再来
「助けてほしい。」
白い柱が幾つも緑の美しい平原に聳え立つ地で俺は彼女のその願いを聞かされた。空は低く、雲は地を張っていた。
「その前に、ここはどこなんですか。助けてくれたのは感謝しますけど。」
死にかけだった俺の体は目覚めると全て治っていた。代わりに俺の首には黒い金属の首輪が取り付けられていた。彼女はその大きな翼を愛でながら言う。
「ここは高千穂村の山の上にある大きな平野よ。村の人々は死界と読んでいたわ。」
「どうして死界なんですか。こんなに美しいのに。」
「美しいからこそよ。あの人たちにとって生とは穢れだから。自分たちの村は生界だとすら考えている人たちだから。」
俺は静かに腰を下ろした。大理石の床はひんやり冷えていた。
「でも本当に美しい場所ですね。こんな場所があるなんて信じられない。黄泉の国とは大違いだ。」
「けれど実はね、この世界は未来では消えるのよ。神の時代が死ぬから。」
「それは…」
「あなたはどう思う?」
「良くないとは思いますけど、代わりに何か生まれるんでしょう?」
「そうだよ。神に対する理解がみんな変わるのよ。ある女性の手によって。それ以降、私たちは古い神となり時代の片隅に取り残されて忘れ去られていく。代わりに新しい別の神たちが繁栄する。もうこの清い死界は消えてしまうの。古い神はみんな黄泉の国に追いやられる。誰からも忘れ去られて。豪傑で偉大で威風堂々の肩は隠れてね。」
「なんでそんなことがわかるんですか。」
「私がそう言う存在だからよ。でもそれは変えられないって言われてきた。仕方のないこと。終わりなきもにはないって。」
「じゃあ今は何か変わったんですか。」
「あなたよ。あなたが登場した。」
「俺はただの人間で…いや、違う。俺の中には神がいる。」
「砂のモノ、そして塵のお前。」
彼女の瞳はまっすぐ俺を貫いていた。
「モノが動いた。あいつは絶対的権能。三つの世界のうち一つを司る神。黄泉の神だ。だが、その立場を捨て解決策を求めた。」
「でもいつかは消える存在だったんですよね。」
「それでも彼らはやらないよ。そんな危ういこと。失敗すれば二度と神になれない。新しい神が来ても古い神は黄泉の国で隠居するだけ、行ってしまえばそれだけ。その黄泉の国の長、つまり最も古い神のうち偉大になる立場を奴は捨てた。全ては我々を保つために。新しい神の存在を無かったことにするために。」
「それは、すごいですね。」
「そのモノが今お前の中にいる。私はモノと話したい。」
「あぁ、分かった。」
驚いた。僕の口から薄い白色の柔らかい塊が漏れ出してきた。それは漏れ出した後、漂いながら声を出す。
「妾はモノ。モノの考えは大体そなたが言った内容に一致する。慧眼だな、レイ。」
「これで本当に起こり得なかったことにできるかもしれない。この楽園を守ることができるかもしれない。あの女を止められる術がここにあるのかもしれない。」
「レイ、少し待つのだ。最も、私の親玉であろうこの男は何も分かっていないのだから。なぁ、雄介。」
(雄介…?)
「誰です…雄介って。」
「お前の生前の名だ。というのも前世なのかもしれないがな。」
「どういうことですか。」
「そろそろ汝も地に足をつけても良い頃合いだと妾が判断した。もう時は満ちたのだ。妾と汝が共に巣食う体として生きる必要は無くなった。」
「意味がわかりません。」
「なぁ、そなたよ。モノは言っておるのだ、もう分離の時だと。」
「でも俺がモノを食って…モノは死んでいるのでは?」
「妾が何の神か知っているか?」
「やっぱりそうだったのか。」
「その体に雄介という名を戻した意味を少しは考えるのだな。話はそれからだ。」
呆然と立ち尽くす俺の前に二柱の神がいる。俺はこの光景を呆然と眺めながらただ問うた。
「俺は何をすれば良いんですか?」




