第十八話 『十八』
僕の手にはしっかりと玩具の銃を握り締めていた。本物の銃が欲しかった。それさえあれば、自分は英雄的な存在になれる、と思った。だが、それを手に入れることはできないし、英雄的な存在なんてただの幻想に過ぎない。
僕は何かをしよう、とする気力がなかった。朝起きるのも、学校へ行くのも、飯を食べることさえもしたくなかった。だが、食欲は出るし、起きていないと階下にいる親が僕の部屋へと入ってくる。
僕は溜め息を吐きながら、ベットから起き上がり、学校へ行く準備をし、食事をするため、階下へと向かった。玩具の銃は鞄の中へ入れて。
『やっと起きたか。もう飯はできているぞ』
父は珍しくこの時間に起きていた。自営業の彼はいつも僕が学校へ出て、一時間ぐらい経ってから起きる男だ。よりによって、こんな日に早く起きているなんて最悪だ。僕は父を睨みながら、食卓へと向かう。
テーブルの上にはバターを塗ったパンと目玉焼きがあった。ベーコンぐらい用意しろよと思いながら、目玉焼きの上にパンを乗せ、齧りついた。美味くも不味くもない朝食を平らげ、皿をシンクの上に置き、学校の鞄を背負い、学校へと向かった。家の玄関の扉を開けた瞬間、自分だけが取り残された気分となる。
「また、嫌な一日が始まるのか」
僕はゆっくりと一歩進んだ。
『母が危篤状態だ。病院へと向かってくれ』
僕はタクシーへと乗り込み、父と母がいる病院へと向かう。金は隣にいる兄が払ってくれた。助手席に乗っていた姉を先頭に病院内へと入る。父と母がいる場所は三階だ。僕たちは階段を使い、いつも行っている個室へと向かう。辿り着いたとき、そこには泣いている父と眠っている母がいた。死んでいた。僕は呆然とする中、それだけは確認することができた。
……もしも、この銃が本物だったならば、病院の奴らを、母を笑った親戚を撃ち殺せたはずなのに。だが、僕の持っている銃はただの玩具に過ぎない。
学校は嫌な思い出を詰め込んだ場所だ、と思った。どんなに嫌だと言っても、考えなければならない。その度に閉じていた箱が少しずつ開かれていく。
『キーンコーンカンコーン』
チャイムが校舎中に鳴り響く。教室へと戻らなければいけないのだが、このまま屋上に居てもいい気がした。どうせ、僕がいなくても、誰かが気にするわけでもない。いや、そもそも存在自体、気づかれていないかもしれない。どっちにしろ、僕には関係のないことだった。誰がどう思ってようが、僕にとって、どうでもよかった。母が死んだあのときから、ずっと。いつか自分も知らないうちにぽっくりと逝ってしまうかもしれない。そう思えると、この人生も味気ないように感じた。
「なあ、母さん。死ぬとき、どんなことを思ったんだ?家族のこと?ペットのこと?それとも、今日の昼飯のこと?僕はもう駄目なんだよ。母さんが死んでから生きていける自信を失ったよ」
僕は空を眺めながら、玩具の銃を握り締めた。そして、ゆっくりと眼を閉じる。どうか本物の銃になってくれと願いながら。だが、銃を握っている手に、重さなんて全く持って感じなかった。代わりに、眼に熱いものを感じた。すぐにそれが何なのか理解した。どうやら、まだ僕はこっちの世界に居続けるようだ。
ねえ、母さんには何が見えたの?




