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最近、うちの執事様の様子がおかしいです。  作者: 芍薬
執事様と、婚活宣言
9/18

執事様、申し訳ないです。

 結論から言うと、予約が殺到する話題の肉料理の店には行けませんでした。

 何故かと言うと、嫁いだはずのお嬢様が突然里帰りをなさったからです。

 前触れも何もなし。……帰って来たお嬢様の顔を見れば、概ね何があったのかは分かりました。

 何しろ、目がキラッキラに輝いていましたから。

 大方、私たちのお見合い話でも聞き付けたのでしょう。


 婚家の紋章入りの馬車で屋敷の前に乗り付けたお嬢様は、馬車を降りるなり迎えに出た従業員一同を見渡し、まっすぐに私の元へやってきました。


「シエル! 久しぶりね!」

「お嬢様。まずは旦那様方に挨拶してください」

「まぁ、全然変わらないわね!」


 まあそれは、そうでしょう。

 お嬢様が嫁いでいって、まだ二週間しか経っていませんからね。


「シエル、ねえ」

「……お嬢様、奥様がお待ちですよ」

「ユーリウス。少しくらいいいじゃない」


 横から口を挟んだ執事様に、お嬢様が口を尖らせます。

 普段からふわふわしているお嬢様に、執事様が苦言を呈するのはいつものことです。そしてそれを私が宥めるのも。


「お嬢様。話は後で聞きますから、一度挨拶してきてください」

「絶っ対よ? 後で私の部屋に来てね!」


 足取りも軽くお嬢様が屋敷の中に消えていくのを見送って、小さく溜め息をつきました。

 ……今日の休憩はなしですね。


 ふと、隣に立つ気配を感じて見上げると、執事様がこちらを見下ろしていました。


「お人好し」

「……ユーリだってそうだと思いますよ」

「今日の約束は延期ですね」


 言われて約束のことに思い至りました。

 お嬢様は興味のある事柄をとことん追求される方です。終業後も、呼び出しされるでしょう。

 流石に居たたまれない気分になります。何しろ、予約までしてもらったわけですから。

 お嬢様に振り回されるのにはなれていますが、他人まで巻き込みたいわけではありません。


「すみません」

「いいえ。……貴方がそんな人だから、気になるのかもしれませんね」

「え?」


 途中からよく聞こえなかったので聞き返すと、執事様はフイと視線を逸らし「何でもありません」と言いました。

 言い直さないということは、大事な台詞ではなかったのでしょう。


 先に屋敷の中に入っていく執事様を見送り、私が持ち場に戻るべく歩き出すと、後ろから肩を叩かれました。

 振り返るとハーシーが呆れ顔で立っていました。


「シエル、バカなんじゃないですかぁ?」

「……ハーシー」

「今日の約束、実は結構楽しみにしていたじゃないですか」

「まあ、それなりには」


 バカですね、バカですよと憤りだすハーシーを宥めます。

 お嬢様に付き合うのが嫌な訳じゃないんですよ。……ただ日が悪かったと思うだけで。


 今日はきっと、興味津々のお嬢様に根掘り葉掘り話を聞かれるのでしょう。

 ……お見合いなんて名ばかりです。実際は会って少し話して終わりでしょうに。


 割と楽しみにしていた美味しいご飯と、楽しくない暴露話を天秤にかけてしまうと、虚しくなります。

 まあでも、仕方ないですね。私はいち従業員ですから、雇い主(含むその家族)の意向には逆らえませんので。

 執事様もたぶん、分かっているから約束を取り下げたのでしょう。


 小さく溜め息をひとつ。

 私の心から平穏な日々は、いつ廻ってくるのでしょうね。

 考えたらどつぼに嵌まりそうだったので、深く考えるのはやめにしました。

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