優しい不良に呆れちゃうギルドマスター
今までこの大災害跡地は不毛の大地だった。
雑草一本生えていないような荒地だったので、動物はおろかモンスターですらこの地にはいなかった。
しかし、農業ギルドのギルド員が農耕を行い始めたので、少しずつ死の大地がよみがえり始めている。
その証拠に・・・・・・
モンスターがあらわれた。
「あ、パニックフォックスだ」
イバラークが早くも見つける。
パニックフォックスは決して凶暴なモンスターではない。
モンスター扱いではなく害獣でもいいくらいなのだが、問題は積極的に人を襲う事だった。
凶暴ではないのだが・・・・・・
可愛らしい鳴き声が一声。
「ィエアッ! チェケラッ! ィエッィエッィエアッ! ッア! ッア! ッア!」
続いてしゃがれた声でやけにノリのいい歌が始まった。
「・・・・・・オサカ」
「オゥイェッ、イバラークのダンナ! そんなところで なにぃWO! やってーんだっ いいからお前も! テンション上げてけ もっと、もっと、MOTTO!」
オサカはリーゼントをゆっさゆっささせて首を上下に振る。
完全に混乱している。
「お前の混乱の仕方ってかなり変わってるな・・・・・・」
イバラークどん引き。
普段のオサカからはまったく想像がつかない姿である。
このパニックフォックスという狐型のモンスターは危険度1という極めて低ランクのモンスターなのだが、いたずら好きですぐ人を混乱させる魔法を使うのだ。
混乱させてくるものの、戦闘能力は普通のキツネ並みなので初心者戦士やハンターによく獲物にされる。
道中の食事にしたり毛皮を採取したりとわりと重宝されるモンスターだ。
「HEY! ダンナ、SAY、イェ――――ぅげっ!?」
巨大なリーゼントをかいくぐって、イバラークのデコピンがオサカの額をとらえる。
一回転して地面に倒れ伏すオサカ。
静かになった。
「うむ」
「うむじゃねぇ!? 殺す気か、オラァ!?」
「混乱が解けてなにより」
イバラークは何事もなかったかのように親指を上げる。
パニックフォックスがそれを見て爆笑している。
前足で地面をタシタシ叩いて時おり転げまわっている。
ぬっと立ち上がったオサカがそんなパニックフォックスに近付くが、爆笑していたためオサカがすぐ隣に立っても気付かなかった。
パニックフォックスがオサカに気付いたのは、ひょいとかかげ上げられた時だった。
「!?」
驚いたパニックフォックスが逃れようとじたばたするが、オサカは放さない。
必死に前足を突っ張るが、意外とオサカの力は強く、腕の中から逃れる事ができない。
パニックフォックスを抱えたままオサカは自宅に入っていく。
「? 何だ、家で解体するのか?」
イバラークは家の入り口を眺めてつぶやく。
程なくしてオサカはパニックフォックスを抱えて家から出てきたのだが。
「・・・・・・おい、バカタレ。雨は降っとらん」
雨よけのマントをパニックフォックスにかけてあった。
当然雨など降っていない。
「とりあえず動物を見たらマントをかけようとするのやめんか」
雨の日に大災害跡地にオサカを連れてきた時を思い出す。
道中に出会った動物やモンスター、しまいにはドラゴンのシニオレにまでマントをかけようとしていた。
「ええぃ、そんな不安そうな顔でモンスターを見るな! そいつらはたくましく生きてるから大丈夫だ!」
マントを外してしぶしぶパニックフォックスを解放するオサカ。
パニックフォックスは怪訝そうな顔でオサカを見上げている。
不安そうな目でパニックフォックスを見ていたが、オサカは何かに気付いたように畑に走り出した。
畑から何本か作物を引き抜いて戻ってくる。
まだ育ちきっていないアピアピイモだ。
「食うか?」
パニックフォックスはイモとオサカを交互に見ていたが、やがてイモを口にくわえた。
空腹だったのか、イモはあっという間になくなった。
パニックフォックスを見下ろしていたオサカをじっと見つめた後、パニックフォックスは一声鳴いて去っていった。
「へぇ、あのパニックフォックス、お前に感謝してたんじゃないか、オサカ・・・・・・」
「ッア! ッア! ッア! そこのブラザー お前まだ・・・・・・」
どうやらやらかして帰ったようだ。
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