四章
「――なんか、見た感じ、普通の人だったな」
帰り道、翼が少しつまらなそうに言った。
「やっぱり、誰かが監禁されてるなんて、噂話なんだよ」
航は内心ホッとして笑ったが、勇太だけはまだ納得しないようだった。
「どうしてそう言い切れるんだよ」
「え、だ、だって、そんなふうな人には見えなかったし。それに、玄関のドアを開けるとき、周りを全然警戒してなかったじゃない」
「あそこは人の通りがほとんどないから、油断してるだけなのかもしれないだろ。誘拐犯かそうじゃないかだって、見た目じゃ分からない」
「そうだけど……でも、考えすぎじゃ――」
「翼。兄ちゃんのバイトって、次はいつだ?」
勇太は航の言葉を遮って、翼を一瞥した。
「確か、明日だったと思うけど?」
「なら、明日の深夜に、もう一度張り込みしてみよう。夜中の十二時頃にコンビニへ現れるってことは、必ず101号室にも動きがある」
「夜中に家を抜け出すって事? む、無理だよそれは。親に見つかったら……」
「なんだよ、航。それぐらい、ジュース買いに行って来るとか、なんとでも言い訳出来るだろ」
「でも――」
「ちっ。分かったよ。そんなに嫌ならいい。俺だけでもやるから」
航と翼は、困ったように顔を見合わせた。
こうなると、勇太は聞く耳を持たない。彼はムキになると、なんでもやり遂げずにはいられない質なのだ。
翼は口を堅く結んでいたが、やがて根負けしたように息を吐いた。
「……まあ、気にならないって言ったら嘘になるし、俺が言い出したことでもあるからな。付き合うよ。――航は、別に無理しなくていいんだからな」
「……」
本音を言えば行きたくはない。けれど、それは逃げるようで申し訳ないという思いと、三人の関係を崩したくないというのもあって、結局の所、覚悟を決めるしか選択肢はないのだった。




