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ある妖精の約束 前編

作中に本編のネタバレが含まれます。ご了承ください。

「あっメズラしー!『あの木』、ここにも生えてるんだー!」


 旅の道中、カルミアが突如発した声に驚きスズランとクレソンは顔を上げてカルミアを見た。

 カルミアが指す方には沢山の木が生えていたが、クレソンはカルミアの言葉を聞いてからジッと指された方を見て直ぐにカルミアがどの木の事を言ったか判り、カルミアと同じ表情をした。


「あぁ本当だ!いやーカルミアに言われるまで気付かなかったなぁ!」

「ダメだぞー?クレソン隊員。そんなシリョクじゃ、うちのサンボーはツオまんないよー?」


 あっはっはと笑い合うカルミアとクレソンをまるで対岸に居るかの様にしてスズランに気付き、二人は笑うのを止めて説明を始めた。


「ホラ!『萌えの節』ってあるじゃん?ミドリが増えて来てあったかくなってきてさ、たくさん花がたくさん咲き始めるの。」


 『萌えの節』は季節の節目である四つの区切り目の一つであるのは知っている。暖かい日、暑い日と順番に気候や温度が変わり、だんだんと寒くなって全ての植物が枯れてまた時間が経つとまた暖かくなる、その繰り返しをヒトは季節と呼ぶ。

 その内の『萌えの節』は他の季節と比べて暑くも寒くも無い、そして枯れた草花が再び芽吹き出す季節だ。


「あの木は『萌えの節』に花が咲き始めるんだが、この辺りじゃちょっと珍しい木の筈なんだ。」

「そーそー。タシか東北トーホクだっけ。そこにしか今は生えてないって言われてるハズなんだよね。だから見つけた時ビックリした。」


 どういう条件で花を咲かせる木なのかは詳しく知らないらしく、二人はただ『あの木』と称して話をしていた。何やら木に関して知識以外に何か話題があるように感じた。二人が東北にある木を知っているのにも関係している様だった。


「うんっ実はね、お仕事で東北トーホクに行った事があるんだ。」

「あれなぁ。大変だったよなあれは。」


 そうして二人は過去にあった仕事に関して話を始めた。


     2


 それは二人が今の仕事に就いたばかりの話。なり立てだというのに二人には上司からある仕事が割り振られた。

 二人は既に互いを見知っており、連携には問題無いだろうと上司が判断したらしく、着任したばかりの二人に早く任務を言い渡したとの事。

 場所は東北の長閑な風景が続く小さなまち。木々に囲まれた家々が並ぶそのまちに二人は待ち合わせの場所に向かって歩いていた。


「おぉ!見たことないコーケイだぁ。」

「確かに、こんなに自然が多く残るまちは珍しいな。」


 本来は大きなまちとなれば自然物が残る事は無い。逆に田舎のむらであれば自然物は多く残る。今二人がいるまちは大きくはないが道は石が敷かれ、ヒトも血気盛んで店が並んでいる。とても栄えたまちなのが素人目でも判る、とか。


「セッカク初めて東北にきたから、このコーケイを見ながら食事でもしない?」

「カルミアお前、それは…妙案だぞ!」

「でしょー?」


 珍しいまち並を見て二人もはしゃぎ、最早二人にはここに来た当初の目的は遠い彼方へと追いやられた様だった。

 言って二人は高々に笑い声を上げていると、向かい合った二人の間に割って入る様にして話し掛けるヒトが現れた。


「あっ!失礼ですが、あなた方が騎士団所属の方々ですか?」


 二人に話し掛けてきたのは、待ち合わせをしていた件の憲兵だった。指定の鎧を身に纏い、先に聞いていた特徴とも合致していたので二人は相手が誰か判った。どうやら歩いている内に待ち合わせの場所まで来ていた様だ。


「…なんだー。着いちゃったかぁ。」

「折角だしその辺り散策しようとと思ったんだがなぁ。」

「いや、仕事しに来た筈ですよね!?」


 お互いに仕事出来た筈なのに、何故か相手が来た事で物凄く残念そうな表情をして、憲兵は訳が分からなかった。


「いや、冗談ですって。初めまして、私がクレソンで、相棒のカルミアです。」

「相棒のカルミアで、アタシの相棒のクレソンです。」

「相棒のクレソンです。」


 自己紹介を繰り返しされて憲兵は少し混乱したが、改めて紹介をして、憲兵は仕事についての話を始めた。憲兵はどうぞと言い、二人をある場所へと案内をした。


「既に聞いているとは思いますが、どうか今回向かう場所に着いては他言無用ですので。」

「あぁ、分かっています。」

「お口にセッチャク剤つける気持ちです!」


 そこまでしなくて良いです、と憲兵に言われながら二人は憲兵の後に着いて行った。

 そうしてまちを歩いて行くと、突如脇に逸れて家と家の間にある路地裏に入り、更に路地の奥へと進み、気付けば周りには人家が無くなり、鬱蒼とした森の中を歩いていた。歩く地面も石畳から土が丸出しのものとなり、雑草も伸びた荒れた道の中を三人は歩いた。

 そうして歩いた先、日が射しこみ明るくなったと思うと、そこは小さな丘となっていた。その丘の上には、一本の大きな木が鎮座する様に生えていた。《


「あれです。あの木が、今回お二人にご依頼した仕事となります。」


 二人は憲兵が指した先の木を見た。そうして二人は、先に言われた仕事の内容を思い出す。

 木の警護。それが二人に上司が出した仕事の内容だった。


「あの木、東北にしかない木だっけか。でも、あの木を同じ品種ならここへ来る道中にもあったと思うが。」


 クレソンが言った通り、憲兵が指し示し、仕事の対象でもある木はこの東北の地では珍しくない種類の木で、何なら民家の庭にも植えられている事もある程当たり前の木だった。


「もしかして、ナニかいわくつきってヤツですか?」


 カルミアもクレソンも、木の護衛をする事は聞いていたが、何故その木を護衛するか、そもそもこの木が一体何なのか知らずにいる。上司である隊長に聞いても、同じ答えが返ってきた。


「『聞けば』分かる。」


 一体誰に、何を聞けば分かるのか隊長は詳しく話す事は無かった。聞く相手とはもしかして憲兵かと思ったが、憲兵の方も聞いても口にはしなかった。


「申しわけありません。私の口からは話せません。」


 どうやら強い制約があるらしく、憲兵からも詳細は口に出来ない様だった。そして二人は困った。警護をするにしても何から守れば良いか分からない。


「木だから鳥とか動物、とか?」

「それなら憲兵さんがいる。俺らが態々ここまで足を運ぶ理由が無い。」


 二人で意見を出し合うも結局理由は浮かばなかった。そんな二人を遠巻きに見て、一人置いてけぼりにされ蚊帳の外となってしまった憲兵は精一杯二人に話し掛けた。


「わっわたしはここで失礼します。何かありましたら詰所の方まで宜しくお願いします。では。」


 憲兵は簡単に挨拶を済ませ、その場を後にした。二人は憲兵を見送ると、改めて護衛対象である木を見た。

 木の幹は太く、大きさからみてもかなりの樹齢だと二人には分かった。硬く強度もある。枝先を見ると小さな突起物が見られ、それがつぼみだという事が判る。


「花を咲かせるのか。まぁ植物は大抵花をつ咲かせるか。でも、それ以外に特徴も無く、本当にただの木だよな。」

「そうだよよねぇ。」

「護衛って事は、余程大事な木って事だよな。誰か偉いヒトが植えたもの、とかか?」


 二人は木を見上げ、見つめながら思案した。クレソンは仮説を一つ上げて見たが、それでも納得がいかなかった。


「もしかしたら、いわくつきとかじゃない?タトえばこの場所にナニかが埋まってるとか。そうタトえば…シタイとか。」


 ワザとらしく、声を低くし囁く様にしてカルミアは顔に影を落として言った。クレソンはそんなカルミアを見て、溜息を吐きつつ言った。


「いやいや、それはないだろう。そっそそっ、それなら俺らじっじゃなく、専門きゃ…専門家にっ頼むむ筈。」


 平静を装ってクレソンは喋っているが、明らかに動揺して言葉を噛んで話している。

 当時のカルミアは知らなかったが、ここで初めてクレソンが『そういう類』のものを怖がることを知った。そして知ったカルミアは、反省し謝罪する…事無く、むしろ楽しげにクレソンに更なる悪戯をする事を思いついたのだった。カルミアはクレソンの何も無い背後へと視線を向けた。


「…あっクレソン。クレソンの後ろに、ヒトが」

「あぁあああぁぁあぁ!?」


 カルミアが言い終える前に、クレソンはカルミアが何を言おうとしたかを察してしまい、一足先に悲鳴を上げてその場で蹲ってしまった。そんなクレソンの姿を見て、カルミアは無慈悲にも腹を抱えて笑い声を上げた。


「あははははっ!…ふふっ、ウソウソ!ウシろにはナニも」


 言って改めてクレソンが立っていた場所のその先を見ると、そこには護衛対象の木があり、その木の陰にヒトの形をした影が見えた。


「あっホントーにいた。」

「うああああああ!」


 いないと言う筈だったが、嘘では無く本当に何かが居た事により、嘘ではなくなりクレソンだけでなくカルミアも驚きの表情をした。ただクレソン程恐怖に歪み打ち震えてはいないが。


「ふっふふ…何やら声が聞こえたから覗いて見れば奇妙なヒト達が可笑しなことしているんですもの。」


 そしてカルミアは蹲り自分に言い聞かせるように呟いているクレソンを放って置き、その木に隠れたヒト影に近寄った。


「えっと、シツレーですがドチラ様ですか?」

「あぁ、こういう場合自己紹介をしなきゃ失礼なんでしたっけ?

 ワタシはベルク。見ての通りの妖精よ。」


 ベルクはどこか自信ありげに自分の姿を見せてきた。一度だけその場で回り、着ている服の裾をなびかせた。髪の色も鮮やかな薄紅色で、その姿は風に揺れるべんを思わせ、カルミアはそんな姿に見惚れた。


「…もしかして樹花族ですか?」

「あっ立ち直った。」


 先程まで恐怖で打ち震えていた筈のクレソンが立ち直り、カルミアの横に立って一緒にバルクと名乗る妖精を見ていた。そしていち早く妖精の正体を見抜いた。


「あらっワタシがナニか分かるのね。」

「いや、頭の『それ』を見たから気付いただけですけど。」

「えっえっ?ジュカゾクって…あの樹花族!?」


 クレソンの言葉を聞いてカルミアは改めてベルクの姿を見た。

 見るとベルクの頭には細長い突起物があり、その突起には小さく丸いものがいくつか付いていた。最初こそカルミアはその細長い突起物を纏めた髪に刺す装飾品か何かと思ったが、よく見るとその突起物は頭から生えた植物の枝だという事と、その枝についた小さく丸いものが蕾である事に気付いた。


「ってか、この木と同じじゃん!」

「今気付いたのか。」


 頭から植物を生やした妖精種という事で、カルミアも相手が樹花族である事と、その樹花族の頭から生やしているのが今自分らの前にある木そのものだと気付いた。クレソンはとっくに気付いていたらしい。


「それで、樹花族の方がどういった御用でこちらに話し掛けてきたのですか?」


 クレソンはベルクに対し丁寧に話し掛けた。樹花族は絶滅危惧種族であり、どこに属した者であっても慎重に扱わねばならない相手だった。だからクレソンはいつものカルミアと話す時の調子は鳴りを潜めて、懇切丁寧こんせつていねいに接する。


「さっきも言ったわ。声がしたから気になったって。」

「なら、自己紹介も済ませたから用事は無いと思いますが?」

「あらっ冷たい。こうしてヒトと話すのも久々だから、まだお話ししたいのだけど、お嫌かしら?」


 そういう訳では…などとクレソンは話している間、カルミアはベルクの姿を見渡して周囲をうろちょろ動き回っていた。


「…初めて会ったヒトをそんなにジロジロと見るのは失礼ではないかしら?」

「あっゴメンなさい!樹花族初めて見たし、すっごいキレーだから今のウチにタクサン見ておかないともったいないと思って!」


 カルミアは叱られて驚き、思っていた事を吐き出し謝罪した。元々そこまで怒っている感じではなかったベルクだったが、カルミアの言葉を聞いてどこか機嫌の良さが浮き出てきた。


「…フフっ素直だし正直な子なのね。良いわ。詫びをするならワタシの話し相手をしてくれるかしら?」

「ゼヒっ!」


 ベルクの申し出にカルミアは即答で了承した。

 クレソンはカルミアを止めようとしたが、フと思いつき、カルミアではなくベルクの方を向いた。


「もしかして、あなたはこの木の事に付いて何か知っていますか?」

「漸く聞いてきたわね。」


 ベルクは二人からの質問を待っていたらしく、聞かれて不敵そうな笑みを浮かべてから言葉を返した。


「この木はね、とても永くこの地に根付いているの。そんな木は、今ではワタシの住居でもあるのよ。」


 ベルクの言葉に二人は驚き二度見した。


「えっジュウキョって、家?えっこの中に住んでるの!?」

「いや、樹花族の『住んでる』ってのは俺らのとは違うから。」


 言ってクレソンが樹花族の代わりに説明した。

 樹花族は地に根を張り、その場所を中心に一定の距離内で生きていく種族である。ある者は屋根も壁も無く、ただ地べたで寝起きして暮らし、ある者は洞窟や木の洞の中で暮らす。


「うん?ならベルクの暮らすって、そのまんまの意味になるんじゃないの?」

「いや、恐らくだが、この木に『宿る』って事じゃないか?そうですよね。」

「ふふっ博識ね。そうよ、この木にワタシは力を送り、そうして力を共有して生きているの。」


 『宿る』とはつまり、共存するという事となる。

 はっきり言って樹花族は虚弱体質で、普通に暮らしていてもいつ病気になって倒れても可笑しくない。それ程まで体その物の作りが弱く、故に数も少なくなってしまった。

 そんな虚弱体質な樹花族は、別の力の強い生き物に力を渡し、共有する事で命を長らえさせる事が出来る。そしてその共存相手が件の木だと言う事らしい。

 つまり、二人に課せられた任務の護衛とは、正式には木であり、もう一つの存在である樹花族の護衛でもあった。


「漸く理解してくれたみたいね。今まで来たヒト達皆つまらないヒトばかりだから、今回はヒマをしなくて済みそうで安心したわ。どうぞこれからヨロシクね。」


 状況を早くに理解して顔から血の気が引くクレソンと、ベルクの言葉を最後まで聞いてやっと理解したカルミアの顔からも血の気が引き、二人揃って不安が胸を占めた。

 樹花族は説明した通り絶滅危惧種族であり、下手に扱えば極刑になりかねない、そんな存在でもある。そんな超巨大な爆薬を火の傍で扱う様な状況に、自身らの上司である隊長にある思うをぶつける。


「隊長、帰ったら絶対ケツに辛子棒突っ込む。」


 そんな二人の強い思いが届いたのか、どこかの部屋で一人の人物が肩を震わせて寒気を覚えたと言う。

長くなったので分けて投稿します。

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