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「ふーん、でも普通さぁ恋敵でしかも先輩振った稔に嫌がらせするもんじゃないの?」
恋って言った! 時芽が恋って言った!
よしもう私の妄想だけじゃないって事だね。誰の目から見ても高盛くんは板宿先輩大好きっ子だ。
興奮するぜ。
「はぁ!? 恋敵ってアホか! おれは板宿先輩の事そんな風には……好きだけどそういうんじゃなくて! つか男に恋ってアホか!」
顔を真っ赤にしてテンパってる。時芽アホかって二回言われてる。
面白いほど反応しておいて、先輩の事そういう風に好きじゃないとか説得力がまるで無い。かーわーいーいー。もう照れちゃってぇ。
「先輩はなぁ、おれが不良に絡まれてたところを助けてくれた、強くて優しい男の中の男なんだよ! おれの憧れなんだ!」
「何そのベタな過去話」
上を向いて、ポテチの袋の残りを全部食べきった基がけらけら笑っている。確かに。
しかも先輩は男の中の乙女だよ。現実見た方がいいよ、板宿先輩はそりゃもう男らしい外見してるけども。
「一つ分かんないんだけどさぁ、タカモリくんはカナくんにどうしてもらいたいわけ? 何したら気が済むの?」
時芽はじゃがりこを噛み砕きながら。スナック菓子って麻薬に近いものがあるよね。やめられない、とまらない。
にこにこと笑顔を絶やさない時芽だけれど、妙な威圧感がある。
「かたミンと距離置いたらいいとか? 先輩に土下座?」
すぅっと時芽の目が細く開かれた。教室内の温度が二度ほど下がった気がする。
「何にせよ、君はこのまま風紀委員に引き渡すけどねぇ」
あっは! といつも通りの軽口で言ってのけた。今の時芽は鬼畜というより腹黒じゃないだろうか。
いいよ、腹黒攻め大好きだよ。なんて言ってる場合じゃない。
「風紀委員って……、もっと平和的に解決させようよ」
「端から一方的に八つ当たりしてきた奴に、平和も何も無いだろ」
終始不機嫌な稔も時芽の意見に賛成のようだ。基に何とか言ってもらおうと思ったけど、笑顔で首を振られた。
もう、なんて友達想いの素敵な奴等だろう。
私としてはそこまでの被害を被っていたわけではないから、もう止めてもらえればそれでいいんだ。
風紀だ教師だって出てきたら事が大きくなって面倒だし、私が苛められてたとか家族に知れたら、そっちの方が大問題。
そうは言っても何もなしでこのまま、はいお終いってわけにも行かないだろうお互い。一番手っ取り早く、後腐れない終わり方。
「高盛くん。カマ……板宿先輩呼んでくれない? まだ学校に残ってたらだけど。断らないでね、その時は風紀に言うから」
結構時間が経っているからもう寮に帰っているかもしれない。
目に見えて狼狽え始めた高盛くんは、それでも黙って携帯電話をポケットから取り出した。
電話ではなくメールで呼び出すらしい。理由が理由なだけに直接は言えないんだろう。
平和的にと言いながら風紀や生徒会に突き出すよりも、私は彼にとって残酷な選択をしたかもしれない。
結局は自分に一番都合の良い方へと導いただけだ。
こういう時、姉ならどうするだろう。人心を読む術に長け、その状況下で最善を導き出す能力の高さは姉の右に出る人はいない。
更に口が上手く人を丸め込んでしまう姉なら、悩む事なく高盛くんにこんな顔させる事もなく解決するんだろう。
悔しいけど、私には出来ない。高盛くんの携帯が震えた。先輩からの返信。すぐここへ来るそうだ。
誰も一言も話さなかった。
暫くして板宿先輩が入って来た。
基と時芽は傍観者。稔はそっぽを向いた。高盛くんは相変わらず緊張した面持ち。私は自分の不甲斐なさに落ち込み気味。
先輩は呼び出された理由が分からないせいか、僅かに眉を顰めた。
「なぁに、どういう事なの?」
パカッと基と時芽の口が開いた。時芽は目も開いている。先輩の口調と声色に相当驚いたらしい。
そうだろう、そうだろう! 私が以前受けた衝撃を思い知れ。
「わざわざすみません先輩」
頭を下げる。私に笑って応えた先輩はさっきから動かない高盛くんの隣に立った。それだけで高盛くんの肩が跳ねる。
「高盛が何かやった?」
「彼、先輩が好き過ぎるらしくって」
「な、おま……!」
「高盛」
先輩の声が低くなった。普通に男っぽい声も出せるんだ。
高盛くんは怯えながらも、目はどこか輝いている。こういう所が好きなんだろうな。
「ああもう大体は解ったわ。本当お馬鹿なんだから」
自分を慕う後輩の性格は把握できるのだろう。こちらが説明するまでもなく、先輩は理解してくれた。
ぽんぽんと高盛くんの頭を叩く仕草はとても優しい。
「せ、んぱ……すみませんでした、おれ……」
「お前が謝るのはあっち」
私を指す。高盛くんは先輩に促され、しかしなかなか私には謝ってくれない。
プライドというか、やっぱ攻撃対象の私にごめんなさいは難しいらしい。
「そうだそうだ! 謝るならオレに謝れ!」
「……くそっ、どうもすみませんでした! これでいいかっ!?」
「うん、いいよー」
ごめんなさいで済めば警察は要らない。今回は謝罪で済む話だ。
これぞ、小学校の終わりの会で「高盛くん、堂島さんに謝ってくださいー」「ごーめーんーなーさーいー」作戦!
最初から言ってるように、私は別に怒ってないしそこまで困っても無かったのだから。にっこり笑って、もう終了だと全員に告げた。
納得しなかったのは稔だった。
「お前また……怒るって事知らないのかよ」
「いいや、この前かたミーが勝手にオレのナタデココinゼリー食ったときは怒ったろ」
「まだ根に持ってんのか!? 弁償しただろうが! つーかそっちの方が罪重いってか!」
「食べ物の恨みをナメたらあっかーんー」
「まあそっくりぃ」
時芽が便乗して、基が笑う。こうなってしまったら、彼等の独壇場。
先輩や高盛くんの困惑も、稔の怒りも全部全部流れていく。
「ありがとう、でもアタシからも謝らせて。この子が迷惑かけてごめんなさい。それから高盛」
窘めるように名前を呼ばれ、ぴしりと背筋を伸ばした。
「失恋して感傷に浸るのも恋愛の醍醐味なのよ、心に傷を負った自分に酔いしれたい時期なのよ。今は黙って見守っていて頂戴な」
先輩ー! それとんだナルシスト発言ですぅー!!
憂いを帯びた自分って素敵……って言ってるようなものですー!
いやでもその考えはある意味かなり女性的ではないだろうか。やはり貴方は乙女なのですね!
御見それいたしました。
そんでもって「先輩の気持ちに全然気付けなくて……申し訳ありません!」とか高盛くんどうしてしょげてるの。恋は盲目か。
横からジタバタ足踏みする音が聞こえて何かと見てみれば、時芽が机に突っ伏して足をばたつかせていた。
先輩のナルシストっぷりがツボだったようだ。笑い上戸め。
「ちょっと時芽笑いすぎだから。ハジ何とかしてよ」
「よっしゃ任せろ。そうだなぁ、クリオネの学名は『ナメクジの形をした海の女神』なんだぜぃ」
「はぁー笑ったぁ」
「何で!?」
雑学聞くと笑いって収まるものなの!? そっちのがよっぽど雑学なんだけど!
人体の不思議過ぎるだろ。
「アホだろお前等」
いやーっ! 稔やめてよ、私もこの二人と一緒くたにするのは。良い具合に話は逸れたけど、脱線し過ぎた感が否めない。
最後にビシッと締めて終わりにしますか。
「高盛くん。確かに君がやったことは迷惑行為だけどもね、オレはちょっとした交換日記みたいで実は楽しい一面なんかも見出したりしてたんだよ。まぁまた廊下でばったり会ったりしたら声掛けるから、そのつもりで。無視なんかしたら今度は苛め返しちゃうぞ!」
「……堂島くんって変な子ねぇ」
呆れた、と先輩は溢した。
「アイツに目付けられないようにね」
「あ、アイツ……?」
何となく不穏な響きが感じ取れた。あまり私にとって有り難くないような。
高盛くんも、はっと顔を上げてまじまじと私を見てる。彼にはアイツってのが誰か瞬時に判断できたくさい。
「知らないなら、知らない方が良い奴よ。気にしなくてもいいわ」
悪戯っ子のような茶目っ気たっぷりに先輩は言う。うふって聞こえたような気がする、いやまさか、さすがにそれは。
誰も何も言わないからきっと幻聴だったんだ、そうに違いない。
「あー予想外に面白い展開だったねぇ」
「何がだ。結局なぁなぁになっただけだろ」
「いいじゃん、オレらいっつもグダグダじゃん」
稔は真面目だなぁ。寮に帰りながら、こんな会話さえもグダグダ。
このくらいの緩さが私にはちょうど良い。
何かが起こっても緩やかで。起こらなくても日々の生活に退屈する事が無い程度には楽しくて。
この学校での生活が、意外にも心地良い。抜け出せなくなりそうなくらい。
だから女なのに男子校に馴染みまくっているのも問題じゃない。
今最も重大な問題は、稔と私に嫌がらせしてた犯人をくっつけようとしてた作戦が大失敗した事だよ!




