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4 旅の始まり

それから数年が過ぎた。


レオは青年になり、街の小さな学び舎で子どもたちに読み書きを教えていた。くすんだ栗色の髪は清潔に短く整えられ、琥珀がかった瞳には、かつての怯えの影はもうなかった。柔らかな笑みを浮かべると、どこかソフィアに似ていた。


ソフィアは変わらず、小さな家で一日一日を丁寧に生きていた。パンを焼き、畑を耕し、近所の子どもたちに怪我の応急処置を教える日々。癒しの奇跡を使うことはなかったが、人を癒す手を忘れたことは一度もなかった。


その春、レオが独り立ちすることになった。


「明日から、教師になるんだ。」


そう言ってレオは笑った。あの橋の下で初めて出会った少年が、今ではしっかりと背筋を伸ばし、未来を見つめている。


「もう心配いらないよ。僕は、大丈夫。」


ソフィアはその言葉を、胸の奥でそっと繰り返した。育て上げた、というつもりはない。ただ、そばにいられたことが嬉しかった。そして彼が旅立った今、彼女は決めた。


――また歩き出そう。


荷をまとめ、戸棚の鍵を閉める。かつて孤児たちと暮らした日々の名残が、家の隅々にまだ残っていた。呼ばれる声がある。どこかに、まだ手を伸ばすべき誰かがいる。そう思ったとき、扉の外に人の気配を感じた。


「行くのか?」


振り返ると、そこに立っていたのはテオドール・モレルだった。鎧も階級章もない。旅装のまま、やや無精な髭さえ伸ばしかけていた。


「……いつから、そこに?」


「昨日から。言葉を探していた。」


声は低く、硬さの中にわずかな温度があった。


「私も行っていいか?」


ソフィアは少しだけ目を見開き、やがて肩の力を抜いて微笑んだ。


「もちろん。道はひとりで歩くより、ふたりのほうがいいわ。」


テオドールは頷くと、ソフィアの背嚢の片方を手に取った。ふたりは扉を出て、街道へ向かって歩き出した。どこへ行くかはまだ決めていない。けれど、その足取りに迷いはなかった。


かつて罪を裁き、

かつて誰かを救おうとしたふたりが、

今は同じ地を踏みしめて、肩を並べて歩いている。


旅の始まりを告げる風が、そっと髪を揺らした。遠くで、鳥の声が聞こえる。赦しは終わりではない。赦しのあとにも、人はまた生きていく。そしてその生の先には、まだ知らぬ誰かの痛みがあり、そこに、ふたりの足音が届くことを願っていた。

ソフィアとテオドールの凸凹バディの救済ストーリーのプロローグ、これにて完結です!

これからのふたりの冒険と関係の変化が読みたい!と少しでも感じてくださった方は、

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