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ゾンビが溢れかえった世界でのんびりスローライフに挑戦してみた  作者: アルシャピン


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34章 遠征3日目⑥

その瞬間、佐藤が大量の感染者を引き連れてこちらへ走ってくる姿を見て、俺は一瞬だけ現実感を失った。

まるで昔、テレビのドッキリで見た“100人隊”みたいだな、と。

そんな場違いなことが、ふと頭をよぎる。

……いや、本当に一瞬だけだ。

もう色々ありすぎて、脳がショートしかけていたのかもしれない。


それでも――佐藤が生きていてくれた。

それだけは間違いなく吉報で、本当に嬉しかった。

だが、喜んでいる暇はない。

この状況を打破しなければ、今度こそ全員まとめてお陀仏だ。

俺は鈴木を見る。


「走るぞ!」


事前に、感染者が戻ってきた時のために逃走経路だけは確認しておいた。

鈴木は即座に頷き、佐藤を待たずに走り出す。

佐藤も気づくはずだ。

こっちに逃げ道があることを。


目指すのは、ホームセンター入口の真正面側。

このホームセンターにはカフェが併設されていて、そこにはカフェ専用の出入口がある。

さっき少し探索した時に、その出入口が使えることは確認済みだった。

俺たちは走りながら、佐藤にも手で合図を送る。

その際、あえて棚の多い場所を通るように進路を取った。

少し遠回りにはなるが、その分、感染者全員が一直線について来られない。

棚や通路の狭さで流れが乱れれば、追ってくる数を多少は絞れる。


それでもまだ何十体、いや百は超えているだろう走る足音。

そして棚にぶつかり、商品が弾き飛ばされる音。

ガタガタと崩れる陳列棚の音。

振り返らなくても分かる。

あの数は洒落になっていない。


そして俺たちはなんとかカフェにたどり着いた。

そのまま専用出入口から外へ飛び出す。

出た先は町の大通り沿い。

開けた空間に出たことで、ほんの少しだけ息がしやすくなる。

だが、安心などできるはずもない。

そのまま俺たちは走り続ける。

佐藤も少し遅れながらカフェから飛び出してきた。

だが、その直後――カフェの出入口に感染者たちが押し寄せ、凄まじい衝突音が響く。


ドンッ!

ガンッ!

バキバキッ!


押し合うようにして何体かの感染者が出入口から外へ飛び出し、そのままこちらへ追ってくる。


「佐藤、こっちだ!!」


俺は叫ぶ。

佐藤がこちらについてきていることを確認しながら、そのまま大通りを走り抜ける。

その時だった。


バリンッ!!


背後で、甲高い破砕音が響いた。

思わず振り返る。

カフェの大きなガラス窓を突き破って、大量の感染者が雪崩れ出してきたのだ。


「くそっ……!」


このまま追いかけっこを続けていたら、完全にジリ貧だ。

正直、俺たちももう限界に近い。

だが感染者にはスタミナという概念がない。

見失うまで走り続ける。

たとえ足がもげようが、体が壊れようが、お構いなしだ。

しかも、この先に逃げ道がある保証もない。

町の探索はほとんどできていないのだから。

その時――


「二人とも、こっちだー!」


佐藤が大声で叫びながら、向かう先と違う道の方向を誘導している。

何か逃げるあてがあるのかもしれない。

正直俺たちが今向かっている先に逃げ場はない。

ならば佐藤に賭けるしかない。

俺たちは佐藤を追った。


しばらく走りその先に見えたのは、先ほど俺たちが死に物狂いで逃げ出したあのスーパー。

そして、そのすぐ横には――自衛隊車両。

逃げる時にあったか・・?

見覚えはないが、当時見る余裕もなかったのが事実だ。


車両は見た感じでは、大きな損傷はない。

だが、本当に動くのか?

そんな疑問が頭をよぎる。

しかし、考えている時間はなかった。

俺と鈴木は佐藤の方へ走る。


「動くのか!?」


俺が叫ぶと、佐藤は短く頷いた。


「俺がここまで乗ってきたんだ。行けるはずだ!」


乗ってきた・・・??

だが今は突っ込む時間はない・・。

佐藤の言葉を信じ、俺たちは一気に車両へ駆け寄り、全員で飛び乗った。

運転席が前にあり、後部は隊員たちが乗るための荷台になっているタイプだ。

俺と鈴木はその荷台に飛び込む。


その時にはもう、感染者がすぐ背後まで迫っていた。

俺は荷台から運転席を叩く。


「佐藤! 早く出せー!!」


次の瞬間、エンジンが唸りを上げた。

車体が震え、タイヤが地面を噛む。

間一髪、車両は走り出す。


だが――遅かった。


二体の感染者が車体にしがみついていた。

引きずられながらも、執念深く車体をよじ登ろうとしてくる。

俺はバットを構え、全力で振り抜いた。


ゴッ!!


一体はそのまま弾き落とされる。

だが、もう一体がなおも這い上がろうとする。

その先に鈴木。

やばい、ワンステップ間に合わないーー

その時――


「しつこい!!」


鈴木の鋭い声が響いた。

次の瞬間、顔面へ一直線に前蹴りが叩き込まれる。


ドゴッ!!


強烈な蹴りが感染者の顔面にめり込み、そいつは鈍い音を立てて後方へ転げ落ちた。

俺は思わず鈴木を見る。

……凄まじい蹴りだった。

あれはもう、極真とかで見る“殺す前蹴り”の類じゃないのか。


「実は私、空手やってたので・・この状態なら使えるかなって・・」


鈴木は少しはにかみながら答えた。

……よし。

鈴木は怒らせないようにしよう。


というか、そういうのは早めに教えてほしかった。

もっとも、格闘技は感染者相手だと役に立たないことも多い。

爪や歯が接触した時点で感染の危険がある以上、基本は長物の武器が有利だ。

今のような状態で相手が反撃できない時なら有効打を与えられるが、通常肉弾戦はおすすめしない。

ただ――俺だったら武器を持っていたとしても、鈴木には前蹴りで普通に倒されそうだ。。


そんなことを考えているうちに、車は感染者を振り切り、町の片隅へと滑り込むように進んでいった。

やがて佐藤は車を止め、運転席から降りる。


「田中さん、鈴木……生きていて良かった。積もる話はあるが、まずは町から脱出しよう」


「ああ。俺も佐藤が生きていて嬉しい。脱出は分かるが……車でそのまま行かないのか?」


道はまだ先へ続いている。

車があるなら、もう少し感染者から距離を取れるはずだった。

だが佐藤は首を振る。


「この先の道は車が横転してて通れない。そこで止まっていたこの車両で、ここまで来たんだ。

それに、村へ帰るにはこのルートだとかなり遠回りになる。

だから、ここからは登山道に向かう。

ただ……今日は、この先にある町はずれの家で一泊した方がいい」


確かに、時間はもう間もなく15時。

このまま登山道に入るのは危険だ。

暗くなる前に安全な場所を確保するべきだろう。

俺は佐藤の意図をすぐに理解し、黙って頷いた。


そのまま俺たちは、佐藤の先導で一軒家を目指す。

歩いている間、無駄な会話はしなかった。

色々と聞きたいことは山ほどある。

だが、まだ気を抜いていい状況じゃない。

周囲を警戒しながら、足音を抑え、息を潜めて進む。


二十分ほど歩いただろうか。

町の感染者は、本当に全員スーパーかホームセンターに引き寄せられていたのかもしれない。

町はずれの一軒家に着くまで、一体の感染者にも出会わなかった。

到着した家の周囲をまず確認する。


窓。

裏口。

物置。

庭先。

異常なし。


玄関に手をかけると、鍵は開いていた。

聞けば、ここも以前、佐藤が村を目指す途中で利用した場所らしい。

中にも感染者はいないようだ。

一軒家に入り、ようやく一息つく。

張り詰めていた緊張が、そこで少しだけほどけた。

そして三人で、がしっと腕を組んだ。


「生きていて良かった。

あの後、田中さんたちが死んだかもしれないと思いながら、ここに向かうのはメンタル的にやばかった」


佐藤が笑いながら、少し涙ぐんだ声で言う。

鈴木も目を潤ませている。

俺は……泣けなかった。

だが、嬉しいものは嬉しい。


「いや、こっちのセリフです!

佐藤さんが生きていて、本当に良かったです。

あの後、大変だったんですよ!」


俺が言おうとした事を鈴木が食いつくように言う。

まあ、確かに大変だった。

本当に。

何度か死を覚悟した。

俺たちは少し振り返るように、佐藤と別れた後のことを話した。


「ところで佐藤、なんであんなに感染者を引き連れてきたんだ?」


俺は少し冗談めかして聞いてみる。


「まあ、車両が原因だとは思うが……そもそも、なんで車両で町まで来たんだ?」


佐藤は苦笑しながら肩をすくめた。


「いや、町はずれで乗り捨てようと思ってたんだ。

でも、町に感染者の気配がまるで感じられなかった。

だから行けるところまで車両で行こうとしたら……あのスーパーから大量に溢れ出してきたんだ」


「だろうな……。佐藤、それは俺たちのせいだ」


俺はスーパーでの経緯を説明した。

あの大量の感染者を、どうやって集め、どうやって命からがら逃げたのか。

佐藤は目を丸くした。


「マジか! よく生きてたな……」


驚きを隠せないようだった。

だが、俺たちからすれば、あの状況からホームセンターまで無事に来た佐藤の方がよほど異常だ。


「田中さんたちは先にホームセンターにいたが、物資は確保できたのか?

もし俺のせいで回収できていないなら、もう一度戻る必要がある。

その場合は、俺一人で――」


また佐藤が一人で抱え込もうとし始める。

俺と鈴木は顔を見合わせ、同時にサムズアップした。

その光景を見て、佐藤はようやく胸を撫で下ろす。


「良かった……。

正直、あの地獄にもう一度戻りたくはなかった」


佐藤が苦笑しながら言う。

その言い方が妙に実感こもっていて、俺たちは思わず少しだけ笑った。


「ところで、俺たちとはぐれた後、どうやって生き延びたんだ?」


俺は純粋な興味から聞いてみる。

佐藤は「じゃあ少し、俺の話を聞いてくれ」と言い、静かに座り込んだ。

時間はまもなく夕暮れ。

周囲に感染者の気配はない。

家もしっかりした造りで、大声でも出さない限り音が外に漏れることはなさそうだった。

それでも俺たちは本能的に声を落とす。

そして佐藤は、小声でゆっくりと話し始めた。

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― 新着の感想 ―
男性だけしかいなかったので気づいていないのかもしれませんけれど、女性が加入したことで生理用品が生活必需品として必要になってきますね。
まってた!
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