R016話 野望
【筆者からの一言】
摂政殿下の意図しないとこで動く者もいるようです。
世界は広いですから。
1942年1月◯◯日 『カナダ』
暖炉の炎を見つめ、手に持つグラスをもて遊びながらサムはは考えていた。
これはチャンスかもしれない。
アメリカの状況を聞くにつれサムはその思いを強くする。
もうアメリカはバラバラだ。
今ならその隙をついて一つの国を造る事もできるかもしれない。
今まで同胞が願い、望み、欲していた国が。
約束の地に移住した同胞は現地の者達との諍いが絶えず苦労しているらしい。
それはそうだろう。
我らの祖先があの地を追放されて1800年にもなる。
その間に根付いた者も多いのだ。
だが、歴史の浅い今のアメリカにならば……
連邦政府は消滅し、連邦軍も大打撃を受けている。
軍事力は経済の上に立脚するが、アメリカ八大財閥は日本の特殊爆弾により致命的打撃を受けて崩壊した。
しかもアメリカ・ドルの価値は暴落しているが、カナダ・ドルはアメリカ・ドル程には暴落していない。
アメリカ八大財閥。
この時代、アメリカの経済において大きな影響力を持つ8個の財閥である。
資産規模の大きい順に書くと次のようになる。
1.モルガ◯財閥。アメリカ経済であらゆる分野に進出し大きな影響力を持っている。総資産約300億ドル。
2.クー◯財閥。鉄道関係を主力として、その分野では一番の力を持つ。総資産約100億ドル。
3.ロックフェ◯◯財閥。石油産業と銀行業で大きな力を持っている。総資産約66億ドル。
4.シカ◯財閥。金融の分野で大きな力を持っている。総資産約42億ドル
5.メロ◯財閥。石油、電気、金属の分野で大きな力を持っている。総資産約33億ドル。
6.デュポ◯財閥。化学やゴムの分野で大きな影響力を持っている。総資産約26億ドル。
7.ボスト◯財閥。軽工業の分野で大きな力を持っている。総資産約17億ドル。
8.クリーブラン◯財閥。鉄鋼業の分野で大きな力を持っている。総資産約14億ドル。
しかし、財閥故に大都市に本拠地や主要基盤を構えている事が災いし、日本の核の嵐の前にどの財閥も壊滅していた。
しかも、その後にアメリカ・ドルは紙屑になっているのである。
サムは考える。
問題になるのは日本だが、幸いあの国はマンシュウにユダヤ人自治区を作り、我らの同胞には寛大だ。
交渉するルートも既にある。
ならば、やってみるか。
幸い使い切れないぐらいの金はあるのだ。
自分が第2のモーゼになるのも悪くはない。
そう決断するとサムはグラスの中の酒を飲み干した。
サム。
フルネームはサミュエル・ブロンフマンである。
ユダヤ人でありカナダ国籍の実業家でもある。
酒会社を経営し、アメリカの禁酒法時代にアメリカ国内の犯罪組織と結びつき、酒の密輸で莫大な資産を築いた。
付いた仇名が「新大陸のロスチャイルド」である。
彼に比べればアル・カポネも小物に過ぎないという人もいる。
ただ、彼はパレスチナの地に帰還した同胞ユダヤ人の支援にも積極的だった。
ユダヤ人には1936年にスイスで設立された「世界ユダヤ人会議」という組織がある。
ヒットラー政権のユダヤ人迫害政策の非道を各国に訴え、同胞を救う為にできた組織だ。
各地に支部ができカナダのオタワにもある。
そのカナダの支部カナダ・ユダヤ人会議は「ブロンフマンが経営する企業の子会社みたいな物」とカナダのマスコミが報じるほど、ブロンフマン家の影響力が強かった。
それだけ同胞を救う活動にサミュエル・ブロンフマンは力を注いでいた。
サミュエル・ブロンフマンは1971年に亡くなるが、その息子は後に世界ユダヤ人会議の第4代議長に就任している。現代においてはその息子も既に故人である。
今、サミュエル・ブロンフマンが動き出した。
その巨額の資産を武器にアメリカでユダヤ人の国を建国しようと。
果たしてその試みは成功するのか。
それとも大それた野望に終わるのか。
全ては時の流れが明らかにする……
【to be continued】
【筆者からの一言】
筆者「殿下、北アメリカで工作員を使って各民族の国家を建設させようとしていますが、何でユダヤ人にはそういう事をしなかったんですか?
アメリカにはユダヤ人が大勢いますよね。何でですか?」
摂政「…………」
筆者「何で答えてくれないんですか? 答えられないんですか?
あっ! そうか忘れていたんですね!
だからユダヤ人への工作が無…」
摂政「おい、副官、こいつを銃殺に…」
シュタタタタタタタタ(筆者の逃げる足音)




