50 竜の山(3)
部屋へと入るとそこは、正面には大きな木枠の窓、古そうなふたつの机にいくつかの木箱。部屋の角にはこんもりと布が積み重なったベッドがある。
角の机の上には年季の入った金色のランタンがあり、それには煌々と光が灯り部屋を照らしていた。
木枠の窓は締め切られていた。そして、おそらくはランタンのおかげなのだろう、部屋の中は暖かく快適に感じた。
大きな猫は部屋の中央にある机の上に登り丸くなった。
頭だけを持ち上げゴギョウに視線を送る。
「適当に座って頂戴」
「適当に…」
ゴギョウはアイテムストレージからキャンプ用の背の低い椅子を取り出して大きな猫から少し離れて腰を下ろした。
それを見る大きな猫の目は細められ、何か納得がいったように小さく頷いた。
「さて…私はシャギア…竜の使徒…」
「竜の使徒…?」
「ええ…竜の使徒…、に育てられたただの猫よ」
「いやいや、ただのって」
「ンフフ…ちょっとだけ大きいかしらね…あなたは?」
「あ、はい。ゴギョウといいます。怪我を治すポーションを探してたらここまできてしまいました。」
「あら、あなた、怪我なんてしてるの?」
「いえ、僕はもう治りました。ここに来る前、地下?でポーションを手に入れたので」
大きな猫、シャギアはゴギョウをじっと見つめ何かを考えているようだ。
「あなた、魔法は使える?」
「魔法?いいえ、使えませんが…」
「ふうん、そう…そうなのね…」
ゴギョウのステータスにMPという表示はあるのだが、どうもそれの使い方がわからないし、ここに来る前に他の転移者からも使えるだなんて話はなかった。
「…ひとつ、お願いがあるのだけれど…」
突然シャギアは話を変えてきた。
「お願い、ですか?」
「ええ、私と一緒に行って欲しい場所があるの」
ゴギョウのアイテムストレージにあるヒールポーションを毒の沼地の拠点にいるお姫さま、オームに届けてあげたいが…。
とくにそこまで大急ぎなわけではないが早いに越したことはないだろう。
しかし、ここはどこかの山の上。帰るには山を降りて地下を行き、監獄のダンジョンをぬけて、さらにひと月以上かけて沼地を進まねばならない。
そう考えるとのんびり冒険なんてしている場合でもないのかもしれないが。
「きっと、あなたにとっても良い話になると思うわ…例えば、どこかに早く帰ることができるようになったり……どうかしら?」
「えっ、本当ですか?…それなら、はい。お付き合いしますよ」
目の前にいるのは只者ではなさそうな大きな猫。先程は魔法のことを口にした。
きっと、思いもよらない方法があるのかもしれない。魔法で瞬間移動的な。
それにシャギアからは敵意や悪意も感じられず、とても優しそうな空気が漂う。完璧に信用、とまではいかないが疑ってかかるような相手でもない気がする。
「ンフフ、うれしいわ、信じてくれるのね」
少し笑ったように見えたが猫の表情はわかりにくい。
「じゃあ、早速行きましょう。山の昼は短いの。暗くなってしまう前にね」
そう言って机から降りたシャギアはゴギョウの脇をすり抜け、先立って案内するよう部屋から出ていった。




