ギルドマスターとララミスの種 その10
今日も朝っぱらから爆発音にも似た大きな音がギルドの入り口から聞こえた。
テロでなければ奴しかいない。
「小娘、ギルドのドアを壊すなよ!?」
ずかずかと入ってきたアキータは何も言わずにイバラークのところまで一直線に向かう。
怒りに震える手でイバラークの胸ぐらをつかみ、にらみつけた。
「・・・・・・どういう、事かしら?」
「あん?」
何を言われているのかわからずに、イバラークは怪訝な顔をする。
「なんの事だか――――うぐっ!?」
話している最中にアキータがイバラークの口に何かを詰め込んだ。
小さな粒のようだが。
「うげっ、これラミアスだろうが!! 毒あるぞ、これ!! 腹壊したらどうするんだ!?」
「・・・・・・あんた、これ食べて死なないの?」
口いっぱいに広がる苦味とえぐみでイバラークが涙目になる。
毒殺によく使われる植物の種だ。
普通は死ぬ。
「この独特の味だったらすぐにラミアスだってわかるわい!! わざわざ飲み込むか!?」
「じゃあ、ラミアスの事は知ってるわけね」
「知っとるわい。これで何度下痢した事か・・・・・・」
思い出したのかイバラークが涙を流す。
何度も言うようだが普通は死ぬ。
「それ、ララミスの種よ」
「・・・・・・は?」
「ラミアスは毒薬としての名前。その種自体はララミスの種」
アキータがため息をついた。
イバラークの思考がやっと回転を始める。
ラミアスは独特の味を持っており、ちょっと知識があればラミアスの毒だとわかってしまい、暗殺には向かない毒薬だった。
おかげでラミアスに代わる毒薬が開発されるとラミアスの需要は減っていった。
そのため、市場で見かける事はめっきり減った。
入手困難な種だからというのもあるが、栽培する者がいなくなったからというのが大きい。
なぜなら、栽培を始めてしまえば増やすのは簡単なので栽培する者も多くいたのだが、市場で売れなくなったため、栽培をやめる農家が一気に増えたのだ。
結果、市場にはほとんど出る事がなくなったのだった。
「これがラミアスだってわかってれば、私在庫持ってたわよ」
ララミスモドキから発芽抑制剤を抽出し、一度の失敗を経て二度目の収穫でララミスの種を収穫したところ、見覚えのある種にアキータは気付いたのだった。
「言ってくれれば私も持ってますよ、ラミアス」
元暗殺者の事務員、トトリが声をかける。
「ラミアスが毒薬として主流だった頃は、安定供給されていたのでそれなりに安価で重宝したんですけど、ゾディアックが出てからはラミアスはどんどん使われなくなりましたね」
ゾディアックとはほぼ無味無臭の毒薬で、ラミアスほどではないがそれなりに安価で手に入る毒薬だ。
やはり、無味無臭のほうが毒薬としては使い勝手が良いらしく、あっという間にラミアスの価値はゾディアックに取って代わられた。
「しかし、なんであの依頼者はそんな使い道がなくなったもんを欲しがったのかね」
イバラークの疑問はもっともだ。
トトリの話を聞く限り、商品価値は無いように思えるのだが。
「エヒム君が言うには植物に害の無い虫除け・害獣除けになるんですって。すりつぶして使うらしいんだけど、ララミスが持つ毒は植物には無害らしいから作物に直接振りかけても問題ないし、虫も害獣も食べたら死んじゃうから近寄らないって」
「自分で栽培している農家の人間なら、すりつぶすだけなら発芽する前に自分でつぶせるからな。発芽させなくする処理は必要ないもんな。依頼者は自分のところでララミスを栽培していない農家か、家庭菜園をやってる奴って事か」
「そういう事。私もララミスの種に虫除けの効果があるなんて知らなかったから、ララミスの種で虫除けを作るなんて発想は無かったわ」
「逆にエヒムは、ララミスがラミアスなんて名前で毒薬として使われてるなんて知らなかったんだろうな」
「そうね。お互いすれ違いって感じ」
実は依頼の品を持っていたが、エヒムはこれを機にララミスを育てる事にしたようだし、ララミシアの森で採集したほかの植物も育て始めたらしい。
アキータも森で採集した薬草を育て始めたので、まるっきり無駄ではなかった。
この後、イバラークとアキータは依頼人のところへ納品に行き、無事に依頼は完了となった。
感想を書いてくださった方がいらっしゃいました。
もの凄く嬉しいです。
犬だったらうれションするレベルです。
本当に励みになるので、感想とか書いてみてもいいかなって感じの方は遠慮せずにお願いします。
可能な限り返信もします。
PCの前で嬉しすぎて変身もしてます。
「あ」とかでもいいです。
そしてら「い」って返信しますから!




