ギルドマスター、不良にからまれる
清々しい朝だった。
少しだけ早くに目が覚めたイバラークは、その分早めにギルドに来ていた。
いつもは事務員のトトリの方が早いのだが、今日は一番乗りだ。
「う~ん、なんとも清々しい朝で気分がいいな。良い事でもあるかな?」
背伸びをしながら一人つぶやく。
そろそろトトリもやってくるだろう。
なんだか気分が良いので、今日は仕事もはかどりそうだ。
ドアベルが鳴る。
トトリに挨拶をしようと思ってイバラークが目を向ける。
「・・・・・・・・・・・・」
おや。
イバラークは自分の目が悪くなったと感じた。
あるいは頭か。
「おうおうおうおう、何ガンくれてんだコラァ!?」
少し見ないうちにトトリの姿がだいぶ変わってしまったような。
声もしゃがれているように聞こえる。
なんだか街の不良少年みたいに見えるので、早めに医者に行くべきだとイバラークは思った。
アキータに相談するのは癪なので、医者に行く。
王都にいくつか病院が有る。
西のはずれには腕は良いが偏屈な医者がいる。
中心街にはきれいな建物の病院が。
比較的若めの医者がいて腕はそこそこ。
繁盛しているので待ち時間は長い。
同じく中心街だが路地一本入るため目立たない病院もある。
安いがいい話は聞かない。
あとは、そこらじゅうに闇医者がごろごろ転がっている。
さて、どれに行こうか。
イバラークが思案していると、またもやドアベルが鳴る。
「あれ、オサカさん来てたんですか」
おや、トトリが増えた。
「む、今度のトトリは胸がでかいな」
オサカと言われた少年も、もちろん本物のトトリも怪訝な顔をしている。
ここでようやくイバラークの頭に真実の光が差し込んだ。
「ふむ、何用だニセトトリ」
「何だテメェ!? その『ニセトトリ』ってのあ!? あ!? あ!?」
やたら威嚇してくる少年だが、イバラークには心当たりが無い。
知り合いではない。
街ですれ違ったとかなら記憶に残っていないが、おそらく初対面だと思われる。
「トトリ、何故奴はあんなに威嚇してくるんだ?」
「ツッコミどころはいくつか有りますが、取りあえず何故私と彼を同一人物として捉えたんですかね? マスター、お答えいかんによってはアキータさんに『まだ人には試していない薬』をお借りしなければならないのですが?」
少年を指差すイバラークの笑顔が固まる。
「おいおいおい、まぁ待ちたまへよ? 君はもう事務員であって暗殺者ではないのだよ? わたくしは平和的解決を望みます」
「おぅ、コラおっさん!! どうやったらこっちのチャンネーと俺を見間違えんだ!? あぁあ!?」
近い。
ガンつけるにしてももう少し離れて欲しいものだ。
口付けが欲しいのだろうか。
「待つんだ、少年。俺のくちびるはまだ見ぬ運命の女性の為にとってある」
「何意味のわからねぇこと言ってやがる、コラァ!? テメェのくちばしなんぞ知るか、ボケェ!?」
何やら一人で盛り上がっている様子なので、イバラークは彼を無視した。
「トトリ、今日は清々しい朝だな。ギルド員たちは頑張っているかな?」
「華麗に無視しましたね。ちなみにマスター、彼、ギルド員ですよ」
・・・・・・おぅ、いえー。




