第5話:装備
始まりなのかな?
混乱が続く中、俺たちは街の外にある平原へと飛び出した。
確かにピースタウン<ダメージを受けないエリア>にいたほうが、
安全ちゃあ安全だ。
だが何があるか分からないし、こんな雰囲気も楽しみたいし。
ぶっちゃけ生産職スキルがある俺ならともかくタロットはほんとに暇だろう。
それにどうせデスゲームになったところでやることは変わらない。
俺ら廃人ゲーマーにとっては、
一日18時間ゲームをするところを24時間に変えただけだ。
キャラのロストが人生のロストになっただけだ。
大して変わりはしない。
そんなわけで
「それではβーテスターであるタロット様の、
どきどき戦闘講座でーーす。
ちゃんと聞いとけよ。 この前みたいに聞き流すなよ。
今デスゲームなんだからな。 死ぬぞ」
「はーーい、分かったよ。 タロットおにいちゃん」
「それ、中身知ってる俺からするとメッチャ気持ち悪い」
「ざーんねーーん、このゲーム中は基本これで通すからね」
「まあ、アンノウン時代もなんだか掴みどころのないキャラって感じだったから、
同じって言えば同じなのか。
まあ、ネカマじゃないだけましってやつか」
そんな感じのことをグダグダしゃべっている間に、ウサギを模した魔物が襲ってきた。
普通のウサギから可愛さを取り除いて、目を肥大化させて、
ちっちゃな角がついている。
痛…くなさそうだ。
そんな魔物が突進し、ぶつかってこようとしてきたので、それをひょいと避ける。
そうするとある程度進んでターンしてまた突進。 避ける俺。
ターン、突進、回避、ターン、突進、回避、ターン、突進、回避、ターン、突進、回避、
ターン、突進、回避、ターン、突進、回避、ターン、突進、回避、ターン、突進、回避。
「何回おんなじことを繰り返してんじゃ、こらぁ」
「だって」
そう言いながらまた回避し、何も持っていない手をぷらぷらさせる。
「装備ナッシング」
それを見てため息をつきながら、なにやら空中で指を動かし、
たぶんステータスメニューをいじっているのだろう。
少しすると”マネーが送られました”という音声が流れ、
視界に承諾するかどうかを確認するメニューが出てくる。
もちろんYesを押し、所持金が増える。
「街ではよ装備買って来い」
だが目の前に店売りよりよさそうなものが転がってるじゃないか。
「それよりタロットおにいちゃんの装備がほしいなぁ」
「クレクレ厨、乙」
「あっ、でも魔術系統だから意味ないか」
タロットは黒色をしたローブに、魔方陣の描かれた手袋を装備中。
俺は使える魔法が攻撃力が無い付与魔法だけなので、
魔術系統の装備を貰っても仕方なさそうだ。
「ああ、これは違うんだ」
タロットはローブの端をつまみ、首をゆっくり振る。
違うって何がだよ。
「俺のβーテスト中の二つ名はアルカナ使い<笑>。
ちょうどいい。 このウサギに我が名の意味を教えてやろう」
高らかに宣言すると、かっこつけた動きでインベントリからカードケースを取り出し、
その中から一枚のカード、車輪が描かれたカードを手袋にしみこませる。
そしてその手で思い切り殴りつける。
軽やかさも、かっこよさも、型も、美しさも、何も無かったが、
ウサギはすさまじい勢いで吹っ飛んでいった。
「このタロットには二つの効果がある。
一つ、カードを専用の魔方陣の中にしみこませ、対応した効果を得る。
二つ、カードを前に投げ対応したすさまじい威力の魔術を放つ」
「すごいじゃないか」
「ただし二つ目はINTに依存し」
ああ、展開が分かった。
「俺は近接になる予定だったからINT値0」
なおタロットのステータスはこんな感じらしい。
#タロット 男
Str:10 Vit:10 Int:0 Min:0
Dex:1 Agi:10 MP:0 Luk:9
スキル:アルカナマスター<R>、近接上昇、筋力上昇、格闘家の心得、気功、
紋章術<R>、格闘の鬼<R>、挑発、回避上昇、闇衣<R>
8つランダムにしてそのうち半分の4がレアかよ。
俺より運いいじゃねーか。
「格闘の鬼って強そうだな」
「ああ、強いよ。 実際それがなかったらほんと終わってた。
ていうか、死にスキルが三つってどういうことなの。
ふざけんなよ」
先ほどのアルカナマスター以外にもMPを消費して闇属性の結界を張る”闇衣”、
ⅡレベルからはMPをつぎ込んで紋章を刻まなくてはいけない”紋章術”。
もちろんMP0で使えるはずがない。
またほぼ最弱魔法であるウォーターボールを喰らって瀕死になった経験から、
魔力防御値が高いローブを羽織れば、あら完成。
見た目魔術師なのに実際は格闘家な”アルカナ使い<笑>”の完成である。
「俺のことはほっといてさっさと装備かってこーい」
「サー、イエッサー!」
街の中に入ると混乱こそ収まっているものの、やはり人で溢れていた。
人ごみの中を小さい体躯を生かして進んでいき、
武器屋などが立ち並ぶ商店街、
…では無く裏町と呼ばれる治安の悪い地帯に足を踏み入れる。
何故商店街に行かなかったのか?
それは俺のスキルを聞いたタロットが
「お前も人のこといえねーじゃん」と言ってしばらく笑った後、
「デスゲームなのにネタに走る勇気があるなら裏町で装備買っときな。
たぶんPCがそこで店を出してるなんてことは、この段階じゃまずありえねーし、
それに俺のこのローブ、ダークローブ改め
漆黒栄華魔断闘衣を買ったところだからな。
ああ、値段が高すぎんのはボッタクリだ。 気をつけろよ」
と勧めてきたからだ。
そんなこと言われたら…ネタにしないわけが無い。
そんなこんなで裏町に着いたのだが、
実際のところ治安の悪さをなめてました。
今、俺の周りには柄の悪そうな男性が4人ほど。
「おい、小僧。 誰の許可とって俺達のシマ入ってきてんだ?」
「おら、黙ってんじゃねーよ。 土下座して許しを乞うのがここの作法なんだよ」
「法なんて甘ったれた考えおこすんじゃねーよ」
「ここじゃ何やっても黙認されるんだよ」
えっと、ピンチなう。 ヘルプミー、タロット。
もちろんそんな心の叫びが聞こえるはずも無かった。
ピースタウン内なので死にこそしなかったが、
げしげしげしげしげし…がすがすがすがす…どかどかどかどか…ごんごんごんごん…
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…
これ絶対感覚強化入ってるでしょ。 痛い痛い痛い…
そうしてしばらく殴られたり蹴られたりしたが、
あるとき突然暴行はぴたりとやんだ。
「ふっ、何をしている? くず共」
どこからか声が届き、男たちの後ろに影がさす。
そうして瞬きもしないうちに柄の悪そうな奴が次々と崩れ落ちる。
何かのスキルを使用をしたのか、動くたびに赤い光が瞬いていた。
どうやらピースエリアでも衝撃を与えまくれば気絶はするようだ。
「ふっ、雑魚めが。
僕のSRスキルに勝てるはずがないだろ。
ところで少年。 大丈夫か? 何もされてないか?」
先ほどまでのくずとかってののしっていた顔から激変して、
テレビの体操のお兄さんみたいな笑顔をこっちに向けてくる。
なんだこいつ、きもっ。
「うっうん、ありがとっ。 じゃあ僕はいくね」
そう言ってからこの仮定ショタコンとは逆の方向へと駆け出す。
何かあってからじゃ遅いんだ。 気をつけなきゃ。
まあ、こんな体に設定したのは自分なんだが。
それはともかくさっさと武器をかわねーと。
タロットはまたしても別に良心は痛まないが、
レベリングが出来ないのはいたい。
「しかしどこで武器買えるんだろ?」
あれからいろいろ探し回ってみたものの、
武器屋と思しき看板を掲げた店は、
一見さんお断りか、もしくはぼったくりオンリーの二つしかなかった。
「ふにゃ? 武器を探してるのです?」
脳内お花畑ですとでも言いそうなゆるい声が下方向を向くと、
とても至近距離に小さい女の子がいた。
そしてそのまま首をつかまれた。
引っ張られた。
引きずられ、
ごりごりごりごりごりごりごり
そして一見さんお断りと書かれた店に、
我が物顔で入っていく。
もちろん僕を引きずったままで。
というか看板が一瞬見えたが何の店なんだ? ここ。
入ってみてもいろんな道具やら武器やら防具やら薬やらで、
本気で何やさんかどうか分からない。
小さい女の子は俺を入口にほっぽリ出して、
奥にいた何かをいじっている青年と何かを話している。
「うにゃあ、じいさんもどき、お客さんなのです。
武器を所望らしいのですよ」
「はぁ、君がねエ。
う~ン、もう少しで何かが変わりそうだから、
そのときになったらおいデ。
ひとまずこれを店に見せときゃ一見さんとかそこらへんフリーになるかラ」
じっとりと品定めされるような視線が飛んできた後、
黄色いカードが俺の手の中に向かって飛んでくる。
「ぽにゃ、ならそれまで、しっかり生きてるのですよ」
そして先ほどと同じように引きずられ、
店の前にポイッと捨てられる。
なんか扱いが酷いと思う今日この頃。
というか今の流れそのものがなんだったのだろうか?
だけどこのカードをくれたことには感謝しておこう。
本当に今まで入店が拒否されていた店の対応が、
180度ひっくり返った。
おかげでぼったくられもせず、
このニューウェポンを手に入れることが出来たのだ。
もちろん同時に防具も購入してある。
その点抜かりは無い。
急いでタロットのところへと向かう。
「おい、確かに俺はネタに走ってみたらとは言ったかもしれん。
だがそれはやりすぎだ。
何考えてんだ、てめえ?」
やっぱ駄目かな? このニューウェポン。
結構気に入ってるんだけどな、一目見たときから。
まあ、あまり武器らしい形をしていないからびっくりしちゃうけどね。
「だけどノックバック効果上昇とか、いろいろ考えると、
この武器は実にいいんだよ。
まあ武器と言うよりは、
”巨大な熊人形”だけど。
装備:武器:戦闘用巨大テディベア Atk14 ノックバック3
防具:ネコの着ぐるみ 防11 魔防6 追加効果跳躍微上昇
”キャラ紹介”
アカベエ<赤池 潤一郎>
SRスキルである防御無視と死線を保有し、
それ以外にもRスキル等で埋められており、
間合いの中に入ったものなら、
銃弾でさえ防げるほどのスペックを有する。
プレイヤースキルも充実しており、
現実では実戦型の古武術の免許皆伝であった。
南の最初のボスをソロで倒すという快挙を果たす。
力を悪用するものが基本的に嫌いである。