小部屋
「貸城様、明日のゲームですが、準備は滞りなく完了したとのことです。」
「うむ、ご苦労。作業班に就業だと伝えてこい。」
はい、と言い男が部屋を出ていく。
静かな部屋から大部屋を上層から見下ろす眺めは良い。
殺風景で何の趣もないが広範囲を一望できる。
大部屋はいまや数時間前の広さはかけらもないほどに、作業員が入れた仕切りによって分断されている。
突如、部屋の扉がノックされる。
「俺だ。古高樹だ。」
声を聞くと貸城は自らドアノブをひねり、迎え入れる。
「おお、待ちわびたぞ古高樹。」
「貸城が直々に考案したゲームをやるんだってな。ちょいと見に来てやったわ。」
「そいつはありがたいが、本番は明日だ。時間が空いた時に来てはどうだ。」
「そうさせてもらおう。お前の作るゲームはいつも面白いから気になっちまってな。
今回も何かあるんだろ?」
「俺はただゲームを用意してやっているだけだ。何かするのはいつもプレイヤーばかりさ。
今回も見所のあるやつらばかりだ。」
「ほう、一体どんなやつなんだ。」
「まず、『鬼佐虎 強志』、こいつだろう。
元雀荘のオーナーだが、カモを見抜くずば抜けた洞察力が特徴だ。
勝率はともかく、最も多く稼ぐのは鬼佐虎だろう。
それから『花尾 春来』、こいつは強盗で捕まったが、
以前非合法のカジノで荒稼ぎをしていた経歴を持つ。
そのカジノ自体はもうないが、『泣き止み花尾』つってな。ちったあ名の知れたやつだ。
こいつはギャンブルがめっぽう弱くてな。最初から大きめに貼って惨敗するやつだったが、
いつも負けが込むと花尾は泣くのさ。しばらくして泣き止むと、
花尾はしょぼいベットでゲームをし始める。傍から見てるとツキがなくなった死人のような雰囲気だが、
花尾はそこからが強い。なぜだか、泣き止むとスイッチが入る。
スロースタートだがカジノで食っていけるほどのやつだ。」
「はっはっは、随分とクセのあるやつらばかりじゃないか。」
「まったくだ。」
翌日の朝が来た。
窓なんてないから朝かどうかはわからないが、時計の針はそう言っている。
さて、目覚ましも兼ねて、大部屋の様子を見に行ってみるか、集合時間まではまだ15分もある。
・・・慢心していたわけではなかったが、大部屋を見に行って驚きを隠せない。
昨日まで本当に大部屋だったところが、小さな部屋に区切られている。
どういうことだ・・・!?
驚いているうちに、次々に人が入ってきて、時間も指定時刻となった。
「おはよう、諸君ら。貸城だ。ルールは暗記しているだろうな?
大部屋を改造して、多数の小さな部屋に仕切ってわけた。今日行うダウトは
全てこの仕切りの中で行う。ゲームが終わるまで、入退場は厳禁だ。いいな?
また、観戦も禁止だ。ゲームを直接しないことが許されるのは係員のみだ。
制限時間は午後8時。ちょうど12時間だ。さあ、始めろ!」
貸城が言い終わると、ゆっくりと人ごみが動き出した。
俺は、どうしようか。騒がしいのも好きじゃないから、遠くの部屋で待機していよう。
俺は過度に近い部屋を適当に見繕い、入室した。
「おう、ようやくきたか。」
やけに余裕のある態度の大男が先客だった。
「・・・・・・」
「なんやー、無愛想なやっちゃのー。」
「・・・・・・」
「ワイは強志、ツヨシ、や! 鬼佐虎 強志言うねん。よろしゅーたのむわ。」
「よ、よろしくお願いします・・・。」
「かたくならんでええねんて、ゲームなんやから! じっくりやったろやないかい。」
「は、はあ・・・。」
なんなんだ、この男は。どこなのかもわからないこの地下の底でどうして笑ってられるんだ?
「どうやらゲームが始まったようだな。」
「さあ見させてもらうぞ。貸城、昨日の鬼佐虎というのはどいつだ?」
「カメラがあるから一目瞭然だ。この大柄の男だ。
クックック、この男、早速仕込みにかかっているな。」
「仕込みだって?」
「そう、この男の卑劣で合理的なやりかただ。まず、一番初めにあったやつをてごめにしておくのだ。
仲間を一人、信頼できる関係にしておいて、二人係でカモからとことん搾り取る。
これが非常にうまくいく。最初から最後までペースを落とすことなく作業のように、
それでいて愉快で楽しい雰囲気を持ってゲームをするのだ。
それに、鬼佐虎は仲間作りにも目利きに通じている。
仲間の能力をしっかり把握しつつ自分のペースに持っていく。
それでいて仲間の特徴も余すことなく利用していく。経営者の鏡のような男さ。
麻雀で磨いたスキルだろうな。イカサマする気まんまんだ。」
「早速やらかすというのに処罰せんのかい?」
「ルールには犯則はベットで解決とあるが、プレイヤーの誰かが犯則を見破るまでは無問題だ。
せっかくゲームを止められる係員を各部屋に一人からなず待機させているというのに
係員を有効に使わず、躊躇するような輩は犯則ベットさせることすらできん。」
「あいも変わらずえげつないな、貸城は。」
「褒め言葉として受け取っておこう。そろそろ来るぞ、カモどもが。」
カメラには、やがて次々に人が部屋に入ってくる様子が映し出されていた。
「今回のゲームはやはり鬼佐虎の一方的なゲームだろう。見逃すんじゃないぞ。
こんな理不尽なゲーム、ほかでは見られんぞ?」




