第六話 最悪のスタート
久々の投稿です。
いやぁ、サボったサボった…じ ゃ な く て!
いや、忙しいんすよ。ね?サボりじゃないからぁ!
夜。ルウナと別れた後、俺は今の状況を考えてみた。
まず結論から話すと、俺はどうやら未来の世界に来てしまったらしい。
いや、ロックさんが英雄の名前として、俺の名前を出した所から薄々そうじゃないかな?って思ってんたんだけど。
詳しく聞けば魔王を倒した英雄の話は世界中で有名なのだそうだ。
一部では宗教のようになっているらしい。
実際俺は昔…とは言っても感覚的には一ヶ月程前に魔王と呼ばれた者を倒している。
それが長い間、英雄譚として語り継がれていたとしても不思議ではない…自分でこんな事考えるのも恥ずかしいな…
それに俺が過ごしていた頃に比べ文明がかなり発達している。
魔法を用いた魔道具なんかも、かなり品揃えが良かった。
なにより、冒険者なんて職業も無かったし。
魔王を倒す前はただただ魔物の恐怖に怯えるだけで、戦闘を生業とする人間なんか国の騎士団位だったからな。
逆に過去に来た可能性も考えたんだが…やっぱり俺の名前が残っている事を考えると、ここは未来なんだろう。
うーん、俺が救った世界がここまで発展したとなると、なんか感慨深いな。仲間達にも見せてやりたいな。
まぁ、それは追々。可能ならやるとして…
ちなみにこの街、シュテルンは俺の故郷だ。
とは言っても、あの頃は草木なんて生えてなかったし、ここまで立派な街でもなかったんだけど。
道理で目を覚ました時、どこか見覚えがあった訳だ。
ま、この時代でルウナに付き合ってやるのも悪くないか!
そう結論付けた俺は目を閉じ、寝る事にしたのであった。
◆
「ほら、ステラ!朝だよ、起きなって!」
そう言いながらルウナは俺の部屋のカーテンを勢い良く開け放ち、耳元で俺の名前を大声で呼びながら、俺の体を揺する。
…眩しい。そして騒がしい。
「あとちょっと…」
「起きなって!」
残念ながら俺は朝が弱いんだ。
起こしたかったらもっと工夫を…
「ふーん、起きないんなら、お母さんにステラのご飯は要らないって伝えてこよ」
「おはよう、ルウナ」
食は大事です。それは時に睡眠欲をも凌駕するッ!
さて、すっかり目の覚めた俺は軽く身支度を整え、一階に降りる。
途中で階段から転げ落ちそうになったのは内緒だ。
「おはようございます。シエロさん、ロックさん」
「おはよう、ステラ君」
「おお、おはよう、ステラ」
シエロさんはエプロンで調理場、ロックさんは仕事着で、朝御飯を食べている。
しかしロックさん。武器を眺めながら食べてるのはどうかと思うんですけど。
聞けばロックさんは武器マニアなのだとか。
だからこの部屋まで武器だらけなのか…
自室はもっと凄いらしいんだけど、確実にこの部屋より狭い自室でこれより凄いってかなりだな。
と、そんな事を考えていると、後ろからまだ眠そうな顔のソルがルウナに手を引かれて部屋に入ってきた。
「おはよう、ソル」
「ん…ん?お兄ちゃん、おあよお」
欠伸出てますよ、ソルさん。
「ハハッ、まだ眠いんだな。お兄ちゃんも眠いよ」
そんな感じで、ルウナ宅の朝を過ごしていく。
やがて、ロックさんは仕事に、シエロさんとソルはどこかに出掛けていった。
残ったのは俺とルウナだけである。
「さて、今日はまず、ギルドで昨日の事を報告しないとな」
「そうだね、他にも被害に遭ってる人もいるかもしれないし」
「その後は…適当に依頼を見繕って森にでも入るか」
「うん、私達はまだグリーンだけど血餓猪を倒した実績があるから、それなりの依頼を回して貰えそうだね」
と、言うことで俺達は今、ギルドに来ている。
「…と、まぁ、昨日の件の時に魔法を使われたみたいでして」
「その魔法と言うのは?」
「《思考誘導》でしょうね。こちら側に痕跡が残っていました」
「掛けた人間に心当たりは?」
「特には…あ!一人だけフードを深く被ってる奴がいたくらいですかね?」
こんな感じで事情聴取中だ。結構細かく質問されるので、かれこれ一時間の問答が続いている。
ルウナはとっくに飽きて酒場で軽食をつまんでいる。
「わかりました。後はこちらで調べてみます。ご報告ありがとうございました。また、なにかありましたら、ご相談ください」
「了解です。それでは、失礼します」
ちなみに、この受付嬢さんはトラブル解決が専門なので、笑顔が命の他の受付嬢の様にニコニコしていない。と、言うかむしろ、ずっと真顔。仏頂面である。
正直、俺が悪い事した気分になる顔だった。
「おい、ルウナ、終わったぞ」
「あ、やっと終わった?もう待ちくたびれちゃったよ!」
お前はそれなりに楽しくやってただろ!という突っ込みを呑み込み、次の話題にシフトする。
「よし、それじゃ依頼を受けに行くか!」
「そうだね!初の依頼…くぅ、なんかワクワクする!」
と、言うことで、別の受付嬢の元へ。
「依頼を受けに来たんですけど」
「えっと…ステラさんとルウナさんですね。お二方は試験での成績から、ワンランク上までの依頼を受ける許可が出ました」
そう、笑顔で言いながら書類を見せてくれる受付嬢さん。うん、やっぱり笑顔って良いよね。
書類には、今回の件の許可とギルマスのサインというとてもシンプルな内容だった。
なにはともあれ、ブルーランクの依頼を受けられる様になった訳だ。
グリーンだと、街での力仕事や採取等の比較的、危険度の低い依頼しか受けることが出来ない。
しかし、ブルーになるとゴブリンや巨大猪等の低位魔物の狩猟依頼も出てくる。
とは言っても100体規模のゴブリンの巣だと危険度が跳ね上がるので、それは受ける事が出来ないのだが。
ちなみに、冒険者になるための試験では、倒さなくても、試験官が合格と判断すれば合格する事が出来る。
そのため、本来、ブルーランクの魔物である巨大猪がターゲットなのだ。
倒せる人は稀だそうだが、毎年、受験者の半分位が受かっている。
おっと、話が逸れたな。えっと…依頼依頼…
「そうだな…どれも簡単に行けそうだけど…ルウナどうする?」
「これ!これこれ!」
「お、おう」
そう言ってルウナが提示したのは、街道沿いに出没したゴブリンの掃討。
依頼主は領主になっている。
「なんでこれなんだ?」
「報酬が結構良いのと…なんかゴブリンっていかにも駆け出し冒険者の為の魔物って感じがしない?」
「はぁ…わかった。それにするか」
「こちらの依頼ですね?ゴブリンの依頼を受ける冒険者は少ないので助かります!」
「ん?結構、報酬金高いのにそんなに少ないのか?」
ゴブリンと言えばかなり低位の魔物だ。一匹や二匹ならば、冒険者でなくとも成人男性なら追い払うのは簡単だろう。
それにこの依頼は街の権力者からの依頼なのでそれなりに報酬が高くなっている。
具体的に言うとゴブリン一匹につき2500シル。
今回のゴブリンの群れは10~15匹程らしいので、全て狩れば25000シルは軽く越す。
25000シルあれば、一週間は多少贅沢出来るだろう。
それでも冒険者をやっている以上、装備や回復薬に大部分を消費するので、実収入は10000シル程になるだろうが。
ちなみに現在の所持金は昨日の100000シルだけである。
これも、かなりが冒険用具で消えていく事だろう。居候中なので、食費がそんなに掛からないのが救いだ。
「実は、最近のゴブリンは戦闘力だけなら問題無いのですが…冒険者への嫌がらせが凄まじくてですね…皆さん、嫌がるんですよ」
「へぇ、例えばどんな?」
「うーん、それが皆さん、話したがらなくて…致死性は無いらしいのでギルドとしては深くは聞かないんですけど」
「ま、いいんじゃない?受ける人が居ないなら私達がバッチリ達成してくるわ!」
「討伐証明部位はゴブリンの鼻です。それでは頑張ってくださいね」
◆
俺達はゴブリンの討伐をするため、街道沿いの森に入っている。
入っている…のだが…
もう帰りたい。うん、切実に。
「うわっ!また飛んできた!あぁもぉ!」
「お?あぶね!」
さっきから何が起きているのかと言うと、ゴブリンの排泄物を必死に避けたり、落とし穴に落ちる前に飛び退いたり。
うん、逃げてばっかりなんだよな。
その癖、あのゴブリン共、遠巻きにこっちを見ながら大笑いしてやがる。
まだ被弾してないのが救いか。
これ、普通のブルーランクだったらとっくに糞まみれだぞ…そりゃ話したくも無くなるわ。可哀想に…
ブチャッ!
…可哀想に?ブチャ?なんか嫌な音がしたんだけど…
「うわっ!汚ねぇ!」
「ステラ近づかないでね」
そう言って距離を取るルウナ。遂に被弾しちゃったかぁ。魔王を倒した男なのに。ゴブリンの糞に…
……斯くなる上は!
「《無所持》魂喰鎌!魔炎暴…」
「あぁ!ステラ駄目だって!森が燃えちゃうから!」
だって、森ごと燃やし尽くしてやろうかと…
いや、待て。それだと俺が魔王だ。仕方ない。
「我が繰るは、全てを呑み込む龍の魔水。喰らい尽くせ!《龍水槍》!」
今回、《無所持》で作り出したのは《龍水槍》
この槍は水龍の魔力が練り込まれており、槍身を伸縮可能な水に変化させることができる。
これの便利な所は、一部だけ水、一部だけ槍に出来る所だ。
つまり、邪魔な木々を無視してゴブリンに攻撃を届かせることが可能なのだ!
ちなみに必要とする魔力量は《魂喰鎌》の倍程。
え?なんでそんな物をゴブリンなんかに使うのかって?そりゃムカついたからさ。
「おらぁっ!どうした、ゴブリン共!逃げてばっかじゃどうにもなんねぇぞ!」
「ステラ…程々にね…」
そうして10分後。そこには13匹のゴブリンの死体が転がっていた。