夕凪の天使たち 3
「ねぇねぇ、追いかける恋っていうのもアリだと思う?」
いきなりの質問に、あさみは飲んでいたパックのミルクティーをブッと吹き出しそうになった。
「あんた、いきなり何なのよ」
ケホケホと咳き込みながら、あさみが涙目で美咲を見た。翌日の休み時間、美咲は何の脈絡もなく突然二人に質問をした。
「美咲、好きな人でもできたの?」
あさみとは対照的に、冷静な美和は美咲に聞く。美咲は頷いた。
「うん。でも、まだあまり恋って感じじゃないんだけど、アタックしたい人ができちゃった」
そう言って、美咲は昨日の夜にあった出来事を二人に話した。二人は興味深そうに話に聞き入っている。
「……という訳でね、かなりそっけないんだけど、すごく格好いいの」
美咲は胸の前で腕を組んで頬を紅潮させた。
「今日、うちの学校に転校してきたんだよね? 後で見にいきましょうよ。格好いいんでしょ?」
なぜかあさみが、目を輝かせている。
「ちょっと、あさみちゃんには遷くんとシゲルさんが居るでしょ。横取りしちゃ嫌だよ」
唇を尖らせる美咲に、あさみはちぇっ、と舌打ちをした。
「次の休みはお昼だから、ランチに誘ってみたら?」
美和の提案に美咲はパチンと指を鳴らした。三人娘は毎日屋上でお昼を食べている。本来は立ち入り禁止なのだが、あさみが鍵を複製したのでこっそり出入りしているのだ。三人娘の他に美和の彼氏で一年後輩の佐留雄一と、あさみと微妙な関係を築いている同学年の角間遷も一緒に毎日ご飯を食べていた。
四限目が終わり、美咲は早速F組へ向かった。教室の中をきょろきょろ見てみたが、守らしき人物は見当たらない。背伸びして中を覗いていると、教室の入口近くに居た美咲の中学生以来の友人である打真理奈と目が合った。
「あれ、美咲ちゃん。どうしたの?」
理奈は弁当のフォークをおいて席を立ちあがり、微笑みながら美咲のところまでやってきた。
「ねぇ理奈ちゃん。今日このクラスに転校生が来なかった?」
「え? 規則君っていう男子が来たけど……よく知ってるね」
理奈は、少し驚いた様子だったが、はにかんで微笑んだ。中学の時から理奈は、はにかみ笑いが似合うおとなしくて可愛い女の子だった。行動的でお転婆な美咲とは対照的だったが、二人はとても仲がいい。
「その規則くん、知らない? 私、家がお隣なんだ。一緒に昼食に誘おうと思って」
一瞬、理奈の表情に影が差したが、美咲はそれに気付かなかった。
「さぁ……。休み時間も一人でどこかに行ってしまってたみたいで、私には判らないわ、ごめんね」
「いいよ、理奈ちゃんが謝る事じゃないし。また来るね!」
美咲は残念に思ったが、笑ってF組を後にした。