48 竜の山
階段の果ては奇妙な広場だった。
20メートルほどだろうか、円形のドーム状の広場で、壁には大人が三、四人立ったまま入れそうなほどの四角い穴がたくさん開いている。
穴の奥は暗く、その先がどうなっているかなど見えない。
さらに、中央には大きな籠がいくつかあった。
籠の目は小さく、何かはわからないが丈夫そうな植物で編まれているようだ。
籠の中には太い木の棒が中央あたりに固定されており、大きさは1メートルは超えてそうだった。
どれもくたびれて薄汚れているが破れたりしているものはなさそうだが、なぜこんなところにこんなものがあるのかさっぱりわからない。
いくつかある壁の穴を調べることにした。
奥に進むにつれて登っていくような傾斜になっていたがどこまで登っていくのかわからないのでとりあえず引き返す。
「もしかして、あの穴から籠が出てきたのか…?」
穴の中の傾斜を滑り台にここまで降りてきたのだろうか。
しかし、誰が?
そして降りてくるのはいいがどうやって戻ったのだろう。それとも一方通行で登ることはできないのか。
ふたたび籠のそばまで戻ってきてあたりを見渡すと、ふと気づいたことがあった。
穴から広場の中央に向けて、地面に真っ直ぐ伸びる線のような跡があるのだ。
籠に何かを載せて、もしくは人が乗って滑り降りてきたのは間違いなさそうだった。
「ということは、この跡がない穴は…」
籠をひとつ手に、線のような跡がない穴はと入ってみると、それはあった。
太いロープが垂れ下がり、その先に大きなフック。
フックを籠の棒に引っ掛けてみる。
「…で、どうするんだ?」
籠のそばでゴギョウは突っ立ったままそれを眺めてみたが変化はない。
「乗ってみるか?」
ぶつぶつ独り言を言いながら籠に入ってみる。あぐらをかいて棒を握ってみる。しばらく待ってみる。
………。
ゴギョウが乗ったことで体重がかかりロープがピンと張る。しばらくそのまま何も起こらなかったのだが、籠がロープに引っ張られ動き始めた。
ザリザリと籠の底を擦りながら少しづつ登っていく。ゴギョウは籠の棒をしっかりと握り籠に身を任せる。
30分は経っただろうか、ほとんど一定のスピードで引き上げられる籠は相変わらず、まだ引っ張られていた。
その間何もすることがないのですっかり退屈してしまった。
しかし、随分な距離を進んで、傾斜も随分と急になってきた。もしロープが切れたり、フックを引っ掛けた棒が折れたりしたら真っ暗な中をジェットコースターである。
ゴギョウは棒だけでなくロープの方もしっかりと握り「早く着いてくれ」と祈る。
視界は輝石の照らす範囲以外は暗闇そのもので、籠が擦れる音聞こえるばかりである。
ロープは相変わらずピンと張り、変化はない。
ゴギョウの祈りは虚しく、そこからたっぷり時間をかけて籠は引っ張られ続けるのだった。