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9.変じゃない所が変です

9.変じゃない所が変です




 良く、晴れていた。それはもう好きな人となら絶対楽しめるだろう完璧な天気だった。

「…………」

 そう。好きな人となら絶好のデート日和である。

 ミウはそんな朝の爽やかな日差しに、ドナドナされていく家畜のような目を向ける。


 ――まあ、今日出掛ける先は屋内施設だし。いくら天気が良くても悪くても関係ないけどね。


 フッ、とニヒルな笑みさえ浮かべて。


 ――大丈夫。出会い頭に向けられる視線と少しの心抉るコメントさえ乗り越えれば、あとはレジャー施設を楽しむだけ。


 すっと心が落ち着いた所で、着替えて二階の自室からリビングに降り、用意していたお弁当入りのバスケットを手にして外に出る。

 髪型はいつも通り。緑の髪は頬辺りから緩くウェーブが掛かったボブカットで、髪飾りの類いはなし。なくても額にある薄紅色のカボションカットの石が色彩を添えてくれる。

 メイクもナチュラル。そして迷った挙げ句に着けたネックレスは細鎖(チェーン)にステンドグラスのように薄桃色の輝石で薔薇(バラ)(かたど)ったトップのついたもの。いつも着けているそれをやはり外せなくて。

 黄色い小花柄のキャミソールの上からふんわりとした肩出しの白い麻シャツ。シャツの前側を軽くボトムの中に。

 ボトムは昨日の決定通り、シャーベットカラーの薄い水色でポケットの縁に白いレースがあしらわれている。

 ショートソックスと紺色(ネイビー)のスニーカーで歩きやすく疲れにくく。あとは肩掛けのポーチ、お弁当の入ったバスケット。肩掛け紐は白で、ポーチ本体は丸くて紺色にポイントで白い線が二本入っている。

 恋人と出掛けるには甘さの足りないものだが、今回は友人とだ。充分。

 家の外に出て、小さな前庭を視界に収めた瞬間、小さな(ゲート)の所に見知った見知らぬ人がいた。

 知っているのに知らない人。矛盾(むじゅん)するけれどそうとしか言えない。

 少なくともミウにはそうだ。

「あ。おは、よう。……どう、したの?」

「サラ先輩?」

「なに」

「え。サラ先輩!?」

「だから、なに」

 呼んで応えるのだからそうなのだろう。しかし。

「どうしたんですかその格好!?」

 まず、いつものサラ。

 身体的な色彩は今目の前にいるサラと一緒。

 薔薇色の朝焼けを一滴落とした金髪に(スミレ)の咲く夜色の瞳。白い肌。細く華奢(きしゃ)な為に目立たないけれど高身長。

 そこにいつもなら、白いシャツ、黒いズボンに黒い足首まであるロング巻きスカートに黒いヒールのある靴。髪はハーフアップにして細工と石が美しい髪飾りを着けている。これが標準装備であり、ミウの見慣れたサラの姿である。

 そしてAfter(現在)。

 髪は軽く首の後ろで黒いリボンで一つに結って、白いスタンドカラーシャツに濃紺の長袖テーラードジャケット、そして黒いスキニータイプのパンツに黒いスニーカー。

 いつもがその容姿と相まってユニセックスな印象であるのに対し、今はがっつりカジュアルに寄せた為かどこから見ても男性だ。二度見もする。

「どう、したって……。どこか、変?」

 コテリとサラが首を横に倒す。

「い、いえ。変……ではないですけど」

 変じゃない所が変です。とは流石に言えない。

「…………な、何ですか?」

 気づいたらサラがじーっとミウを見ていた。


 ――いつもの来る!?


 サラがおもむろに唇を開く。

「今日は、つけてない、の?」

「つけ……ああ、これですか? 着けてますよ?」

 いつも、の言葉に細鎖を手繰り寄せ、服の下にしていた薔薇のペンダントトップを引っ張り出す。

 それを見てから、サラはふるりと一つ頭を横に振った。

「違う。……香り」

「あー。そっち」

 ミウが遊びに行く時や仕事関係の夜会(パーティー)に出席する時等につけている香水があるのだが、それを今日はつけていないのかと聞いていたらしい。

 金晶雪華(ルチルフィオナ)という花の香りがするそれは、長年想っていた人に(先日ミウがフラれた相手に)贈られたもので、お気に入りだった。甘く、少しだけ物悲しいような切ない香り。

「今日は、そういう気分じゃ、ないので」

 同じ相手から贈られたペンダントトップは外せなかった。でも、香りは逆に何だかどうしようもなく悲しくなりそうで、つける気になれなかった。

「そう……」

 サラもその一言だけで深追いはしてこない。

「ん」

「え? あの」

「持つ」

 バスケット。端的な言葉とサラの片掌(かたてのひら)がミウに差し出された。どうやらお弁当の入ったバスケットを持つと言うことらしい。

「いやいや、サラ先輩にそんな事させられませんよ!?」


 ――忘れそうになるけど先輩、貴族のトップですよね!?


 現在のカジュアルな服装で誤魔化そうとしても変わらない絶対的な項目である。

 それにしては庶民であるミウの態度があれであるが、まだ忘れたわけではない。

 しかし、だ。

「女の子、に、荷物、持たせて歩く、男、いない、でしょ」

 さっさと渡す。そう言外(げんがい)に示し、サラは差し出した掌を揺らした。

「……わかりました。ありがとう、ございます」

 ミウが気まずげにバスケットを差し出すと、サラは満足したように頷いて受け取る。

「じゃ、行くよ」

 良い初夢は見られましたか?

 明日も更新予定です。

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