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奇怪怪々浄化奇譚  作者: 七尾 一場
第1章 黒い会社
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第13話 結末の先

 彼女の体が消えていく、光に包まれ、光が空へと散っていく。


「先輩、本当にありがとうございました」


 空へと還る笑顔の彼女を、繋いだ手を伸ばしながら見届ける。そうして、彼女の光はシャボン玉と共に空へと消えていった。既に空は夕日に染まっていた。


「俺は、本当に田辺さんのために何かできたのか……」


 茜色の空を見上げ続けながら呟く。彼女のために、他にもっと何かしてあげられたのではないか。そんな疑問が胸を掴んでいた。


「ちゃんとしてあげられただろ」


 いつの間にか、二人が側に立っていた。


「宮地さんは、最後に田辺さんの呪いを解き、現世へのしがらみを断ち切ってあげたんです。もうこれ以上はないほどに、完璧な終わりだったと私は思いますよ」

「二人とも……。そうか、そっか」


 屋上に新しい風が吹き込む。その風は俺達の髪を靡かせた。一抹の寂しさを抱えながらも、その心に黒い靄はなく、夕日のような哀愁と光が宿っていた。


「そんで、アンタはこれからどうするつもり?」

「え、俺?」


 天寺くんは呆れた顔を浮かべる。


「そーだよ、アンタあの人と約束してただろ? 本当に幸せだと思える生き方をしろって」

「あ……」

「このままこの会社で死んだように使い潰されるか、違う生き方を見つけるか。それが出来るのは、今を生きるアンタしか選べないんだぜ、宮地さん」


 眩しいほどの夕日が俺達を照らしていた。



 星が瞬き始め、街の明かりが灯る夜。とある事務所の一室に、三人の人物がいた。一人は事務所の席に腰掛け、二人はその机の前に立っている。


「てなわけよ、だから今回は俺達が直接根源を祓ったわけじゃねぇんだわ」


 颯太達からの報告を受け、席に腰掛けている男は興味深そうな顔を浮かべる。


「なるほどねぇ……。宮地桔平さん、一般人である彼が、今回の根源を祓った。とても興味深い人だね」


 男はどこか嬉しそうにも見える。一方、颯太はというと、報告を終えるなり、そのまま来客用のソファへドカリと腰掛けた。そんな様子を見て、男は微笑む。


「三人とも、今回もお疲れ様でした。疲れたでしょうし、少しお茶にしようか」


 男は席から立つと、手際よく三人分の紅茶を用意していく。そんな男の様子に、「手伝うよ」と言いながら、歩み寄るもう一人の人物。


 その人物は、長い髪を緩く一つに結び、白いワイシャツに、少しサイズの大きいベージュのカーディガン、下はジャージを履いており、長いのか足元を両方とも捲っていて、動きやすそうなスニーカーを履いていた。


「疲れてるだろう? そこのソファで休んでいて良いよ」

「いや、俺は今回何もしてないし、大丈夫だよ」

「そんなことないさ、君も立派に仕事をこなしていますよ。りん

「本当に今回は何も。口出しもしなかったし、ただ居ただけ。頑張ったのは清珠だ」


 清珠と瓜二つな少年、凛は淡々と事実を述べる。そんな凛の様子に、男は少し困ったように眉根を下げた。


「そんな寂しいことを言わないでくださいよ」

「事実は事実だし」


 そんな二人には目もくれず、颯太は自身のスマホでゲームアプリを開きながら話しかける。


「でもよ、夜になる前に片付いて良かったよな」


 その言葉に、凛は同意する。


「清珠と交替して俺が現れたら、余計に場を混乱させただろうしな。夜になる前に終わって、本当に良かったよ」

「俺はパニクる宮地さん見たかったけどな〜」

「お前なぁ」


 二人が何だかんだと話している内に、男はお茶の準備を済ませてしまった。


「はい、お茶の準備ができたので、凛も座って座って」

「あ、いつのまに」

阿李屋(ありや)さん、あざっす」


 阿李屋と呼ばれた男は、にこにこと三人分の紅茶とケーキを乗せたトレイを運ぶ。


 少し不服そうな凛も、颯太の隣に腰掛けた。阿李屋は二人と向き合うように座る。


「美味そ、俺チーズケーキもーらい」

「俺、チョコ」

「じゃあ私はショートケーキにしようかな」


 各々が紅茶とケーキを堪能しつつ、颯太が阿李屋に尋ねた。


「でさ、阿李屋さんどうすんの?」

「はい?」


 阿李屋は苺を運ぶ手を止めて、颯太を見やる。


「宮地桔平のこと、このまま放っておく、なんてことはないだろ?」

「あぁ、そのことでしたか。勿論」


 阿李屋はポケットからスマホを取り出して見せる。


「しっかり、調査していただきますとも」


 とてもにこやかな阿李屋に、二人は顔を見合わせる。


「あの時、こっそり宮地さんのスマホ盗み見といてよかったよなぁ」

「幸いなことに、ロックされてなかったし」


 これから先、果たしてどのようになるのか。近い未来に備えて、二人は目の前のケーキを口に運ぶのだった。

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