第13話:移動
逃亡生活の始まり始まり
俺がホームに帰っていこうとすると、
タロットに遭遇した。
いや、どうやらタロットは俺を探していて、
ようやく見つけた、といったみたいだ。
「おい、人形。
お前、ホームには戻るな。
俺が密かに荷物を持ってきてある。
早くこの街を出てどっかに逃げるんだ。
一つお前に言っておきたい。
”俺はお前を信じてる。”
それだけだ、
あとは俺に任せて先に行け。
俺も出来たら追いかける。
さあ!」
いきなり俺がホームにおいてたはずの荷物が送られ、
意味も分からず急かされる。
何が起こってるっていうんだ?
説明プリーズ。
「へーい、説明、カモーン」
「いいから、行けって。
説明はあとでメールする」
盛大にフラグを立てまくったタロットの言葉に、
ああ、フラグに巻き込まれたくねーなと思い、
お師匠様のような存在の家に転がり込んだ。
「むにゃ、だからといって、
私のところに来る道理はないのです。
そもそも師匠ですらないのです。
さあ、帰るのです」
その帰る家が今ピンチらしいんですけどね。
あっ、メールきた。
「ににゃ、無視されたのです」
ちょっとしょぼくれてる師匠がかわいくて、
つい殺したくなってしまうが、
ここは自重しておこう。
というか返り討ちにあうのが目に見えている。
ふむふむ、
タロットからのメールは、
大体こんな感じだった。
今、人目を盗んでメールしている。
だから手短に説明する。
一つ、俺はフラグを見事回収し牢屋の中にいる。
二つ、始まりはいきなり攻略組のキチガイ連中たちが、
AU様と呼ぶやつが出てきて、
つーか会議中に乱入してきて、
お前が危険な存在と主張し始めた。
なんのこっちゃと思ったけど、
そいつが言うには、
いや、そいつのそばにいた本がいうには、
お前は確実にPKを行っており、
しかも瘴気の濃さからPKスキルと呼ばれるものを、
一定以上は持っている。
そんなスキルはよほどの事をしないと手に入らない。
一度、捕まえて聞き出したほうがいい。
ということだ。
三つ、攻略組の一部はいきなり来たそいつより
お前の事を信頼して反対したものの、
キチガイ連中と攻略組の組長ら上部の連中、
それに神眼スキルの実演で、
お前の味方はほんの数人しかいねえ。
四つ、俺が後ろを振り向いたときには、
ホームに何人かがなだれ込んでいた。
だからホームには戻るな、絶対にだ。
五つ、戦闘狂の組長はともかく
団長は切れ者と名高い人物だ。
大きい街だともう情報が出回ってるかもしれん。
注意していけ。
六つ、俺はお前と一緒にいたから尋問を受けてるだけだ。
たぶんすぐに解放されるだろう。
だけど俺からのメールですぐに居場所を伝えないでくれ。
説明は以上だ。
幸運を祈る。
あいつ…
ちっとも、
ちっとも、
手短じゃねーじゃねーか。
まあ、タロットらしいけど。
さて、どこに行こうか?
まず五番目の忠告を考慮するなら、
大きい街には行かないほうがいいだろう。
それと情報が伝わりやすい南側には行かないほうがいいだろう。
攻略組と会いそうな西にも行きたくないし、
正義系や治安系スキルがごろごろしてる北にも行きたくない。
かといって東は人そのものが過疎化している。
それじゃあつまらない。
どうしようか。
「ふにゃ、なんか面白いことになってるのです。
だとしたら私の知り合いのところだったらその条件に合うのですよ。
紹介状をしたためておくのですよ」
なんかいきなり発言して、さっさと奥にいってしまった。
それに応ずるが如く、
奥から青年がひょっこり顔を出す。
「おォ、遅かったじゃないカ。
忘れられたのかと思ったヨ。
さて装備をつくりたいんだネ。
さあ、どんなのにしようかナ♪」
いや、すっかり忘れていた。
確かそんなことも言われてたっけ。
覚えてなかったよ。
「さて君には選択肢を出そう。
ただ勝ちに行くだけのチート装備。
さらにキチガイじみた、
「我々…、人間は、か…『神』にだけには勝てない!」
と言わしめる最強装備。
最後に
「こいつはくせえッー!イロモノ以下のにおいがプンプンするぜッーッ!!こんなネタ装備には出会ったことがねえほどなァーッ!勢いでネタになっただと?ちがうねッ!!こいつは生まれついてのネタ装備だッ!」と言わしめる完全無欠のネタ装備。
答えを一分以内に決めなければこの話はなかったものとすル。
さア」
「ネタだ、ねた以外に何があるというんだ」
「クックック、もはや数えるまでもないということカ。
いいだろウ。
ならばつくってやろウ」
そう言って青年も奥に引っ込んでいった。
なんか微妙な気分だ。
二回しか来たことのない店で、
たった一人待たされる。
それがどんなに落ち着かないか分かるだろうか。
というかさっきのネタはなんだったんだ?
よく知らないやつだったが。
「あア、それはジョジョといウ、
いまから360000年前、
いや100年ほど前にあった漫画のセリフだヨ」
360000年前は流石にないだろう。
「それでこれがその装備ダ。
あとで使ってみてくレ。
この店の中は止めてくれヨ」
そう言ってきたときと同じように、
奥へと引っ込んでいった。
俺はそのとき感じた。
こいつ、
説明する気が無いッ!と。
そしてタロットの説明の長さに、
いまさらながら感謝をする。
あいつ、意外と親切だったんだな。
そのまま適当な祈りのポーズ<意味深>をとっていると、
ようやく師匠が出てくる。
「よにゃ、話はついたのです。
じゃあ、いくのです」
師匠も一方的だし、
もう、なんか、疲れる。
そして体がなんかの液体で包まれる。
そして俺の新しい拠点<仮>へ到着する。
周りを見渡すと、
全体的に荘厳というか威厳がある雰囲気を漂わせている。
窓から見る位置の高さや風景から、
ここが城であることがわかる。
でも中央にある城とは違う。
あの城はクエストによっては入れたりするし、
それにここまでの重々しい雰囲気はなかった。
窓にさっと指をはしらせても、
埃どころか指に何のとっかかりもない、
異常なほどにつるつるしている。
その輝きとなめらかさは、
俺の所持金全てでこの窓ガラス一枚買えるかどうかというレベルだ。
そんな廊下を過ぎると、
より重々しく、重厚であり、豪華絢爛であり、荘厳であり、
そんな扉が目の前を塞ぐ。
だれでも開けるのをためらってしまうような扉を、
一切の遠慮なく師匠は開け放つ。
そこには、
大量の書類と空っぽの玉座と、
必死に手を動かしているローブ姿の悪魔達と、
もっと4本の手を動かしている巨体の老人がそこにあった。
みるみるうちに書類の山はその高さを低くしていき、
次第に床が見えてくる。
「そこの人間。
そこで棒立ちになっていないで、
書類の仕分けを手伝いなさい」
ローブ姿の悪魔に強制され、
何故か俺も、そして自動人形たちも書類の処理に終われる羽目になる。
いい汗を掻いたと実感できたときには、
書類はその影をなくし、
悪魔達の大部分が大の字に倒れ、
巨体の老人と師匠と一部の悪魔だけが平気な顔をして歓談している。
威厳があると思ったら、
なんと魔王の一柱だということが判明。
暴食の魔王”堕とされた邪神 バアル=ゼブル”
通称グルメな行政担当魔王。
ベルゼブブじゃなくて昔の名前が出てくることで、
変なこだわりが読み取れる。
尚魔王は全部で7柱存在し、
そのモチーフが七つの原罪とされている。
だからあと傲慢、憤怒、嫉妬、強欲、怠惰、色欲の6つがあり、
ストーリーとしてはβーテストの段階で傲慢を倒せばOKといわれていた。
そんなことより大事なことは四つ、
一つ、魔王は原罪の名の付くとおり、
魔物を無制限に生成できること。
二つ、魔王はそれぞれ何かしらに特化した、
固有の技能を所有していること。
三つ、そんな魔王が目の前にいること。
四つ、その魔王が俺に目があっていること。
ぶっちゃけ怖い。
まだ敵意や殺意や闘志がこもっているならまだよかった。
あれは俺と同じ目。
相手を対等と見ていない目。
見ているものがうまそうか判断する目。
俺を獲物だと思って、狙っているいる目だ。
そしてその日、ミラの正式オープンで初めて、
プレイヤーと魔王が激突する。
”キャラ紹介”
リバイ組長&エルイン団長
二人とも双刀を使わせれば、
いますぐにでも巨人を狩りにいけそうだが、
残念、
格闘家と魔術師である。
本来なら組長のほうが偉いはずなのだが、
組長の前線へ出たい病、
通称戦闘狂により、
戦略戦術どんとこいな、
インテリ団長が指揮を執っている。
団長の口癖がヤレヤレになるくらい、
組長は団長に迷惑をかけまくっているが、
それでも仲はとってもいいようだ。