薬指
ずっとカーテンを閉め切っていた、でもじぶんは守られているという安心感があるわけでは全くなかった。
カーテンはただ私の心臓を蔽い隠しているだけ、私じしんの息で汚れた夜がそこに連続して記録されていくというだけ。分かってる。
この部屋のカーテンを私は閉めたままにしていたい。
窓から入る陽射しが、世界が、足許にも届かないようにしていたい。永久に。
ずっと内側にいたい、世界と関わりを持ちたくなんてない、ビルボード・ホット100から一番遠い場所で幼少時代の静けさに包まれたままでずっといたい。
穴があったら入りたい、最近私の頭が思い浮かべるのはそればかり。
もう子供ではない。そして全然大人でもない。
ご入学おめでとうございます、と口に出す人間たちが、もし、本心からそういっているのだとしたら彼らは全員悪魔なのだろう。でなければ説明がつかないじゃないか?
でも、昔からそうだったけれど、悪魔たちに対しては常に、どうして、と私はそれしかいえないのだった。何もいっていないのと一緒だ。
これは私の意思でしていること。私は私でいたくないから窓のカーテンを閉め切りにしていた、ここに朝の訪れが来ないようにと、カーテンを閉めていた。完全に。
片づけられる時をけなげに待っている皿たちの鼻唄が明け方は静かに痛かった、加えていえばそこには過去の失敗が皿に載るから、一旦そちらを見てしまえば合唱会に変わるのだった、だから目を向けないようにそろそろと暮らしている。
正常な朝、そして鳥たちの囀りは、まるで背後からやって来た理不尽な一撃ででもあるかのように私には感じられる。
知ってはいる、そういった正常な世界を少しでも理不尽と思うならば、それはその心に全ての原因があるんだということぐらい。そんなのは万人の知るところだ、私の心と体は病んでいる、それは間違いなくそう。
この街で私一人が病んでいるだけなら、この世の全てが間違っていると思えるのに。そうしたらこんな心なんてもの、紙片のようにただ丸めて屑籠に八つ当たりばかりしてい他責の男みたいに投げつけていたのに。
私は部屋のカーテンを開けたくない。けれども、それならこの手は何を求めるために今もあるっていうのだろう? 私はじぶんに問う。いつになったら?
じぶんのことなのに、私は私の正解を一つも見つけられないでいた。しかしそもそも一回でもそんな瞬間が来る時が私の人生にあり得るんだろうか? これまでのじぶんを思い返してみると、どこにいても私は正解を知りたくてそこにいたわけではないと感じる。必要だったから、小さな教室で手を挙げた脆い私がいた。
無音で、大人になってしまった今だからきっと、思うことがいくつかある。
じぶんに本当に必要な授業を私は受けた時はないのだと、いい切れる今がある。
手の中に入った刺を抜いている時間のためにあるような歌を私は教えてほしかった。それが誰であろうと構わなかった。何か一つでもいいから持たせてほしかったのに。
たとえ、この世界にある全ての歌は、私の心が凍えるために作られているようなものだったとしても。
俺たちは、お前のような人間が同じ街に生きているって思うと、かなり楽しくなくなる、と思われながらも、息をずうっとし続けていなくてはならなかった私。
ああ、私は本当に心から思う。いつになったら?
小さな私のテーブル。何かの証には到底ならない本棚。疲労困憊している読書灯。
表も裏もない。矛盾で満ちていて。剥がれ落ちているようなメッキすらなくて。
月と太陽。私のベッドからは星空ほどに遠いポスト。手が届く場所にたった一ついつもあるのはただ、涙。
音を立てて、薬指に落下し続けているそれは、じぶんで見ることができる、私のする選択の中で唯一透明な、涙。




