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R003話 旧式

【筆者からの一言】


本日は4時間おきに第4話まで投稿致します。


第1話  7時投稿

第2話 11時投稿

第3話 15時投稿

第4話 19時投稿


既に投稿予約しております。

お楽しみいただければ幸いです。


 1941年12月8日 『アメリカ東海岸沿岸』


(じん)号降ろせー!!」

(じん)号降ろせー!!」

 艦長が命令を下し担当士官が復唱する。

 

 その命令に従ってスロープ状の後尾甲板から1隻目の壬号が滑り降ろされる。

 壬号は舳先から海に突っ込んだが、そののまま沈み込む事もなく船体は跳ね上がり、海上にその雄姿を浮かばせている。

 壬号の乗員がエンジンを始動させ海上に新たな騒音を響かせた。

 そして低速で動き出す。

 それに続き2隻目の壬号が海に滑り降ろされた。

 2隻目の壬号が1隻目と同じように低速で動き出すと3隻目の壬号が海に滑り降ろされる。


 3隻の壬号は隊形を組むと速度を徐々に上げ始める。

 そして目標に向かい海上を駆けるように航行しだした。

 波を蹴立てて走る小型艇の雄姿がそこにある。 


(じん)号」……それは魚雷艇だ。

 運用しているのは閑院宮摂政が長い年月をかけて作り上げて来た、対アメリカ決戦用強襲部隊「桜華」の「(みずのえ)班」だ。


 摂政は閑見商会が購入した貨物船数隻を数年前に、「(じん)号」が3隻載せられる魚雷艇搭載艦に改装させていた。

 その魚雷艇搭載艦数隻を開戦前にアメリカ東海岸沿岸とカリブ海に送り込んでいたのである。

 開戦前まではブラジルの国旗を掲げ国籍を偽装していた。


 史実には「壬号」型の魚雷艇は存在しない。

 だが元になった型はある。

 1926年に陸軍がイギリスから輸入したソーニクロフト社製のCMB4魚雷艇である。

 この時、陸軍は上陸作戦時の高速連絡艇を新規に開発する為、イギリスの魚雷艇を参考にしようと輸入していた。

 閑院宮摂政はかなり以前から密かにこのCMB4魚雷艇を閑見商会でコピー生産させていたのである。

 

 CMB4魚雷艇は過去にイギリス海軍が使用していた歴史がある。

 1919年には内戦中のロシアで赤軍側の6000トン級の巡洋艦を撃沈した事もある実績のある魚雷艇だ。


 しかし、1941年の時点で言えば旧式である。

 元々は1916年に建造が始まった第一次世界大戦時代の魚雷艇なのだ。

 4発の魚雷を搭載しているとは言え、その最高速度は遅く24ノットしかでない。

 

 日本海軍が1941年に建造したT1型魚雷艇は38ノットを出す。

 第二次世界大戦におけるドイツのSボート、アメリカのPTボート、イタリアのMAS、イギリスのMTBといった魚雷艇は40ノットを出せた。


 それから比べれば24ノットは各段に遅い。

 しかし、局地的な通商破壊戦ならばこの時代でも充分に活躍の余地はある。

 この時代の貨物船の多くは14ノットから18ノットで航行しているのだ。


 要は旧式な魚雷艇でも活躍できる場を確保できるかどうかだ。

 そして閑院宮摂政は、その活躍できる場として開戦初頭の東海岸沿岸航路とカリブ海を選んだのである。


 今、その成果が試されていた。

 そして……


 海上を疾走する壬号各艇は海のうねりを物ともせず飛ぶように進む。

 そして、それぞれ目標を見定める。

 狙うは大型貨物船や大型タンカーだ。

 アメリカは大国だ。それ故に航行している船は多い。

 獲物は幾らでもいた。


 風の強さとエンジン音に負けじと艇隊長が叫ぶ。

「魚雷発射準備!!」

「準備よし!!」 

 目標との距離がどんどん縮まっていく。

 狙うは大型タンカーだ。


 大きな船体が良い的になっている。

 艇隊長は心の中に沸き上がる興奮と緊張を押さえ付け、タンカーの立てる艦尾の波から船速を推測する。

 見える船体の角度からどの方向に向かっているかを確認する。

 そして実際にどの程度の距離が離れているのかを目測する。

 それらの目測と推測を計算して導き出される魚雷発射のタイミングを計る。


 その時はすぐに来る。

 再び大声で号令を下す。

「発射5秒前! 4! 3! 2! 1! 発射!!」

「発射!!」 

 魚雷が次々に発射され海の中に飛び込んでいった。

 魚雷を発射した後、直ぐに魚雷艇は舵を切りUターンする。

 

 全ての魚雷艇が魚雷を発射しUターンしている。

 90秒後

 魚雷艇の背後で轟音と共に何本もの水柱が立ち昇った。

 

 大型タンカーが、貨物船が大西洋の波間に沈んでいく。

 攻撃成功!!

 魚雷艇隊から海上に歓声が響き渡った。


 小さな魚雷艇が何十倍もの大きな船を沈めた。


 それだけでは無かった。

 真珠湾攻撃に合わせて、カリブ海にいた空母レンジャー、大西洋沿岸航路にいた護衛空母ロング・アイランドにも別の魚雷艇隊が奇襲攻撃をかけ撃沈する事に成功していたのである。

 大物喰い成功の大戦果である。


 他にも、この日だけでアメリカ東海岸沿岸で魚雷艇に沈められたタンカーと貨物船は21隻にも上っている。

 

 旧式兵器でも投入場面によっては戦果をあげられる。

 全ては使い方しだいだ、兵器を生かすのも殺すのも。

 それは新兵器でも旧式兵器でも変わらない。


 それが今、アメリカ東海岸沿岸航路で実証されていた……


【to be continued】


【筆者からの一言】


既存の改装兵器や架空の新型兵器、史実で間に合わなかった未完成兵器を活躍させるだけが仮想戦記じゃありません。

旧式兵器は伊達じゃない! と、旧式、旧型兵器も活躍するのが死の商人Sの描く仮想戦記世界。


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