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49 竜の山(2)



 しばらく引かれていくうちに傾斜はなかなかの角度になっていた。


 フックのかけられた籠はギリギリと音を立て、いくら頑丈そうといえ心配になる。

 ようやく暗闇の先に明かりが見えてくる頃、ゴギョウは帰りにはこの坂道を一気に下っていくのかと別の心配もしていた。

 まさにジェットコースター。絶叫ものは得意ではない。




 籠が外に引っ張り出される瞬間、何があるのかわからないので警戒をしながら少しだけ身を屈める。





 暗い建物の中だろうか。

 木枠と石を敷き詰めたような壁。硬い土のような床。

 ロープの先は大きな、奇妙な箱に吸い込まれている。その箱からは太い柱が生えていて、暗闇の天井に伸びている。

 先ほどまでの肌を刺すような、湿った冷たさは消え、今度は乾燥した冷たさになった。


 


 仕組みはよくわからないが、あの箱の中でロープが巻き取られて籠はここまで登ってきたのだろう。

 建物の出入り口らしき場所の側にはどこか見覚えのある大きなレバーが地面に突き立っていた。


 しっかりと警戒をしながら外を覗くゴギョウ。

 頭半分だけを出して辺りを窺う。

 ゴツゴツと大小の岩が転がる景色。遠くは霧のような、白いモヤでよく見えない。

 生き物の気配は無いようなのでそっと外へ出てみる。


 建物は外に、上に続く階段があり、いきなりここから離れてしまうのもどうかと考えたゴギョウは階段を上って見ることにした。


 古ぼけた木製の階段は踏むだけでギイ、ギイ、と音が鳴る。

 建物は四角い塔のようで、天辺は見えないのでなかなかの大きさだと思われた。


 四角い塔の外周をぐるりと回るように階段を上るとそれなりの高さになり、少し怖い。

 左手を壁に触れながら反時計回りに登っていく。

 古そうな木製階段だがしっかりと塔に固定されているようで、抜けたり崩れたりはしなさそうだ。

 

 三度角を回ったところで階段は途切れ、塔の中へ続く穴が開いていた。

 奥には明かりがあるようで、ゴギョウは一歩、中へと踏み込んだ。



「ああ、またかい…。今日は多いねえ…」


 女の声。

 ポツリと、まるで独り言のような風に聞こえた声とともにゴギョウ目掛けて何かが飛んできた。


 パァン!と弾けるような音がゴギョウの目の前で鳴る。

 いつものように古竜のスキルの壁に阻まれたが突然の衝撃音に、ゴギョウはいつものように「ひいっ」と情けない声を出した。


「…おや、あなた…生きてるのね…?」

 


 奥の方、明かりの部屋からのそりと出てきたのは大きな猫。1メートルはあろうかという体の、ふさふさな猫。


 少し茶ががった、グレーのような美しい長毛。黄色く輝く瞳。足は太く、尾の短い大きな猫であった。


「猫が…喋った…!」


 ゴギョウは腰の引けたままの格好で驚く。


「ふうん、さっきのおかしな音がしてたけどあなただったのかしら…」


 大きな猫は舐めるようにゴギョウを見つめ、


「こっちへいらっしゃい、あなた、悪い人じゃなさそう」


 つい、と顎で部屋の奥をさして大きな猫は奥へと入っていった。



 少しの間ポカンとしていたゴギョウだが、


「…まあ、喋るネズミもいるんだし…猫も…まあ…」


 右手に握りしめていたショートソードを鞘に戻し、猫の消えた部屋へと入っていった。




 

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