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30.さっくり刺してきますね

30.さっくり刺してきますね



「今、弾いた曲、譜面が欲しかったら、後でさっき貰ったカードのIDアイディで端末からログインすれば、印刷出来るよ」

「そうなんですか?」

「うん。香水のめいと同じ、『春告はるつげ』って曲」

 ちなみに後に聞いた話では、外部の既製品の香水も使用可能で、逆にそれに合わせて舞踏広間で曲や衣装を用意するサービスもあるという。逆周りのルートでも問題無いつくりらしい。

 室内に設置された他の楽器、ヴァイオリンやハープなど、どの楽器でも共通の機能でもある。

「ついでに、あの衣装の、無料貸出サービスもついてるから」

「え。何でですか。無料?」

「そう。……情報登録すれば、自宅に送ってくれるから、帰ったら登録、すること」

「いやいやいや、おかしいですよね? あの衣装がタダで借りられるとか」

「ミウ、ルーちゃんの奥さんにならなくても、補佐官は夜会に出ること、ある、でしょ」

「そりゃありますけど」

「毎回、同じドレスとか、無いから」

「う……」


 ――油断した。さっくり刺してきますね!


 無情なまでの言葉の刃が痛い所に突き刺さった。

「貴族じゃなくても、毎回同じは、無い、よ」


 ――それを言われると……でも、だってお貴族様はともかくドレスって庶民にはお高いんですよ!?


 今のところはレンタルで毎回違うのを借りているが、それだってある程度のランクのものは高い。しかし貴族の、領地の外交として参加する夜会はドレスだって相応の格が求められる。ペラッペラな安いドレスなど論外。そんなものを着て出た日には領地の格まで下げる。等の理由からレンタルでもお高いものを借りざるを得ないのが実状で。

「管理もしてもらえるし、借りたい時に借りられる。何が、不満?」

「いえ、不満とかそんなものは無いですけど」

「じゃあ、良い、よね」

「え。いや、は、い?」

 何だか話が逸らされて丸め込まれているような気がする。

 が、しかし。反論も微妙にやり辛い。

 結局ミウはサラに異議を唱える事が出来ずに頷く事になった。

 余談としてこのドレス、同じ型の衣装は他の者にも貸し出されるが、ミウが舞踏広間で着用したドレスはミウ専用として管理され、付属の靴なども同様。

 なのでミウ以外には使わないのでいつでもどんなタイミングでも借りられない状況は存在しないし、何度でも無料。それはサラが買取ったから。貸出サービスではなくもはやクローゼットとしての利用であるが、微妙に丸め込まれたミウは気づかない。気づくとしても先の事となる。

「次、行くよ」

「はい」

 音楽堂を出ると行きのような遊歩道になり、少しの間それを楽しみ、再び室内エリアへ。

「これ、どうなってるんですか?」

 眼の前に広がったのは柳のような枝垂しだれの樹木が植えられた小川とそこに浮かぶ小舟ゴンドラ

 こちらと向かい岸にそれぞれ乗り場があり、横を見れば左右に小径こみちが伸びている。

 どうやら小径はぐるっと迂回してあちらに行けるようになっているようだ。少し離れた所に石造りのアーチ型の橋も見える。小舟に乗らなくても渡れるようにという事だろう。

 室内なので空は見えないが、天井は高く音楽堂と同様に白藤のような花が埋め尽くして揺れている。天井丸ごと藤棚ふじだなのようだ。

 夕暮れとも朝焼けとも似ているけれど違う独特の灯りで、歩くのも見るのも不便はない。

「あ。お魚もいる」

 澄んだ小川の中には様々な小魚が泳いでいる。

「せっかくだし、乗る? それとも、歩く?」

「そうですね……ここ、最後のエリアですか?」

「そう」

 今回時計回りで来たのでここが最終。反時計回りなら最初のエリアになっていた所である。

「じゃあ、小舟乗りましょう」

 こくりとサラが頷き、先に小舟に乗り込んでミウに手を差し伸べる。

「ありがとうございます」


 ――隣でいっか。向かい合うのも微妙だし。


 おあつらえ向きにサラは少し外側に寄って腰掛けている。その隣にミウも腰を下ろす。

 乗り込んだ小舟の舳先へさきはゼンマイのようにくるりと立ち上がっていて、そこに丸いガラスのランタンが揺れ照らして。

 着席すると同時にスーッと小舟が動き出す。

「わわ。勝手に動くんですね」

「そう。でも、身を乗り出さなきゃ、転覆しない、から、安全」

 水深自体も浅いので落ちても余程の事が無ければ大丈夫だと思うよ、とサラが言う。

 その間にも小舟はゆったりと川を進み、橋の下をくぐれば小さな池に入り込む。

 池に入ると天井から下がる藤が薄く紫を帯びた青へと変わり、蛍のような生き物が辺りを飛び交うようになった。

「キレイ……」

 池の中心で小舟が止まり、上を見上げたミウはポカンと見惚みとれて口を開ける。

 蛍は星に。藤は濃紺の夜空に。

 天井を映した水面にもそれはあり、まるで星空の中に浮かんでいるような気さえする。

 いつも読んで下さりありがとうございます。

 ブクマも嬉しいです。

 すでにお気づきかと思いますが、これの作者はコミュニケーションが下手です。ですが、いつも読んで下さってるのは嬉しく思っています。ありがとうございます。

 明日も更新予定です。

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