間違いない
「えーと。あの。大変見苦しい所をみせてしまった」
我に返った桜花は床に正座をし、顔を赤くしながら謝罪の言葉を繰り返していた。
「い、いや、気にすることはない。べ、別に俺は気にしてないから」
そう言いながらも、紅太郎は最恐、最悪のヒーローである桜花の豹変ぶりについて行けずにいた。
「まだ痛む……痛みますか?治療が終わっても目が冷めなかったので、こうっ、九条君の部屋に運んできたんだ」
「あーと、まず怪我は大丈夫だ。少し違和感はあるけど治ってると思う。それから俺に対しては敬語じゃなくていい。元々俺と神前さんは幼馴染って聞いているし」
桜花は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻り同意を伝える。
正直、紅太郎としては桜花に敬語を使われると寒気がするのが本音だったが、さすがに言えなかった。
大体こいつは誰なんだ。いつものドス黒いオーラはないし、顔も基本的なパーツだけは同じだが、なんて言うか邪悪な感じがしない。
紅太郎は戸惑いのあまり挙動不審になっていた
「具合は大丈夫かい?気分が悪いとかはないかな?」
桜花は心配そうな表情を浮かべ、紅太郎の顔色を観察している。
「六花も……紅太郎を襲った私の妹なんだけど、かなり反省しているようだったから、あまり責めないでやってほしい。ついやり過ぎてしまったらしいんだ」
本来ならつい、で済むような問題ではなかった。
しかし、正直自分にも非があるため紅太郎は気にしていなかった。ましてや自分が口にしていた言葉は今更ながらにひどい。照れ隠しが入っていたとはいえ、怒られても仕方のないところだろう。
ピトッ
気がつくと桜花のおでこと紅太郎のおでこがくっついていた。
「うわあぁぁっ」
急に目の前に現れた桜花の顔に焦った紅太郎は、うわずった声をあげながら後ずさっていた。
「うん。熱はなさそうだね。検査の結果は打ち身だけだったから大丈夫だと思うけど、今日は安静にしておいた方が良いよ」
桜花は紅太郎の顔を見上げて、心配そうな顔をしていた。
ちょっと待て。本当にこいつはあの神前桜花か?
言動はもちろん、顔も紅太郎の記憶と全然違う。
そう思った紅太郎は、まじまじと桜花の姿を観察する。
スラリと伸びた長い手足。(普段は身長の割にリーチが長いとしか思っていなかった)
程よく筋肉のついた均整のとれたプロポーション。(あんな細いやつから、どうして馬鹿げた力が!?)
小さな顔に長い黒髪。(防御力の低そうな顔面は面積が小さい。髪の毛を掴めるようなスピードならそもそも苦労していない)
うん。姿は一緒だ。間違いない。しかし顔はどうだ?
紅太郎は更にまじまじと、桜花の顔を覗き込む。
つぶらな瞳に、長いまつげ。筋の通った鼻。形の良い唇は桜色に色づいていて、小さいながらも自己主張をしていた。
認めたくはないが、どう控えめに見ても美少女と言わざるをえない。
そして各パーツを照合してみた結果。目の前にいる美少女は神前桜花、本人に間違いなかった。