46 ヒールポーション
赤い液体の小瓶は「ヒールポーション」。
緑色の方は「テリザの毒精」。
うん?ヒールポーション?
ポーションってIとかIIとか、そんな感じじゃなかったかな。
もっと詳しく聞いておけばよかった…。
それに、毒精ってなんだろう。危なくない?
しばらく放心したゴギョウは考えてもわからないと、あっさりと思考を放棄した。
先ほどまでの湿気で濡れた頭をガリガリとかいて木箱と白い布もアイテムストレージに放り込んだ。
淹れたての熱いお茶をすすり「ほうっ…」と大きなため息をついた。
ここは篝火のおかげなのか寒さもなく、久しぶりに落ち着ける環境だった。
食料もいくらかあるので今日のところはここで一休みとすることにした。
…どこかに「鑑定」なんてスキルを持ってる人か、ポーションに詳しい人はいないだろうか。
篝火の横にストレージに入れてあった石材を使って調理用の竈門をクラフトする。
木材を取り出し火をつける。
クラフトスキルで作った小さな鍋を置いて小さくカットされた毒沼の古竜の干し肉と少しの水、ここに来る前に水の街フローラでもらった芋みたいな野菜を入れてしばらく煮込む。
「ふへっ…」
鍋をかき混ぜながら美味そうな匂いがしてくるとゴギョウは(なんか冒険飯っぽくていいなあ)など考えて独りでニヤニヤした。
食事ができるのを待つ間アイテムストレージからキャンプセットを詰め込んだバッグを取り出して簡単なテントと寝床を用意する。
クラフトスキルを使い木材で木の棒をいくつか作り物干し台代わりに組み立てて濡れた服も干しておく。
くたびれた茶色の服を代わりに着て、毛布をマントのように羽織る。
辺りは水の流れる音とパチパチという篝火や竈門の木が燃える音だけで静かなものだった。
しばらくして鍋を火から下ろし、スプーンでスープをひと口。
「うん、うん!」
冷えた体に染みる、とはこのことで、干し肉の塩味とコクが腹の中から温めてくれる。
凝った味ではないがホクホクの芋と干し肉の歯応えも食い出があり疲れを癒してくれるような心地がした。
どんぶりほどの量をあっという間に平らげ、少し冷めたお茶を飲む。
多少汚いため息が漏れても仕方があるまい。
ゴギョウは今日も頑張ったのだ。
崩れた噴水で鍋やスプーンを簡単に洗い流しアイテムストレージに収納する。
服はまだ乾いていないのでそのままにテントに敷かれた毛布の上に座り込んだ。
「さて…」
アイテムストレージから赤色の小さなポーションを取り出す。
ヒールポーション。寒い中をあれだけ歩き回ってやっと見つけたのはたった三つ。
しかも名前付きの敵からのドロップ。水中監獄のダンジョンで、低レベルではあるがよく見つかる、なんで聞いていたのだが監獄を抜けた先、廃墟の街でやっと三つである。
効果を試すためにゴギョウはそれを手に持っているのだが、ポーションではなくヒールポーションである。
しかも数字はついていない。
まあ、ダメならダメでまだ探すだけなのだが。
ちょうどテリザの近衛騎士長との戦闘で転げ回り小さな打ち身や擦り傷もある。
これが低ランクのものでも全くの損ではないだろう。
あわよくば……、そう心にゴギョウは小さな瓶の蓋を引き抜き、一気に口の中に流し込んだ。