R031話 新型機
1942年3月 『カリフォルニア州 港町ユリーカ近郊 日本軍航空基地』
戦闘で生き残り無事に基地に辿り着いて滑走路に愛機を着陸させた田中飛行兵は、狭いコクピットの中で大きく息を吐いた。
今日も無事に生きて帰れた。敵機も1機撃墜した。
だが、しかし……
共に出撃したのは3機。無事に帰れたのは自分だけ。
これではダメだと思う。
敵機との機体性能が開き過ぎている。
如何にテクノロジーはテクニックで対抗するべく猛訓練を積んでこようと限界はある。
この機体では被害が増えるだけだ。
もっと、もっと高性能な機体が欲しい……
敵機に負けない性能の機体が欲しい。
それは田中飛行兵の切実な望みだ。
三十分後、作戦行動の報告を行う為に基地司令官に会った時、田中飛行兵は、その思いを思わず口にしていた。
「司令、もっと性能の良い戦闘機が欲しいです。今のままでは仲間達が死んでいくだけです」
その言葉に司令官の傍らに立つ副官が憤る。
「貴様、何を…」
だが司令官は副官を抑えた。
「いいから。田中飛行兵の言う事も尤もだ」
「ですが、しかし……」
「いいのだ。おい、田中飛行兵ちょっとついてこい」
副官は尚も言い募ろうとしたが、司令官は取り合わず田中飛行兵に声をかけ部屋から出る。
副官と田中飛行兵は司令官の後をついていくしかない。
田中飛行兵と呼ばれてはいるが、彼も桜華の兵士であり、元は中国の孤児だ。
桜華のパイロットは全員「飛行兵」と呼ばれ階級は無い。
名前も田中始、田中次郎、田中三郎、田中四郎、田中五郎というように順番で付けられており、名字が鈴木や山田の者もいる。それらの者もやはり始、次郎、三郎といったように付けられている。
「桜華丙班」のように「クの24番」みたいな名前とは呼べない番号で呼ばれるよりはましかもしれない。
部屋から出て本部の建物からも外に出た司令官は、基地内の一角に向かった。
そこには飛行機の整備工場が幾つか建てられている区画だ。
司令官はそのうちの一つに足を向ける。
そこには整備工場の前で整備班の一つが休憩をとっていた。
「全員気を付けー!」
整備班の班長が近づいてくる司令官に気付き号令をかけ、整備班の者達が慌てて整列する。
「これは司令官、どうされました」
敬礼しつつ班長が司令官に尋ねる。
「アレができたと報告が上がっていたからな、見に来たんだ。後ろのパイロットがアレに乗る予定だ。見せてくれんか」
「承知しました。おい、扉を開けろ!」
司令官の指示に班長が部下に指示をだす。
整備班員達は急いで第2整備工場の2枚の扉に取りつき、左右に押し開く。
司令官は中に入り、副官と田中飛行兵もそれに付き従う。
整備工場の中は薄暗かったが、直ぐに灯りがつけられる。
真ん中に大きなカバーをかけられた物があった。
形状からして飛行機だろう。
「おい、カバーを外せ!」
班長の指示に整備班員達は急いでカバーを外す。
そして、それが姿を現した。
光り輝いてた。
金色に光っていた。
眩しいくらいに光輝いていた。
「お、黄金の戦闘機……」
田中飛行兵は思わず言葉を漏らしていた。
そう、それは黄金色に輝く単発単葉の戦闘機だった。
「そうだ。本国から送られてきて、先ほど組み上がったばかりの機体だ。
苦戦する我らの状況にお心を痛められた摂政殿下が直々のお声がかりでお送り下さった機体だ。
名前は越燕。
最大速度560キロ。
武装は20ミリと12.7ミリをそれぞれ2門装備している。
エンジンはドイツ製ダイムラー・ベンツDB601液冷式倒立V型12気筒エンジンだ。
金色に輝いているのは黄鉄鉱という鉱物を特殊加工した物を機体の表層に塗布したからだそうだ。機体の強度を高め防弾効果も上がるらしい。
ドイツと日本の最新技術が融合した最新鋭機だ。
今からお前の機体だ、田中飛行兵」
「じ、自分の……」
黄金の輝きに魅入られたかのように田中飛行兵は呟いた。
越燕。
元は陸軍が川崎航空機会社に指示して造らせた防空用高速戦闘機の試作機キ60である。
キ60は他の試作機が採用された為、正式採用には至らなかった。
キ60の後に開発されたキ61は三式戦闘機「飛燕」として正式採用されている。
このキ60は3機製造されたが、それを閑院宮摂政が総長時代に閑見商会に引き取らせ、改装を施したのが越燕だった。
黄鉄鉱を特殊加工した技術は閑見商会の特殊材料開発部門が開発したものであり、この歴史オリジナルの技術である。
本来、黄鉄鉱は鉄より硬いものの湿気には弱く脆くなるという性質を持っている。しかし閑見商会の特殊材料開発部門は他の材料と混合させる事により、この弱点を克服していた。
ただし、司令官が田中飛行兵に語ったような機体強度や防弾効果はさほど上がっているわけではない。
気休め程度である。
何故、このキ60改装型の機体が越燕と名付けられたのかは不明だ。
飛燕を越えるようにと付けられたのか。
他の戦闘機全てを越えるようにと付けられたのか。
それとも越冬燕をただ短縮したのか、それはわからない。
そして、その実際の性能も未知数だ。それはこれから試される。
司令官が田中飛行兵に言う。
「この新しい力で敵機を落とし味方を救え。それがお前に課せられた使命だ」
「わかりました司令官、やります!」
決意を新たに力強く田中飛行兵は返答する。
「うむ、しっかりな」
「頑張れよ」
「はっ!」
司令官と副官の激励に田中飛行兵は見事な敬礼で応えるのだった。
【to be continued】




