第15話:親交
始まろうとしている…だと!
よし、赤米はふっくらとしてるし、
肉の塩加減もばっちりだ。
昔はレトルトと宅配系オンリーだった俺が、
よくぞここまで成長したものだ。
まあ、それもアシストあっての事なんだがな。
それに皿洗いとか慣れてない&アシスト無し系は、
全部持ってきた人形シリーズにおんぶ抱っこだし。
実際にはアシストがあったところで、
この可愛らしく動く上海○形見たさに、
やっぱり仕事させてしまう可能性は高いけどね。
このお皿とかをちょこちょこっと運ぶ姿とかは、
さすが人形屋の旦那としか言いようが無い。
おっと、このままシャンハイを愛でていたら、
せっかくつくったご飯が冷めてしまう。
「おーい、ゴトー、ご飯の時間だよー」
呼ぶとすぐさま駆けつける有能な執事。
「いやー、すいません。
私が執事なのに主人に料理を振舞ってもらってしまい、
なんだか申し訳ない気分です、ハイ」
「それは言わないお約束だよ。
さあ、食べようか」
そうして二人で仲良く朝食を食べ、
この日もまた狩りに出かける。
今日はどこに行こうかな?
南に行って虐殺するのも乙なものだし、
東に行って闇討ちするのも渋くて好きだ。
北に行って正義のやからを返り討ちにするのも滑稽だし、
西に行って攻略の邪魔をしてもいいかもしれない。
「主人は行き場所について悩んでおられるのですか?
それでしたら面白い噂を聞いたので、
そちらに行ってみませんか?
魔王様の何柱かも行かれるそうなので、
面識がもてるかもしれません。
というか私としては、
是非とも行きたいです」
何それ? 噂?
魔王が数人行くかもって、
一体何が起こるって言うんだい。
今、心の大部分は殺人衝動で埋め尽くされてるけど、
少しだけそれに興味がある。
「というかどんな噂なの?
気に入った内容なら出かけてもいいし、
気に入らなかったら本来の予定通り狩りに行く。
さあ、言って」
「これは三世様経由で流れてきたんですけどね。
~三日前~
「うにゃ~むにゃ~、今日も大量な~のです~♪」
三世様はとある理由により、大量の死体を回収していらっしゃいます。
その回収をおこなった帰りのことでした。
長大な剣を担いだ小さい人間に呼び止められたようです。
<ああ、たぶん俺が中央の街から出るはめになった事件の、
張本人だろーな>
その人間は三世様から濃い血のにおいがすると言ってきたそうです。
三世様は種族的に物理的にうそがつけない方ですから、
それを肯定します。
<師匠って何者ですか?>
それに対して何を思ったのかは知りませんが、
どうやらPKや殺人系NPC討伐のクエストだと思っていたようです。
まあ、三世様がそんな低俗なものであるはずが無いですけどね。
<おい、ゴトー。
PKを侮辱するのか?>
いえ、そんなつもりはまったくもって御座いません。
というか主人の行為はもはやPKから離れているような。
おっと、脱線するところでした。
それでその人間は改心でもさせたかったのか、
いろんな言葉を投げかけたそうですが、
三世様が人間の言葉ごときを、
いちいち反応するはずもなく、
そのままスルーして店の中に入ります。
それについてきた人間は、
本来なら結界ではじかれるはずなのですが、
SRスキルで無効化されたらしく、
店に侵入されたそうです。
<俺の場合は師匠に引きずられて入ったから、
意味がなかったんだろーな>
その後三世様は侵入した人間を考慮せず、
戦利品である死体を整理し始めます。
最初は人間がこんなに殺しやがって、とか
文句を言っていたのですが、
それが10人を超えたところで、
剣を抜き戦闘態勢に入ったそうです。
そのとき本が一冊亜空間から召喚されたらしいのですが、
その本は戦闘のために呼び出されておきながら、
そこらへんに落ちている装備の解説を始めたようです。
人間はそれを聞く内に、
顔があきれから驚愕の表情に変わって、
三世様をほうっておいて、
その装備を買おうとしたらしいです。
そのころになってようやく天災様が起きだしてきて、
その装備はクエストをクリアしないと、
まともに買えないといいながら、
プレイヤーがもてる所持金の最大限度すら無視した金額を吹っかけます。
仕方が無いので試練を受けるといい、
ここで本題である、
その愚かな人間と天災様の決闘が実現したのです。
たぶん天災様って言われてるのは、
普段奥にいて、
俺にコック装備をくれたあの青年だよな。
あの人がどんなことするのか気になるから、
行ってみようかな。
「ふ~ん、それなら行ってみようか。
それじゃあ、その場所に連れてって」
「かしこまりました」
そうして俺たちはコロシアムへと、
ステルスモード全開で飛んでいった。
誰にも気付かれずその場所に降り立つと、
既にその場所は多くのプレイヤーやNPC?で賑わっていた。
プレイヤーの大半が攻略組で占められており、
ほとんど勢ぞろいしている。
たぶんあのチートロリを応援するか、
その対戦者の不幸を笑いに来たのだろう。
NPCというか、
ゴトーいわく魔族の幹部連中は、
テントとかビーチパラソル、
メイドやカクテルなど、
はてはコーラからポップコーンまで持ってきて、
完全な観戦体制に入っている。
魔族の中には商魂たくましく、
プレイヤーのほうにポップコーンとかを売っている奴もいる。
PK時にドロップした金が結構余ってるので、
俺もゴトーの分をあわせた二人分を買って、
食べていると、
タロットの顔を見つける。
「おーい、タロット。 おひさー」
その声が聞こえたのだろう、
タロットは俺のほうを向いてあきれた顔をする。
「おい、人形。
お前何のこのこと出てきてんだよ。
それに攻略組しか知らないはずなのに、
結構な人数が集まってるし、
一体どうなってやがるんだ、こりゃ?」
「いいじゃん、きっと大丈夫だよ。
それよりポップコーンいる?
さっき執事の分も一緒に買ったんだけど」
タロットはあきれた顔をさらに深くしながらも、
一緒にパクパク食べる。
もう食べてしまっているが、
まだ約束の刻限ではない上に、
あの青年がまだ来ていないとのこと。
暇なので新しくもう一つポップコーンとコーラを買い、
コロシアムの中を巡ってみる。
もちろんいろいろな場所へ行っているわけだから、
攻略組にも当然見つかる。
「貴様、よくも俺の前に顔を出せたな。
いい度胸だ。
牢屋に連行してやるから覚悟しろ」
ああ、面倒な奴に絡まれちまった。
よりにもよってリバイ班長かよ。
ということはエルイン団長も近くにいる可能性が大じゃないか。
いや、あの人のことだ。
リバイ班長を前に出しておいて、
自分は攻略組のメンバーを秘密裏に集めて、
包囲網を作っているか。
いや~、参った参った。
これじゃあどうしようもないじゃないか。
それなら…知り合い召喚。
「ああ、俺の言葉無視して、
メッセ打ってんじゃねーぞ。
そんなに」
「汝よ、我が客人に手を出す気か?
それは王たる余に対する侮辱ととらえてもいいのかな」
マジありがと。 バアル様。
飲食物販売をしている時点で、
なんとなくバアル様関連じゃね、って思っていたら、
ビンゴだった。
王の名乗りを聞いた時点で、
やっぱり近くにいたエルイン団長が進み出てくる。
「リバイ、領主関連に手を出すのはまずい。
ここはおとなしくしておけ。
王ともなればAIも一番上が使われているだろう。
だとすればこのことを覚えてクエストに支障が出る可能性がある。
…すみません。
私の指導が足りないばかりに、
お客人に粗相をしてしまったようです」
バアル様に頭を下げると、
そのまま周りにいた攻略組と共に引き下がっていく。
「まあ、待てい。
謝罪をしたいのなら、
麦と雷のマークがついた、
飲食店を利用していくがよい。
美味さは余が保障しよう」
その言葉に立ち去りかけていた団長は、
一瞬驚いたような顔をし、
そして笑いながら攻略組の人数分買っていくと約束して、
今度こそ立ち去っていった。
俺が来てくれた事について感謝を述べると、
バアル様は俺とタロットを特別観覧席に案内してくれた。
「なあ、人形。
このお方って誰なんだ?
俺たちがまだ行っていないところにある、
国の領主様なのか?」
タロットは顔にクエストチャンス!と描かれているくらい、
分かりやすさ満々で俺に質問してきた。
俺はその問いに対して、
ついてこればたぶん分かると返答を放棄する。
それにはいまいち納得がいかない様子ではあったが、
結局俺の後ろについてきた。
着いた場所はコロシアムの中でも一際高い場所にある場所に、
豪華絢爛でありながら品のよい、
いうなれば高級感に溢れる観戦席だった。
いや、観戦席というのはもはや間違っているのだろう。
座られている席の六つのうち、
実に半分の三つがベットと化している。
それも俺が普段使っているようなベットじゃなくて、
一つは夫婦が一緒に寝るような、
真っ赤な布団のダブルベット。
毛布の下がなにやらごそごそしているが、
七つの原罪を考えてみたら、
何がおこなわれているかは明白だろう。
二つ目は、現実で今でも治せない難病患者を、
未来なら治せるかもしれないという可能性に賭け、
保存しておくための冷凍睡眠装置。
たぶんこれが怠惰の魔王なんだろうが、
なんで装置の中に入っているのかは不明だ。
三つ目はもはやベットと呼ぶのかすら分からない、
正確にはベンチプレスというのだろう。
これでもかとごてごてとウェイトが付けられたそれを、
ただ一心不乱に上げ下げしている。
残りの三つもまともな椅子とはいいがたい。
横にフランス料理のフルコースが並べられた、
安楽椅子。
並んでる料理はバアル様主催の食事会で食べたことがあるから、
まず間違いなくバアル様の席だろう。
その横にはスポンサーの名前に埋め尽くされたパイプ椅子があり、
そこに座っている少女が早く始まらないかなと、
期待に満ち溢れた顔でオペラグラスを覗き込んでいる。
最後がよく分からない金色の円盤に、
赤と金色で彩られた和服の青年が座っている。
その男の顔をどこかで見たような気がするが、
たぶん気のせいだろう。
バアル様の後ろに続いてその観戦席に入ると、
嬌声が無駄に響いてくる。
「おい、アスモ。
少しばかり騒々しいぞ。
いい加減にせい」
バアル様が一喝すると、
毛布がごそごそと動き、
中から果てた様子の人間と、
インナーしか着ていない女性が顔を出す。
「まったくぅ、口うるさいんだからぁ。
それとぉ、何? 後ろの子ぉ。
私へのぉ贈・り・物♪
それならぁ大歓迎よォ♪」
「いえいえ、遠慮しておきます」
俺はあんな風になりたくない。
というか犯るより殺るほうが、
絶対に気持ちいいとおもうけど、
それは個人の価値観に関わるから、
何も言わないでおこう。
「あらぁ、それなりに礼儀はわきまえてるのねぇっ。
気に入ったわ、はいっこれぇ」
そういってガチョウと思わしきの肉の照り焼きを、
丸々一本放ってくる。
うん、
いい人…じゃなくていい魔王だ。
冷凍装置には見向きもせず、
そのまま自分の席に向かう。
「汝らよ、
余とリヴァイアサン、ルシフェル以外の魔王にはあまり話さぬほうがよい。
アスモは見ての通りベッドに連れ込もうとするわ、
ベルフェに無視されなかったら天変地異の前触れであろう。
サタンは筋肉言語で話すゆえ、
まともに会話にならん。
マモンはまだましだが、
話しかけたが最後卑屈な姿勢のまま、
数時間もかかる商談になるだろう」
「なあ、人形。
いま魔王って言わなかったか?」
「言ったよ」
もはやあきれすら通り越した顔で、
深いしわをその顔に刻んでいる。
「ああ、そうかよ。
俺の懸念は一体なんだったんだろうな。
どうやらお前は、
プレイヤーとして、
いや、ゲーマーとして、
さらに言うなら人間として、
面白い方向に進んでんじゃねーか!?
よし決めた。 俺も混ぜろ。
異論は認めん。 俺が法律だ」
こうしてタロットと俺は、
また一歩友情を深めていった。
「ねえ、まだ始まらないの?」
「マモンお嬢様、そもそも始まりの刻限に達しておりませんから。
もうしばらくのご辛抱を」
「ちぇっ」
”キャラ紹介”
魔王<アスモデウス、サタン、マモン、
ベルフェゴール>
アスモデウス:基本的に両刀、受け攻め、魔物だろうが、
なんだろうがいける魔王。
隙あらばプレイヤーもいつのまにか捕らわれている。
性的な意味でいやらしい魔王だが、
戦闘でもドM精神で逆に回復するという、
謎現象を起こすので、
そっちの意味でもいやらしい敵である。
サタン:東方面にて筋力が一定以上あると伝授される
筋肉言語でしか会話が出来ない。
その見事な筋肉は、
素手以外の全ての攻撃を無効化する。
STRが低い順から襲ってくるので、
後衛殺しとも言われる。
マモン:可愛さに騙されてはいけない。
確かに本人の戦闘力は皆無だが、
こう見えても商人ギルドの長であり、
ステータスドレイン、装備剥奪、HP&MPドレイン、
アイテム強奪等、強欲の名にふさわしい技と、
貴重なアイテムを次々と使ってくる上、
金にあかせて優秀な護衛を雇っている、
さらに領主などに金を貢ぎ関係を深くしているので、
やり辛い事この上ない。
ベルフェゴール:部下の効率的な運用は、
意外とバアルより上手い魔王。
ただし自分は冷凍睡眠装置で寝たままである。
マモンと同じく戦闘能力は皆無に等しいが、
逃避能力は魔王の中でも群を抜いて高い。
睡眠装置の30センチ以内に近づいた瞬間、
ランダムに誰もいないところへワープするので、
接触すら不可能。