりもこんな世界で暮らしていたほうがまだマシなのかもしれない。

 家の前には二人の警官が僕の帰りを待っていた。警察署に連れて行かれるのは目に見えていた。だから、僕に残されたのはここから逃げることだった。自分の家に帰ることができなくなってしまった。これから、僕はどのような生活をすればいいのかは分からない。盗みを働かせる毎日を過ごすか。それとも、野草を食いながら一日を耐え凌いでいくか。どちらも過酷な日々を暮らしていかなければならない。未来なんてない。ただ、今を生きていくことしかできない。ある意味、そのほうがいいのかもしれない。卑屈な考えなんてしなくても済むかもしれない。それなら、僕はそれを選ぼうと思った。

 もうあの家にいる必要なんてない。独房に入れられる必要なんてない。僕は自分だけで生きるんだ。未来なんてなくてもいい。過去をこだわらなくてもいい。ただ、今を生きていくだけでいい。何も考えたくない。明日や今日は何をしようかとか考えなくてもいい。生きるために歩けばいい。機械的でいいんだ。思考停止のままでいいんだ。そして、いつの日か、気付かずにそのまま死が訪れるんだ。

 僕は森へと向かう。そこに行けば、誰とも会わずに済むから。太陽がやけにキラキラと輝いていやがる。お前は僕の邪魔をするのか。そうやって、僕を照らし続けるのか。そうやって、僕を示し続けるのか。ずっと嫌いだったお前にツバを吐いてやりたい。だが、それは虚しく自分の顔にかかるだけだ。それにもう恐れる必要なんてない。太陽の届かない場所へと向かうのだから。

 ……とは言ったものの、僕の進行に合わせるかのように太陽は僕に向けて熱を発し続けていた。苦痛以外の何者でもなかった。早く森へ行きたかった。だが、一向に森に近づくことができない。誰かが僕の邪魔をしている気がした。いや、きっとそうに違いない。一体、僕がどれほど歩いていった、と思っているんだ。半日はずっとこうしているはずだ。何もかもがおかしかった。

 僕は空を見上げる。そこには太陽があった。だが、ある場所がおかしかった。半日以上かかっているのなら、西のほうにあればいいもの、あいつは今も変わらず真上で僕に向けて輝かせている。時間の経過というものが空を見る限りでは感じられなかった。何かが起こっている。何が起こっているのか分からないが、嫌な予感がした。元々、僕の身に幸福なことが訪れるはずがない。何かが起こるというのなら、それは不幸なことなんだ。お前はいつも安らぎを提供してくれないんだな。僕は逃げることができないのか?ずっと誰かに殺されているような気分を味わなければならないのか?

 もう自分はあの森に辿り着くことができない。もう二度と幸せになれることなんてできない。いや、一度だってそんなことはなかった。本当にそうなのだろうか?ただの心の持ちようではないのか?森に行くことは不幸の始まりで、幸福を誘う太陽がそれをとめてくれているのかもしれない。いや、そもそも、幸福とか不幸とか自分のさじ加減で決めるはずだ。だから、僕にとって、太陽は不幸で森は幸福なんだ。そのことに対して誰がどう言うと、変わりのないことなんだ。だから、僕はいつまでも森へと向かう。幸福を得るために。

 もう永遠にあそこへと辿り着けないのではないのか?そう思い始めると、自然と歩くのをやめてしまう。諦めたほうがいいのかもしれない。僕が救われることなんてないのかもしれない。だからこそ、森に辿り着くことができないのかもしれない。もう限界だ。これ以上歩いていたら、僕の気はおかしくなってしまう。こんなことなんていつまでも続けるものではない。家へ帰ろう。本当にそれでいいのか?またあの日々を過ごすのか?悪夢を見続けるのか?そんなことを繰り返したくない。

 僕は爪を立てて、地面を掘ろうとする。だが、爪に激痛が走り、上手く掘ることができなかった。よく見れば、それは土ではなくアスファルトだった。本当に僕には救いがないのか。永遠と僕は不幸な人生を送らなければならないのか。本気で死にたい、と思った。本当の意味で誰か僕を殺して欲しかった。そんな悲痛な叫びも誰の耳にも届かない。一体何なんだ。僕が何をしたんだって言うんだ。ただ普通に生きていただけじゃないか。前科なんか何ひとつない。人に迷惑かけたことなんてほとんどない。親に反抗したこともほとんどない。成績だってそこそこだった。普通の真面目な学生だったんだ。なのに、何で僕だけがこんな目に遭わなければならないんだ。何で土だったものがアスファルトに変わるんだ。森へ行くことがそんなにいけないのか?太陽から逃げることがそんなにいけないのか?何がどうなっているんだよ。

 僕は拳でアスファルトにぶつける。拳は割れ、そこから血が流れていく。もううんざりだった。何もかもが異常で、何もかもが正常なこの世界に対して。涙を流す。その涙は頬を伝って、地面へと落ちる。透明な水と赤黒い液体が混ざり合った。それら液体はただ混ざり合っただけだった。そこから何も生み出せない。息苦しかった。もう自分にはどうすることもできない気がした。いや、そうなんだ。僕はただ終りを待ち続けることしかできない。それだけしかできない。

 空を見上げる。太陽は未だに真上にあって、僕に向けてキラキラと輝かせていた。全部お前のせいだ。お前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだ。だが、本当は分かっていた。誰も悪くなんてない。誰のせいでもない。だけど、誰かを悪にしなければ、僕の身が持たなかった。


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