愛知県バトロワ Ep.3 再現部 上
書き溜めが消えた。オワタ
Ep.3
――今から、行かなければならない。
―――名古屋へ。
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――名古屋に、会いに行こうと思う。君たちはどうする?
―――馬鹿、殺されに行くんじゃねぇんだよ、
――――殺しに行くんだ。
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――いや…。怒りに駆られてはならない。まずは…。
―――名古屋に、いかなければ。
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――これからどうする?
―――ボクとこうたんは名古屋に行くよ?
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――豊川、田原…。
―――俺等も…
――――名古屋に行くぞ。
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――私の
―――僕の
――――俺の
―――――ボクらの
――――――俺達の
―――すべての道は名古屋に通ず
大戦―序―
眼下には、光に濡れた久屋大通。
夜気はひやりと頬を刺し、季節が一歩だけ冬へ踏み出していた。
吐く息は白くほどける、地上百八十メートル――
春日井郡「……ついに、決戦だ。」
その言葉を夜に落とすと、春日井郡はためらいなく身を躍らせた。
塔の灯りが一瞬で遠ざかる。
数秒の落下――
やがて背の翼が大きく開き、風をつかむ。
向かう先は北に見える、月あかりを照り返す金のシルエット。
暗い空を裂きながら、彼女は静かに羽ばたいていった。
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同刻、東側国道1号線
―――なぜだ…
――――何故だ…
――――――ナゼだ…
さっきの火柱…
―――東郷…
―――豊明…
日進「くっ…」
モノクロームの色調に塗りつぶされてしまった世界を、僕は、ただ、走る。
歩道ですれ違う人々が、僕を不思議そうに見ている。
名古屋城を目の端に捉えた頃、
ひらり、
ひらり、
と、降ってくる雪――
いや――
これは―――
日進「羽!」
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同刻、名古屋高速都心環状線丸の内IC手前
豊田「全然進まねぇ!」
ハンドルにぶつけた拳が、クラクションを鳴らしてしまった。
隣の車の外車マダムがこちらを見ている。『いくら渋滞しててもクラクションは鳴らさないで頂戴。』と、目で注意しているようだ。
―――それにしても
豊田「こんな渋滞するもんかねぇ…」
4つ前の車の横に警備員らしき人が立って、何かをしきりに話している。
ペコリ、と警備員が60°キッカリのお辞儀をして、後ろのところでも同じことをやっている。
豊田「何事だろう…」
前の方の車が流れ始めた。
コンコン、と窓が叩かれた。
パワーウィンドウスイッチを押し、窓を開ける。
排気の匂いが車内に流れ込む。
警備員「現在、丸の内ICのランプウェイに大きな亀裂があることを発見しまして…さらなる渋滞にはなりますが、丸の内で降りる人は迂回をお願いします…。」
ペコリ、と警備員が60°のお辞儀をし、そそくさとフェードアウトしていった。
永遠と続くテールライトの蛇。
『〜ZIP-FM道路情報〜 名古屋都心環状線丸の内IC上り、下り両線のランプウェイに亀裂が確認されたため、丸の内ICは閉鎖しています。丸の内IC付近では3kmの渋滞が発生しており、抜けるのに1時間ほどかかる見込みとなっています。』
ラジオから流れてきた道路情報で、道路交通情報センターの桑田、と名乗った女性は淡々としたナレーションで事務的に情報を読み上げている。
豊田「まいったなぁ…」
――その時…
隣の外車のフロントガラスがひび割れた。
――――爆発が起こった。と自覚したのは、鉄の欠片のようなものが、フロントガラスに突撃してきたときだった。
フロントガラスはクモの巣の模様のようにバキバキになってしまった。
前方ではもうもうと煙が上がっている。
『名古屋都心…状線丸の内IC…り、下り両線の料…所で爆発が発……ました。現在愛知…警は人為的な…zzz…見て…z…していま………
プツリ、と小さな音を立ててラジオが消えた。
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同刻、JR名古屋駅新幹線コンコース
新幹線コンコースのスーツケースのタイヤの音が構内にこだまする。
目の前のキヨスクでやたらと弁当を熱心に選んでいる蒲郡を、かわいいと思ってしまう。
弁当屋店員「はい、以上4点で3680円で〜す 割り箸入れときますね〜」
幸田「蒲郡…食べ切れるのか?」
こいつは大食いキャラなのだ。食べ切れるのはわかりきっているがなんとなく聞いてみた。
弁当屋のロゴが入ったレジ袋を受け取りながら戯けた調子で返す。
蒲郡「お腹ペッコペコだも〜ん☆こんだけならぺろりだよ☆」
らしい。
蒲郡の戯言をすらっと右から左へ流しながら、あぁ、幸せだな、と思う。
―この幸せが永遠に続いてほしい。
――でも、そうならないのは、蒲郡も、たぶん解ってるはずだ。たぶん。
イスのミニテーブルには空き箱が2つ積み重なっている。肘を掛ける場所がない。
蒲郡「天むすおいし〜☆こうたんもたべる?」
幸田「僕はいいよ、それより、そろそろ豊橋たちがつくと思うんだけど…」
蒲郡「ボクはもっとこうたんと一緒に、おべんとー食べたかったなぁ…」
ふいに頬が熱くなったのは、さっきのんだペットボトルの温かいほうじ茶のせいだろう。
カレーうどんのような、スパイシーないいにおい。豊橋がきた。
黒いコートに羽織ったジャケットが、駅の照明に少しだけ光を反射している。
蒲郡「豊橋ー!! 天むす残ってるよ☆ 食べる?」
豊橋「……今はいい。」
幸田「ようやく全員揃ったな。次はどうする?」
蒲郡が箸を振りながら、にこにこ笑う。
「19時48分発のぞみ新大阪行きがァ到着致しま〜す」と、駅員ののどかな声が響いた。
豊橋が蒲郡の隣の椅子に座って、息を整えだした。
これから急に真面目なトーンで話し出すのだろう。
豊橋は切り替えが雑だ。不器用だなぁ…といつものように思う。
豊橋「それでは、ついたばかりだが、本題だ。」
緊張が走る。手の中に汗が滲むのがわかる。さっきまでは日常のようなやり取りを蒲郡としていたが、よく考えてみたらここは、「戦場」なのだ。
豊橋「幸田、春日井が名古屋を倒そうとしてるってのは本当なのか?」
そう、一昨日から昨日まで尾張に潜んでいた僕は、春日井が名古屋を狙っていることを察知し、東三河のグループLINE(新城、奥三河三人衆はハブってある)に共有しておいたのだ。
幸田「そう、豊田も名古屋に向かって来ているんだけど…」
田原「っていうか、そんな大胆に行動してたのに、なんでバレなかったんだよw」
幸田「わかりきった質問するな…はぁ…。」
蒲郡「ボク知ってるよ!こうたんは愛知の中でいちばん、影が薄いんだもんねぇ〜(ニチャァ)」
いつものように僕を煽ってくるこいつのニチャ顔がとんでもなくブサカワで、思わず笑ってしまいそうになったが、腹にとどめておいてあげた。
豊橋「とりあえず、俺等の作戦は『漁夫の利ルート』でいくぞ」
春日井or名古屋が勝利したあと、衰弱したそいつらを数の暴力で倒すという、せこい作戦だが、この戦いには、血も涙もない。
豊橋「とりあえずは、」
にこりと微笑んだ。
豊橋「蒲郡、天むす一つくれ。」
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同刻、清須市清洲城
夜の城は、静まり返っていた。
遠く名古屋の方角だけが、かすかに赤く染まっている。
堀の水面に映る光が、ゆらゆらと揺れた。
清須「……始まったか。」
低く、落ち着いた声。
まるで、この光景を何度も見てきたかのような響き。
犬山「随分、他人事みたいに言うな。」
隣で腕を組んだ犬山が、少しだけ眉をひそめる。
犬山「止めに行く気はねぇのかよ。」
清須は、すぐには答えなかった。
ただ、水面を見つめている。
清須「……我等は、見届ける側だ。」
清須「手を出した瞬間、それは“流れ”ではなくなる。」
犬山「はっ、流れねぇ……」
大口「そうですよ、僕達は介入しないほうがいい気がしますよ?犬山さん?」
犬山の横で、ういろうを食べていた大口が、もごもごと呟く。
犬山「……お前はまずそれ飲み込んでから喋れ。」
ゴオオオォォォ…と、エンジン音が聞こえる。
バサリ、とパラシュートが開き、降下してくる人影。
常滑「やあ…!君たち…!名古屋がさ…やばいことになってるよ…。」
清須「だろうな…」
常滑「名古屋中心、完全に“戦場”になってる。爆発、火柱、あと――」
言葉が一瞬、詰まる。
常滑「……なんか、“おかしい流れ”がある。」
清須「おかしい、とは?」
常滑「うまく言えないけどさ〜……」
常滑「“誰かに動かされてる”感じ。」
沈黙が落ちた。
風が、城の屋根を撫でる。
犬山「……黒幕、ってやつか。」
清須「……いるだろうな。」
静寂に包まれた数秒後、わははっと清須が笑い出す。
清須「ほんの、ほんの…戯言じゃ。」
気まずい空気が流れ扶桑が守口漬けを齧る、しゃこっ、しゃこっという音が、軽く嘲るかのように流れる…。
常滑「まあとりあえず俺は偵察に戻るよ…」
常滑はジェットパックを背負い、ロケット噴射で飛んでいった。
犬山「俺もとりあえず居城に帰って寝るとするよ…じゃあな。帰るぞ丹羽郡…。」
その瞬間…
グサリ、と畳に刃が刺さった。
その刃にはこう銘切りしてあった。
『関刀鍛冶 美濃吉』
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大戦―櫻―
名古屋城天守。
その上の、名古屋のシンボルとも言える、金の鯱。
鯱がある理由は、火事のとき、口から水を出し、消化してくれるという伝説から。
しかし、それは偽りである。実際多くの天守が、戦乱や、不慮の事故、空襲などで焼け落ちてしまった。
この名古屋城もそうだ。
この世界に守ってくれる御守りなんてものは”存在しない”のだ。
春日井郡「久々だね。名古屋。」
階段を上がってくる、羽を生やしたシルエットは、いつもと全く違うが、その清純な顔立ちと歩き方は、春日井だ。
名古屋「春日井か、どうだ、ここからの景色も、この七〇年で大きく変わっただろう。君たち服従自治体【ベッドタウン】がいてくれたおかげだよ。」
俺の横に立ち、夜景を眺める春日井の瞳は、眼下の幹線道路とビル街よりももっと遠くを見つめているような気がする。
春日井郡「私ね、前に小牧に言われたんだ。お前は名古屋がいないと何もできないベッドタウンなんだ、って、その時は、さ、よう言うわ!小牧、お前もそうだろ!って思ったんだけど…」
続ける。
春日井郡「実際そうだった。ベッドタウンとしての自分の有用さに酔いしれていたのかもしれない。人口だけが多くて…だから中核市も辞退したんだよ。だから…今日、ここで、私は…。」
「独立する。」
そう決意した、春日井の声を階段を駆け上がってくる音が上書きした。
そこには、息切れした、日進。
日進「やるなら、僕も混ぜてくれよ――僕も、ここで今!」
「名古屋から…独立するッ!」
名古屋「独立には痛みがつきものだよ。それでいいなら、『独立戦争』だ。」
名古屋が指を鳴らすと、舞台が変化した。
春日井郡「日進くん、やろうか。」
日進「おう。よろしくな、春日井。」
春日井郡「なら…」
日進「反名同盟だ。」
名古屋「ねぇ…君たちがノコノコ決意を固めている間に、ヘイスト詠唱が終わったよ…」
『ヘイスト:政令指定都市』
――言い終わるのが早いか。瞬きをする間に、シュバッという風の切れる音とともに、名古屋は、眼の前から消えていた。
名古屋「ふっ…後ろを取るのも軽いもんだな…『超電導』」
春日井郡「早いけど―見えてるよ。『仙人掌妙技:大型宝剣』」
春日井が振るった宝剣は、名古屋を正確に捉えたが、さすが王者というべきか、軽く躱してみせた、が、体勢が微かに崩れた、その瞬間を狙って。
日進「ここで――僕が勝利に導くッ!『岩崎城・丹羽氏重』」
日進が放った一撃は、名古屋に命中した。
日進「――痛っつ…」
血が、ぽたり、と床に落ちる。
指が二本――消えている。
けれど。
日進「……当たっただろ。」
歯を食いしばりながら、笑う。
名古屋「ふう…ギリギリで防御技を固められたよ…少し食い込んだが…ん?」
自分の体に刺さった“指”を、興味深そうに抜く。
名古屋「ギリギリで防御するとこんなカウンターも加えられるのか…ふぅん。」
くるり、と”その指”を指先で弄ぶ。
春日井郡「このままでは戦えない…不完全にはなるが…」
春日井郡「『仙人掌妙技:多糖類傷癒』」
千切れたはずの指が、ゆっくりと、ぎこちなく形を取り戻していく。
まるで――
乾いた大地に、水が染み込むように。
日進「ありがとう。春日井。」
日進が何気なく口にしたその感謝の言葉は、春日井の心を震わせる、何かの、力があった。
春日井は、意を決したように、名古屋に向き直った。
春日井郡「名古屋、もし、私が春日井市内にいるすべての名古屋通勤者を抹消したらどうなると思う?」
名古屋が、ピクリと眉を動かす。
春日井郡「名古屋も同じだよね、ベッドタウンがいないと、都市機能が、止まる。」
名古屋「何が言いたい?」
名古屋の瞳は、揺れていた。
春日井郡「お互いがお互いに依存する関係は良くないと思う。」
名古屋「……依存、ね。」
小さく笑う。
名古屋「君たちは、それを“悪”だと決めつけるのか。」
一歩、前に出る。
その足取りは、変わらず軽い。
名古屋「人が集まる。機能が集まる。富が集まる。」
――それを“中心”と呼ぶんだよ。
静かに言い放った。
名古屋「そして周りは、それに“寄る”…それの何がいけない?」
名古屋「『有松・鎖絞』」
日進「かっ…身体が重い…」
名古屋「動くな、俺はお前らを殺さない。俺は、現代に、封建制を復活させるんだ。従いなさい、」
「―――俺に」
あたりが重い空気に浸された。
日進「……違うな。」
重い鎖の中で、ゆっくりと顔を上げる。
日進「それ、寄ってるんじゃない。縛られてるんだよ。」
日進「だから、だからこそ!僕らは、独立を決意したんだッ!」
日進の鎖が、融解し始める。肌が灼けるように熱い。
日進「東郷、お前の覚醒形態、俺が、継承するッ!【愛知郡覚醒ッ!】」
日進の鎖が解き放たれた。
背中には、春日井を思わせる大きな羽が生えていた。けれどその羽は、春日井のものより少し幼く、赤みを帯びた紅葉のような色をしていた。
名古屋「フッ…面白い。全力で行こうじゃねぇか…。」
瞬間、日進の瞳が鋭く光った。
愛知郡「愛知郡共通技――『年魚市潟・泥海の呼び声』」
次の瞬間、潮の香りがした。
濃厚で、湿った、伊勢湾の底から這い上がってくるような、生臭い潮の匂い。
地面が、音を立てて溶けた。
タイルも、石畳も、城の床も、すべてが一瞬で深く重い沼地へと変わる。黒く粘つく泥が、容赦なく名古屋の足を飲み込んでいった。
名古屋「――っ!?」
藻掻けば掻くほど、体は深く沈む。
まるで生きている沼のように、泥が這い上がり、足首、膝、腰を確実に絡め取っていく。
名古屋「この技……っ、沼を……呼んだのか……!」
羽を持たない名古屋は、逃げ場を失っていた。
必死に浮かび上がろうとするが、泥は執拗に彼の体を引きずり込む。
その光景を見下ろしながら、日進は静かに、しかしはっきりと言った。
日進「……ここまでか?名古屋。」
名古屋の胸まで泥が達した。
名古屋「……なるほど。俺も……ここで終わりか……強かったな、お前らも……」
最後の言葉を言い終える寸前、
名古屋の口も、黒い泥に沈んだ。
その口は…いや気のせいだろうか…でも確かに。その口は…
———笑っていた。
下に続く
下に続きます




