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虚空史記2 -冥之上編-  作者: 九綱 玖須人
風吹く鄙の珠の巫女
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風吹く鄙の珠の巫女3

 男の問いに対して土の精隷(せいれい)は何か考え事をするように首を左右に(かし)げた。


 何故喋れるのかと聞かれても答えなど知るわけもなく、しかし思考の中から(かい)を得ようとして黙る。


 ()という概念がない精隷はいつまでも黙る。


 有限の時を生きる人は返答を待たずして次の問いを投げかけた。


「めいのかみ、とか言ったな。かみとは(かみ)のことか」


「なにがだ」


「かみとは上人(かみびと)の意味かと聞いている」


「かみびとじゃない、冥之上(めいのかみ)だ」


「…………」


冥之上(めいのかみ)だ」


「……栖鴬(スオウ)だ」


「なにがだ」


()が名だ!」


 対話出来ているようで妙なずれがある。


 栖鴬(スオウ)と名乗った若者は目頭を押さえながら大きく溜め息をついた。


 やはり所詮(しょせん)は人ならざる者か。


 しかしはぐらかしたりはせず素直に答える手合いであることは分かったので男は奥の洞穴を精隷ごしに見ながら再び口を開いた。


(なれ)は聖域の主か」


「冥之上だ」


「それはもういい。聞け、冥之上。(なれ)は何が為に()が前に姿を現した?」


(なれ)に用はない。冥之上の(さだ)めは(たま)の巫女の持つ勾玉(まがたま)(たば)り受けること、それのみ」


「……なんだと? 何故()なる定めにある」


闇女上(くらめのかみ)の意志だ。昊之上(こうのかみ)の封印が解けようとしている。再び封印するには珠の力を一つに集めねばならない。だから冥之上はここにある。珠の巫女に一番近い気穴(きけつ)にと送られたのだ」


「どういうことだ。土の精隷ごときが闇女上に遣わされただと? 昊之上が目覚める? 珠の巫女の力を集める? わけが分からない。(なれ)は何者なのだ」


「冥……」


「それはもう聞いた」


「…………」


「なんだ」


(なれ)は珠の巫女か?」


「阿呆か」


 (らち)が明かないので栖鴬(スオウ)は冥之上を連れて下山し(ひな)の長老に合わせる事にした。


 経験に富む老人(おいびと)ならば年若い(おのれ)よりもきっと巧みに言葉を交わすことが出来るだろう。


 精隷の言葉に若者は混乱する素振りを見せたが実は色々と思い当たる節があった。


 だから彼は今、人の縄張りを超えて夜の深山にいるのだ。


「珠の巫女に会いたければ()に付いてこい」


「分かった」


「いやに物わかりがいいな。疑わないのか」


「何をだ」


「……はあ、もういい。(なれ)と話しているとものすごく疲れる。さあ、焚き火の元へ戻るぞ。一夜明かして明日の朝に私の(ひな)に行こう」


「一夜明かす必要などない」


「ある。今から戻っても皆寝静まっている」


「何故だ」


「うるさいっ、そういうものだからだ」


「おお」


「ならば何故栖鴬(スオウ)は一人このような山の中にいたのかと、聞け」


「どうでもいい」


「…………。いいか冥之上、獣は夜に栄える。なれば大きな主も出よう。(しし)は馳走だ。祝事(ほぎごと)に欠かすことは出来ない」


「どうでもいい」


「少し前の月の見えぬ夜に()(ひな)において夢枕に導祖(どうそ)が立つを見た者がいる。導祖は光る物を手にしていてその者の(はら)にそれを埋めたそうだ」


「む、それは」


「どうでもいい、じゃないのか。人の話は聞くべきだと分かったか」


「分かった」


「良し。()は祝事の肉を得るために山に入った。こと、(ぼう)の月に祝事の支度を揃えるのは縁起が良い故にだ。口惜しくも肉は得られなかったがな。なれどもそれより大きなものを得られたから良しとすることにしている」


「何を得た」


「縁だ」


「えにし?」


「冥之上よ。汝の探す珠の巫女とは()(いも)だぞ」


「そうか」


「……勿体つけて話したというに。なんだお前は。冥之上だ」


「めい……そうだ」


 焚き火に戻った栖鴬(スオウ)は横になりながら冥之上を見ていた。


 冥之上は興味深そうに熾火(おきび)の中に手を突っ込み(まき)を拾っては()べ戻してを繰り返していた。


 精隷は眠る必要がないようなので番をさせていればいい。


 果たしてしっかりと務めるかは疑問だが若者はさっそく微睡(まどろ)んでいた。


 奇妙な連れ合いである。


 少なくとも気の向くままに辿ればいずれ巫女の元へ着いたであろう冥之上にとっては同行する必要などなかった。


 だがこの出会いは後の両者に大きな影響を与える事になる。


 そのような事など今はまだ互いに知る由もなかった。

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