20.セリカ。私たちの最後の希望
「あんた、さっきから見てたけど、ちょっとひどいんじゃないの?確かに実力は認めるけど、あんたみたいな人には絶対に勇者の名前なんか名乗らせないんだから!」
それはセリカだけじゃなくて、ルイス以外の5人全員の気持ちだった。
だけど、今までのルイスの尋常じゃない戦いぶりを見るかぎり、いくらセリカと言えども勝ち目はほとんどない。
それはセリカ自身も十分に感じとっているらしく、構えた剣の切っ先が遠目に見てもわかるぐらいガタガタと震えている。
ルイスはなんの構えもせずに堂々とセリカの間合いの中に踏み込んで行った。
「どうしたの?そんなに怯えてたら僕は斬れないよ」
ルイスにそんな挑発をされても、セリカの震えは止まらない。
「セリカさん、頑張って!」
わたしは思い切り叫んだ。
まだダメージが大きくて苦しかったけど、正確なアドバイスすらちゃんと伝えることができないわたしに今できるのは、もはや応援だけしかないのだ。
「セリカさん、頑張って!」
今度はマリアちゃんがわたしと同じようにセリカの応援をしてくれた。
続いて、レミアちゃん、そして、プライドの高そうなエミュリさんまでもがセリカの応援をしてくれる。
だけど、完全アウェイになったはずのルイスはまだ余裕の表情。
それどころか、急に
「ふははははははは!」
と高笑いまで始めた。
とうとう狂ったの!?って思ったけど、どうやらそうじゃない。
「君たちザコの応援は、どうやらこの子には届かなかったみたいだよ。君たちと同じように、ボクにびびってお漏らししてるんだからね。いや君たちよりもっとザコかな。何しろこの子はまだボクと戦ってすらいないんだからね」
うそ・・・
「うそだ!セリカさんがあんたなんかにびびったりしないもん!おもらしなんかしてないもん!!」
わたしは力いっぱい叫んだ。
「漏らしてるかいないかは本人に聞いてみたらどうだい?ホラ、君も答えてやりなよ。ザコのお仲間に期待されちゃってるよ」
ルイスは余裕綽々。
それに対してセリカは涙目で何も言うことができず、ギュッと唇を噛みしめている。
ルイスはセリカの剣の間合いどころか、手が届く間合いまで平気で踏み込んでいったけど、それでもセリカは震えて攻撃できないでいる。
そしてルイスがおもむろにセリカの顎の先に指先を当ててクイッと引っ張って顔の向きを変えさせた瞬間、セリカの内股からツ~っとおしっこの雫がほとばしったのだった・・・。
セリカの装備はわたしの装備と同じだから、わたしにはわかる。
セリカは、今漏らしたわけじゃなくって、ルイスがああいう風に言った時点でもう漏らしていたんだ。
おしっこは鎧の中でじわ~っと広がっていて・・・。
それはセリカが既に、ルイスに戦う心を完全に折られてしまっていることを意味していた。
戦う心が折られれば、決して勝つことは出来ない。
つまり、わたしたちは一人一人が一度は味合わされた絶望に、全員が再び突き落とされた、ということでもあった。
私たちの最後の希望はもう、完全に失われたのだ。
けど、セリカはその構えだけは崩さなかった。
自分に勝ち目は全くない。
そのことは十分すぎるほど理解していたけれど、今かかっているのはきっと、ここにいる全員の命なのだ。
それを感じ取れたから、いくら心が屈していても、自分が逃げることなんて出来ないと思っていたんだろう。




