失恋☆ラプソディ
色々と試みているものの、最初にやらかしたのが一番派手で印象に残っていて、衝撃的だった。
最近のはもう尻つぼみっていうか、ネタ切れ感が伝わってきて正直、痛々しい。
そんな無理してやることないよって優しく言ってあげたい。
君は十分頑張ったよ。
だからさ、そんな無理くり私苛め倒すの、止めて貰えないかな。
風船爆弾が投下してきて以来、実はああいった現象がちまりちまりと私の身に降りかかっていたりする。
カマ先輩の存在感の濃さのせいで、すっかり頭から抜けていたけれど、実は犯人は判らず終いだった。
稔はカマ先輩を疑っている。でも違うと思うんだ。あんな堂々真っ向から勝負かけてくるような人が、陰からこそこそしみったれた嫌がらせしてくるだろうか。
しかも和解したと言うか、誤解を解いたと言うか、兎に角もうちょっかい出してくる雰囲気じゃなかった。
となれば他に稔に恋心を抱いている子がいる。私はまたも謂われのない嫉妬の対象にされてしまったようだ。
元より私は男顔なわけでもガタイが良いわけでもない。だからこの学校の中では、とんでもなく女顔の生徒という認識だろう。
つまり受け、別称をネコ。そう認識している人もいるだろう。
カマ先輩も私が稔に色目を使ってるような事言ってたし。
冗談じゃない!! 誰も彼も何も分かっちゃいない!
私と稔がくっついたって美味しくないだろうが。萌えが失われるだろうが。
馬鹿め、正直に私に稔が好きなのだと言いにくれば場合によっては協力してやるってのに。ちょー協力しちゃうのに。
勿論事細かに近況報告してもらうけどね。下世話な部分まで根掘り葉掘り。
世の中って上手く行かないもんだよね。
溜め息を吐き出すと、稔が眉間に皺を寄せた。これは気分を悪くしたんじゃなく、嫌がらせに私が参ってるんじゃないかって心配してる顔。
大丈夫だよと肩を叩いたけど、表情は戻らなかった。
面倒だなとは思う。でも意外と平気なものだ。
初めの頃、私の机を倒して中身をぶちまけたりしてたらしいんだけど、私が登校する前にクラスの子が直してくれていたので全く気づかなかった。
なんて事が3度ほとあって、漸くその事実に気付いた犯人は靴箱に的を絞り、しかし先を読んだ私が犯人に「学校のものを壊したら駄目だよ」という文面の手紙を入れておくと、きっちり翌日に「分かってるバカ!」と返事が送られて来てたり。
なんだかそこまで悪い子とは思えないんだよね。変なとこ几帳面だし真面目。
そんなこんなで行動を制限されまくって、こじんまりした嫌がらせに止まっている。
机の中に放置してた教科書に「持って帰れ」とデカデカ書かれてたのには笑った。
けどこれ以上続けば、稔や基がなぁー。友達思いなので私の代わりに怒ってくれるし、それは嬉しいけどあんま状況が宜しくない。
あ、時芽は私以上に笑ってる。次何してくんのかなって楽しみにしてる。
稔が好きでやってしまった行為のせいで、稔に嫌われるなんて馬鹿らしいじゃない。犯人はその辺考えてないのが一番駄目だと思うんだよね。
それなら毎日お手製のお弁当持ってくるとかさぁ。もっとこう、アピールの仕方あんじゃん?
効率良くゲッツ出来るよう努力しようぜ。やっぱ女の子の方がこういう所は強かなのかなぁ。
そんなわけで。
「記念すべき第一回! チキチキ 犯人を捕まえろ、題して犯行現場を待ち伏せするぞ大作戦ー!」
わーい。ネーミングセンスねぇー。
やる気に満ち溢れた基と、面白がっている時芽と、自分のせいかもしれないという罪悪感から付き合っている稔と、被害者である私。
基も正義感からくるやる気ではなく、遊び感覚ですよ。結局その程度ですよ。被害がみじんこなのでね。
「えーとポテトチップスはコンソメでぇ、じゃがりこはチーズ。カールはカレー」
「オリリンちょいそれはチョイスが偏り過ぎだよぉ、どうしてかっぱえびせんが無いのかな」
「カールはチーズだろ」
「ちょっと三人共! 基はもう放っておくとして、時芽のツッコミが更にツッコミ待ちってどうなの!? 稔はスルーしないの!」
私の負担を考えてください。ポテチを奪い取って袋を開ける。
「甘い系! チョコが無いと死んじゃう! ていうかうまい棒たこ焼き味は何処!?」
「チョコ味じゃねぇのかよ。たこ焼き味ってマニアックだな」
「なにおう、真のマニアは納豆味に行くの!」
「そんなのあるんだぁー」
ばりばり、もしゃもしゃと。あれ、何しに来たんだっけ。お菓子パーチーだっけ。
放課後の教室の中、四人でお菓子広げてお菓子談義。
「ベビースターラーメンにさぁ、お湯かけたらチキンラーメンになるって小さい頃思わなかった?」
「ショックだよな、ふやけてべちゃべちゃになるし、味消えるし」
「かたミーもやったんだぁ」
「いた! じゃがりこが上あごに刺さった!」
「うわぁ地味に痛そ」
塩やら何やら手がベタベタになってきたけど、誰一人ティッシュなんて思っていない事実に行き当たった。
「手ぇベタベタになっちゃった、基のシャツ貸して」
「おういいよ、洗って返してちょ。もう三日着っぱなしだったからちょうど良かった」
「えええー汚っ! 夏なのに。もう七月なのに!」
「うっそぴょーん」
「それこそが嘘くせぇよ」
「臭い臭い。漂うヘドロの臭い、ピュアどぶオリリン!」
「ピュアっぷりが何処にもないだろうが。謝れ、取り敢えず夢見る世界の少女達に謝っとけ」
「つかオレの机がカスまみれなんですけど、油ついた手で触るから指紋ぺったぺたなんですけど!」
カスを床に払い落とす。あーもう私の机で食べるの止めれば良かった。隣の子の机にすれば良かった。
「お前等何やってんだ、ティッシュ持ってないならスナック菓子は食うんじゃねぇーっ!!」
ぺたーんと小気味の良い音がしたと思ったら、机の中央に未開封のポケットティッシュが叩きつけられていた。
「あと、カスを下に落とすな! 掃除した奴等に申し訳ないと思わないのか!」
四人揃ってご立腹の子を見上げていた。知らない子が、大変怒っていらっしゃる。
脱色されつくした髪は立てられ、ライオンの鬣みたいだ。眉も整えて細いし、耳には無数のピアス。
厳ついんだけども、背が低くて顔立ちが幼いから、頑張って悪ぶってるぜって感じで微笑ましい。
不良に憧れる子の域を出ない感じが堪らないなぁ。
しかも私達にかました説教何あれ、物凄く善い人の台詞だったんですけど。ティッシュを持ち歩く不良ってなんだ。
「もしかしてー、君がカナくんに嫌がらせしてた犯人?」
冷静に、緊張感無く時芽が指摘した。すると急に顔色を悪くした不良くん。分かり易い。
「おおテメェか。見ない顔だな、何かコイツに恨みでもあんのか、ああ?」
ずいと不良くんに近づいて、メンチ切るのは基だ。そうね、本当は緩いキャラだから忘れちゃうよね。外見だけならよっぽど基の方が不良っぽいって。
ほらほら犯人の方が怯んじゃってんじゃん。面白がってからに。
にしても本当格好だけだな、不良くん。
「さっさと言えよ、何で堂島につまんねぇ嫌がらせしてんだ」
「……稔これじゃあどっちが苛めてんのか分かんないよ、基も」
ぷるぷる震えて今にも泣き出しそうじゃん。被害者の私が可哀相とか思っちゃいそうだからやめてあげて。
「でもマジで何でオレなわけ? 会った事ないよね?」
分かってますよ。本当は分かってますとも。君が稔の事大好きだから、同室者でしかもずっと一緒にいる私が目障りだって事くらい。
でもここは礼儀として聞いとくべきだろうし、腐女子(いや腐男子と言っておこうか)だとバレたくないし。
にやけそうな頬を引き締めていると、不良くんは涙を引っ込めて私を睨んできた。
「ふざけんな! 今までどうして嫌がらせされてたか気付いて無かったのかよ!? お前のせいで板宿先輩が傷ついたからに決まってんだろ!」
「…………は?」
四人とも、不良くんが登場したときよりもそれらしいリアクションを取った。口をぽかんと開けて不良くんを見ていた。
えーと……んん?
「板宿って誰。つか君の名前は何?」
いい加減、不良くん呼びだと不便だ。
「なっ、板宿先輩だぞ!? 球技大会のときに会ってるだろうが! ……おれは高盛だ」
「んー? 柚谷・鷲尾・カマ先輩しか会ってないけど」
「カマって何名前っぽく言ってんだよ! カマって言うなーっ!」
「ああ、あのカマ野郎の事か」
必死に否定してるところ悪いけど高盛くん、カマが板宿先輩を指してるって気付いたって事は君も彼がカマだって認めてる証拠だからね。高盛くんは完全に正直村出身者だ。
「やっぱあいつの差し金かよ」
忌々しそうに吐き捨てた稔。食って掛かったのは高盛くんだった。
「先輩は何も知らねぇ! おれが勝手にやった事だ。ただあの人が沈んだ顔してるの見てられなくて……、こんな事やったってただの八つ当たりだし、何の解決にもならないって分かってたけど……」
「高盛くん……」
つー事はなんですか。
稔←板宿←高盛
こういう事ですか。一方通行万歳!
高盛くんは板宿先輩を涙を飲んで身を引いたのに、私という邪魔な存在のせいで先輩の恋が成就しない事実を知り居ても立ってもいられなかったと。
健気だ! 健気受けだ! ん? 受けなのか?
私的にはもうどうにかして板宿先輩とくっついてもらいたい。
となると、先輩はカマ……もとい乙女なので、えーと……。うん、可愛い年下攻めってのもありだよね。
自己完結させる。