今日の食事
※食材に対して、特に肉に対して失礼な態度や発言をする描写があります事を先にお詫び申し上げます。
種族の違いは見た目だけでなく、生態にも当然違いがある。それは住む場所による適応によるものだったるするが、そういう難しい話はさて置き、一番違うものと言えば『食べれるもの』、『食べられないもの』だろう。
獣人何かはどの動物の獣人であるかによって食べられるものが異なる。ヒトに体である為肉食の動物を持つ獣人でも野菜を食べる事は出来るが、元となった動物由来か、多少の嫌悪感があるとかないとか。
そして妖精種。森の奥地という自然に囲まれ、魔法への感受性が高い種族であり、そんな環境で生まれ育った種族であるせいか、肉が食べれない。
とある森の中に建つ小屋の中、そこでオレは卓の上に置かれた肉を見て溜息を吐いた。
「シュロ。ヒトからもらった物見てそんな不機嫌そうに溜息を吐くな。失礼だろう。」
「…分かってる。」
「いや分かってるって表情じゃないだろう。まぁそんな顔をするのも分かるがな。」
オレの心情を察している土地守のカナイは、複雑な面持ちでオレと卓の上の肉とを見比べていた。
そもそもこの肉は、むらの農家の仕事を手伝った報酬としてもらった物だ。
「お宅のアサガオちゃんに食べさせてやりな。」
という親切心から分けてもらった。オレが人間の子どもであるアサガオと一緒に住み育てている事はむらに住んでいる者皆知っている事であり、むらに子どもがほとんどいない事から、アサガオに対してむらの皆が施しをしてくるのは日常となっていた。
そしてむらのヒトもオレが種族が妖精である事から肉を食べれない事も理解しており、肉も二人分ではなく一人分のみをくれる。それでもアサガオは小食だから、今もらった分でも多いくらいだ。コレはの残りはカナイかセヴァティアの胃袋行きになるだろう。いや、それよりもだ。
「カタマリでもらったとなれば、切り分けなくてはなら…うぇえ。」
「えずくな!本当に臭いだけでも駄目なんだな。」
カナイの言う通り、生のままでも油のにおいが微かにして気持ち悪くなる。食糧を前にこんな態度は絶対にダメなのは分かっているが、妖精としての種族柄やはり生き物が皮を剥がれ、切り分けられた姿には拒絶反応を見せる。
動物は言うなれば妖精にとっては『森の仲間』と言える。同じ自然に囲まれた種族同士、時には狩猟も行うがそれはあくまで森を外敵から守る為だったり、増えすぎた動物の数を調整し森を守る為の行為だ。もちろん狩った動物の亡骸を口にする事など無い。
ヒトだって同族の命を無暗に奪う事はしないし、ヒトの肉を決して口にはしない。それと同じだ。
だが、これも結局は妖精種であるオレだけも話だ。人間であるアサガオには関係無いし、人間であれば肉に野菜にあらゆるものを一定の量を食べなくては生きていけない。世話をするのであればそこは守らねばならない。
なので、こうして食糧をもらう事は大変ありがたい事ではあるが、やはり肉に関してはどうにも手が止まってしまう。しかもこれに火を通すとなれば、当然油の焦げた臭いも漂ってくるワケで。
「…ううぅぅ。」
「あーもう!そんなに気分悪いなら、私が代わりに調理しようか?」
「いや、ソレはダメだ!カナイがやったら絶対に焦がす!」
「断言するなよ!…悲しい。」
否定はしないのか。
ともかく、文句を言っていても始まらない。仕方なくオレは手拭いで顔の下半分を覆い、頭の後ろで縛って口を隠す様にしてから調理に取り掛かった。
肉の感触で自分の血の気が引くのが判る。だが、ここまで失礼な態度をとった詫びのつもりでちゃんと調理しなくていけない。気をしっかり持って調理を続けた。
「…そんな物騒な面持ちで料理する奴はそうそういないだろ。」
オレが調理をする背後でカナイが何か言っているのが聞こえたが無視した。今は日が沈む前に調理を終わらせることに専念した。
◇
こうして出来た肉料理を卓に並べ、外で遊んでいたアサガオを呼んだ。呼べばすぐにアサガオは家の中へと入り、瓶の中の水で手を洗ってから椅子に座った。そして卓の上の料理を見て嬉しそうにする表情をカナイと見てから食事を始めた。
アサガオの前にあるのは野菜の切り分け、調味料をかけただけの料理と肉を大きめに切って入れた煮込み料理だ。カナイにもアサガオと同じ物を出している。
対して肉の食えないオレは野菜と豆の料理。共通して食べれるものと言えばパンくらいだろうか。それでもオレとアサガオはどちらも多く料理を食べないから、作り分けしてもそこまで手間にはならない。しかし、今日はカナイと言う客がいるから、そこ分を作るのは手間だった。
「おい。今私が邪魔みたいな事考えなかったか?」
「考えた。」
「正直だなおい!」
それはさておき「さておくな!」、カナイがいたから肉も早めになくなるだろうし、そこだけは助かった。それに、ここ最近あまり身になる食材も手に入らなかったからどうしようかと悩んでいた所だった。だからこうしてむらから食材を分けてもらえるのは本当に助かる。
人間は妖精と違って肉を食べなくても死なない、というワケにはいかない。妖精は肉を食べなくても体内で肉を食ってとれる栄養やらを生成出来るらしく、ほとんどが菜食のみで生きていく。
対して人間は寿命が短い。だからこそ短い生涯の中であらゆるものを取り込み、力にして妖精には出来ない所業を成し遂げてきた。そういう点においては人間は強い力を持っている。
妖精が悪いと言いたいワケではないし、人間が弱いと言いたいワケでもない。ただ、違いがあるからこそ、こうした色んなものが存在する世界が成り立って世界は広がっている。そこは忘れてはいけない。
だからオレも、文句は言いつつもアサガオに好き嫌いの無い生活を送ってもらう為に料理をする。手間だがイヤとは思わない、不思議な感覚だ。
フと、アサガオがこっちも見ているのに気付いた。どうかしたかと聞けば、アサガオは笑って言った。
みんないっしょはおいしいね!
文脈だけをを見たら変なセリフだが、成る程そう言える。
よく考えればこの光景だって不思議なものだ。人間と妖精はその生態の違い故に一緒に食卓を囲む事など無い。むしろ妖精が人間の食事に嫌悪を見せて別室で食事をとるなんて事がほとんどだ。
厳密にいえばオレとアサガオが食べているのは別のものだ。でも、こうして一緒の卓で食事をするだけでも意味があるのかもしれない。
更にヒトにもキツネにもなる奇想天外な人物まで一緒の卓にいるのだから、本当に不思議な光景だ。
「さっきから私の事、失礼な風に考えてないか?」
「考えたな。」
「本当に正直だなお前は!」
オレとカナイのやり取りを見て、アサガオはまた楽しげに声を上げて笑った。本当にオレからすれば不思議で、暖かい光景だ。
食事の礼儀は出来ているのに食べこぼしのヒドイアサガオの口を拭きながら、オレは明日の献立の事を思考した。
「明日はステーキが食いたいな。」
「アンタの要望は聞いてねぇよ。」
「なにおぅ!そんな事を言うと、今度セヴァティアを呼ぶぞ!」
「ソレは本当に止めろ。」
セヴァティアはシュロの知り合いの中で一番の大食で肉好きなので、シュロは一番セヴァティアとの食事を恐れています。




