三章
「――二人とも、まだやるの?」
「当たり前だ。せめてどんな人なのかだけでも確認しないと、来た意味ないだろ? 駐輪場の陰からなら、101号室の玄関が見える。あそこに隠れて、ターゲットが帰ってくるのを待とう」
リーダーシップを発揮する勇太は、すっかり探偵や刑事の気分になっているようだった。
「で、でも、遅くなったらマズイよ……」
「分かってるって。六時までに来なかったら、切り上げるからさ。ほら、隠れるぞ!」
航は勇太に引っ張られる形で、半ば強引に、原付バイクの陰へとしゃがまされた。
肩を寄せ合うようにして駐輪場の狭いスペースに三人が固まれば、すぐさま汗の匂いと息苦しさが、その場を澱ませる。
それからどれくらいの間だろうか。窮屈な体勢で身じろぎとヒソヒソ話を繰り返しているうちに、強い陽射しは時間と共に和らいでいき、やがてヒグラシの鳴き声が、夕暮れを告げるように鳴き始めた。
周囲はまだまだ明るさを保っていたが、腕時計を確認すれば、すでに六時の三分前を指している。
これまでの張り込み中に見かけたのは、小さな男の子が母親と見られる女性と手を繋いで、103号室に入っていくところだけだった。肝心の101号室の住人は、まだ現れていない。
「もう六時でしょ? 今日は帰ろうよ」
「……だな……腹も減ったし――」
勇太は無言でもう少し続けたそうにしていたが、くたびれた様子の翼が航に同調したことで、その場の流れは決まったかに思われた。
しかし、
「ちょっと待った!」
膝に手を当てて立ち上がろうとした二人の肩を、勇太が咄嗟に押さえ込んだ。そして、口元に人差し指を当て、視線を誘導するように眼球と顎先を動かす。
航がそちらを見やると、ワイシャツ姿でビジネス鞄を持った五十代くらいの男性が、丁度101号室のドアの鍵を開け、中に入っていくところだった。玄関のドアが閉められると、しばらくして換気扇らしき音が聞こえ、見えないタバコの煙が、航の鼻をツンと刺激した。
ノイズ混じりな六時のチャイムが鳴り響いたのは、そのすぐ後のことだった。




