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R009話 アメリカ国王起つ!

【筆者からの一言】


ヨーロッパからこの人も、というお話。


 1942年◯◯月◯◯日 『ドイツ』


 その場には3人の男がいた。

 いかつい顔をした痩身の男が、苦悩を滲ませて話していた。


「殿下、是非、我々の許においでいたたきたいのです。

そして国王として立っていただきたいのです。

我々の同胞は危難の時を迎えております。

是非とも我らにお力添えを……」


「そう言われても……」

 国王にと言われ戸惑っている男の名はフーベルトス・フォン・プロイセン。この年33歳になる。

 かつてドイツ帝国第三代皇帝にしてドイツ帝国最後の皇帝であったヴィルヘルム二世の孫である。

 なおドイツ皇帝はプロイセン国王としての地位も持っている。


 第一次世界大戦での敗戦によりヴィルヘルム二世は退位しオランダに亡命した。

 皇太子でありフーベルトの父たるヴィルヘルム・フォン・プロイセンも退位し同じく亡命したが、後にドイツに舞い戻り帝政復活のためにヒットラーと手を結ぶ。

 その後、紆余曲折ありヒットラーが帝政復活の意思が無いようだと判断すると、陰で反ヒットラー派の軍人達と接触を開始する。


 そのヴィルヘルムには4人の息子がおり、第二次世界大戦が始まると長男、次男、三男はドイツ軍人として戦う事になる。残る4男はイギリスで暮らしており戦争が始まるとイギリス政府に身柄を保護されている。

 

 だが長男はドイツ軍の下級将校として従軍したフランス戦役にて1940年5月に戦死した。

 ドイツ軍の高級軍人には未だ帝室を尊重する気風が色濃く残っている。世が世なら皇帝となりえたかもしれない人物が下級将校の一人として戦死した事は、そこに波紋を投げかけた。


 そこでヒットラーは高級軍人の反発を必要以上に招かないようにする為、帝室の者が軍人として戦う事が無い様に法律を作り残る2人を軍から追い出したのである。

 こうして軍から出たフーベルトスには航空機関連会社でそれなりの地位があてがわれ今に至る。


 そこにこの二人の男達がやって来たのだ、それもアメリカから。

 彼らは「マインツ貴族協会」の末裔たる者達だと言う。


 今から約100年前の1842年にドイツの貴族25人が「マインツ貴族協会」を結成した。

 テキサスにドイツ人移民団を送って開拓事業を行い、そこでの生産物をドイツに輸入しようと言う計画を立てたのだ。

 そして多数の移民が送り込まれ、現地で指揮をするため海を渡った貴族もいた。

 だからテキサスにはその時の移民達が造ったドイツ風の町が幾つもある。

 後にこうした移民達の親族がドイツから彼らを頼りとして移住して来る事もあった。

 ナチス政権のやり方に嫌気がさして、こうしたドイツ系の人達が多い町に移住して来る者もいた。


 時の流れの中で起きる様々な出来事からドイツとの直接的な縁は切れてしまったが、それでも移民団の末裔がドイツ人の血を引きドイツの文化を継承している事には変わりはない。

 史実における後世、21世紀になってもテキサスの幾つもの町でドイツの祭りが見られるのはこれが理由である。


 そのテキサスから2人の男が代表として送り出された。

 ドイツから国王を迎える為に。

 何故なら日本の攻撃を避け、更にはその助力を得る為だ。


 もうアメリカ合衆国は崩壊した。

 連邦軍も州軍も大打撃を受けている。 

 テキサスも酷い状況だ。

 メキシコ人、黒人が蜂起し白人と三つ巴の戦いが起きている。

 だが、何よりも日本の原子爆弾が恐ろしい。

 あれを落とされては家族諸共殲滅される。それは何としてでも阻止したい……


 そんな時、ドイツ移民団の末裔が住むある町で、日本との交渉に良い手があると言い出す者がいた。  

 十数年前に他所から来たドイツ系の商人で、開戦前は日本とドイツと貿易をしていた。

 その商人は提案する。

 伝手があるからドイツからホーエンツォレルン家の王子に来ていただこうと。そして日本との和平の役に立っていただこうと……


 ホーエンツォレルン家。つまりはドイツ帝国皇帝の家柄でありプロイセン王国の王家でもある。

 だが、既にドイツ帝国もプロイセン王国も無い。

 しかし、ドイツ帝国最後の皇帝だったヴィルヘルム二世陛下の子息と孫は健在だ。


 その時、反対意見を述べる者もいた。


「何もそんな人達を引っ張り出さなくてもヒットラー政権に話を持って行けばいいんじゃないか?」


「そうだ。今のドイツは日独伊三国同盟で日本の味方なんだろう。そっちの方が話が通りやすいんじゃないのか?」


「それだとヒットラー政権に交渉の代償に何を要求されるかわからないぞ。ナチの手先となってアメリカ征服の尖兵として戦わされるかもしれない。今のドイツは力があり過ぎる。

だけどホーエンツォレルン家の人達には力が無い。きっと無茶な要求はしてこないだろう。来てくれればこっちが良い様にコントロールできる」


「俺もヒットラー政権と繋がるのは嫌だ。あのナチのやり方が気に食わなくて俺はアメリカに来たんだ」


「だけど日本はホーエンツォレルン家の人達を尊重してくれるのか? 第一次世界大戦では敵同士だったんだろう?」


「大丈夫だ。ヴィルヘルム二世は日本贔屓で有名だったんだ。戦争では敵になったけど、日本はそれほどホーエンツォレルン家を悪くは思っていないんだよ。

それに日本の陸軍はドイツ軍を真似をしてできたんだ。わざわざドイツから軍人を呼び寄せてね。

だから大丈夫さ。

それでどうする?」


 そうして長い話し合いの末、ホーエンツォレルン家の人を招く事が決まり使者がドイツに旅立ったのだ。

 南米経由でスペインからフランスへ。そしてドイツへ。

 

 そして今、2人の使者はホーエンツォレルン家の一人。フーベルトスと話している。

 三十代の白いあごひげをはやした使者が言う。


「それに、このままドイツにとどまり続けるのは危険です。

あのヒットラーはプロイセン王家を良くは思っておりません。

ドイツ帝国が復活したにも関わらず、プロイセン王家の扱いを変えない事からもそれは明らかであります。

御兄上の戦死にも不審な点がございます。

このままでは御身も……何れは」 


 フーベルトスは考え込んだ。

 これまでの人生で鬱屈するものはあった。 

 ドイツ皇帝の血を引くとは言ってもそれで何ら良い事があったわけではない。

 国に貢献したわけでも、力を発揮できたわけでもない。

 それどころか、軍から放り出された。

 しかも恐らくは監視がついている。時々、視線を感じるのだ。

 恐らくはゲシュタポだろう。

 ヒットラーにとって私達、ホーエンツォレルン家の者は邪魔者なのだ。

 父はまだ帝政復活を諦めてはいないようだが……

 兄の戦死にも疑念はある。

 この人達が言う事もあり得ない話しではない。

 どうするか……

 もうこんな窮屈な人生にはうんざりだ。

 痛くもない腹を探られ続けるのはもう勘弁だ。

 テキサスに行ってみるか。

 アメリカで新たな生きる道を試してみるか。


「わかりました。行きましょうテキサスへ」

「有り難うございます殿下」

「感謝致します殿下」


 こうしてフーベルトス・フォン・プロイセンはテキサスに向かう事になる。

 それをヒットラー政権が阻む事は無かった。

 ヒットラー政権としては扱いの厄介な者が減る丁度良い機会として捉えたからである。


 史実においてフ―ベルトス・フォン・プロイセンは第二次世界大戦が終わると旧ドイツ帝国の植民地、ナミビアに渡り農場を経営するが、40歳という若さで病死する。


  しかし、今回の歴史では、フーベルトス・フォン・プロイセンはテキサスに渡ってアメリカ王国の建国を宣言しアメリカ国王を名乗る。

 テキサスのドイツ系アメリカ人がその支持母体となった。

 アメリカの民主主義に馴染んでいる支持者達の事を考慮し、政体はイギリス風の立憲君主制としている。



 だが、しかし……

 テキサスのドイツ系アメリカ人も新たな国王も知らない。

 これまでテキサスのドイツ系アメリカ人達の力となり、資金と物資を提供し、その影響力を利用してドイツから国王を呼ぼうと提案した商人が、実は閑院宮摂政の工作員である事を……


 ドイツ系アメリカ人の指導者となって、黒人やメキシコ人や犯罪者集団から守り、日本との和平交渉を始めるべくアメリカ国王フーベルトス・フォン・プロイセンは尽力する。


 だが、それは閑院宮摂政の手のひらの上で踊らされている出来事に過ぎなかったのである。

 それをアメリカに住む者達は誰も知らない。


 果たしてこれからアメリカの大地は如何なる歴史を刻むのか。

 それは、まだ誰も知らない……


【to be continued】

【筆者からの一言】


これで5人目。クスクスクスクスクス。


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